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2005年08月23日

Frank Brady『Bobby Fischer - Profile of a Prodigy』レビュー

 週末に松田聖子の古いドラマ『おとなの選択』をやっとPC録画できたと思ったのに、DVDに焼くために編集しようとすると、10話中2,6話の2つがなぜか30分でブツ切れになっていた(泣。そのために今月だけCSのTBSchに入ってるというのに。
 どうやら録画ソフトの録音ボタンを録音中に押すと30分切れタイマーになるためだと分かった。不調で1クリックがダブルクリックになることがあって困っているマウスとの組合せが、思いがけない惨事を引き起こしたらしい。
 一挙放送だから再放送はないし、今後またあるとしても、今回中途半端に途中回が抜けているのではDVDに焼けずHDDに入れっぱなしでは、次の週末にもう一つのドラマがあるから容量が足りない。マウスは分解してもどすだけでなぜか直ったが、今後は可能なかぎりショートカット機能を使ってやる。(長くなるので「前置き」次回に続く(汗)
 
 レビューしてないジャンルがまだあった。ゲーム集だ。昔から序盤に偏向したブックプレーヤーの私は、ゲーム集はほとんど持っていない。New In Chessだけは別だったが、それでも特定の序盤の研究を見るのが主で、誰それのゲーム集を並べるということは全くといってしなかった。
 
 未だに誰か特定のGMの序盤や棋風を参考にしようとか、私淑するということがない。そうすれば楽だとは思うが、自分に誰が合っているかはどの序盤が合っているのかと同じくらい難しい問題だ。
 逆に序盤が決まって自然とそれを指しているプレーヤーに習うことになるのが、むしろ自然だろう。私は古い一発狙いの序盤(はめ手)好きだったから、世界でも日本でも今流行の序盤というものには目もくれなかった。
 
 好きでも自分に合っていないという場合もある。フィッシャーに習ってイタリアンビショップ(Bc4)をできるだけ序盤に取り入れてきたが、彼のようにはうまくいかない。彼がこれで白よしとしている局面から指してもちっともよくならないのだ(汗。
 
 そういうわけで、今回は数あるフィッシャー本の中でもその原点、彼の子供のときから付き合いのあったフランク・ブラディーが詳細につづった伝記本"Bobby Fischer - Profile of a Prodigy"(『ボビー・フィッシャー−神童のプロフィール』)を紹介する。
 268ページまでが伝記で、途中には16ページの白黒写真(手書き棋譜、フィッシャーを題材にした風刺漫画を含む)があり、その後は'56-'72世界選手権までの90局がややシンプルに注釈され、トーナメント記録(星取表も)、総合索引と続く。
 
 フィッシャーに資金提供を持ちかけた縫製工場を経営するブランカーという人物が出てくるp.31から引用して訳そう。
 著者と母に連れられてブランカーに会いに来た14歳(!)の全米チャンピオン、フィッシャー少年は、ブランカーの法外な申し出を聞いていつものやんちゃぶりも影を潜めていたのだが…
 
"However, there's just one thing I'd like you to do. If I put up the money to send you to this tournament, and when you win and are interviewed by the press, or anybody, I want you to say: 'I couldn't have won this tournament without the help of Sam Blanker.'"
Bobby was on his feet immediately, seeming to have grown years in a moment. "I can't do that," he said evenly. "If I win a tournament, I win it by myself. I do the playing. Nobody help me. I win the tournament myself, with my own talent." And after we said our goodbyes we walked out of the office without another word.
 
 「だが、一つだけお願いしたいことがある。私の金で君がトーナメントへ行き、優勝してインタビューを受けたときにはこう言ってほしい。『僕が優勝できたのはサム・ブランカーさんのおかげです』とね」
 ボビーは即座に立ち上がっていて、その瞬間は何歳も大人びて見えた。そしてきっぱりと言った。「それはできません。僕がトーナメントで優勝したら、それは自分で勝ち取ったものです。プレーをするのは僕です。誰も助けられない。勝利は自分自身の才能で勝ち取るものです」。我々はブランカーに別れを告げた後、二の句も継げずにオフィスを後にした。

 日本で拘留という事件もあったから、これを読んで「ブランカーは善人なのにフィッシャーはなんて生意気なんだ」と思う人がいるかもしれない。実際、フィッシャーの語気は私の訳よりもっと荒かったと思う。
 とにかくこれだけは言える。ブランカーは、フィッシャーのトーナメント旅費に使うことを条件にアメリカ・チェス連盟に寄付すればよかった。それならだまっていても少しは名声が得られただろう。
 
 初版が'65年で、激動の世界選手権までをカバーするために'73年に改訂版まで出ているとはいえ古いのは致し方ない。文章は平易だが、チェスの技法書を読むのも一苦労という方にはお薦めできない。いずれ訳したい本(多すぎる)の一つである。amazonの在庫はあと2つ、早い者勝ちですよ(お。
Bobby Fischer: Profile of a Prodigy
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2005年08月19日

Jeremy Silman『How to Reassess Your Chess』レビュー

 郵送で届いたカード会社の案内を見ると、東京電力の支払いもできるようになったとある。ポイントがたまる方がいいので今の銀行からの自動引き落としから変更しようと思ったが、カードだと自動引き落とし割引50円がなくなるので、平均すると今のままの方が得だと分かった。やれやれ。
 
 レビューする順番というか流れとかを気にすると、どうしても同じ傾向のものが続いてしまうので、ジャンル的にはランダムに進めた方がいいだろう。というわけで今回はJeremy Silmanの"How to Reassess Your Chess"、真打ち登場である。
 本書は常にチェス書売り上げトップ10をキープするほどのベストセラーだ。改訂するたびにボリュームも増えて現在は第3版、用語集も付いているのになぜかうちの「チェス英日翻訳用語集」の参考にはまだ使ってなかった(汗。
 
 私自身も例会復帰後、今までちゃんとやってこなかったプラニングや戦略といった部分を強化するために春からちびりちびりと読んでいて、まだ2/3くらいだがひじょうに得るものは多かった。
 「チェス書レビュー」でレイティング200アップすると書いてあるのも誇張ではない。私も初版が出た頃に読んでいれば、今までずっとチェスを続けていたかもしれないほど強くなったかもしれないと思うくらいだ。
 
 では、この本を通じて現れるライトモティーフともいうべきimbalanceについて説明するp.27-28から引用して訳してみよう。
 
To define the word 'plan' does not necessarily mean that we know how to create one in an actual game. As Golombek said, this calls for the ability to recognize the existing characteristics of a position. To successfully penetrate into the mysteries of the chess board you have to be aware of the magic word of chess: IMBALANCE. An imbalance in chess denotes any difference in the two respective positions. To think that the purpose of chess is solely to checkmate the opposing King is much too simplistic. The real goal of a chess game is to create an imbalance and try to build a situation in which it is favorable for you. An understanding of this statement shows that an imbalance is not necessarily an advantage. It is simply a difference. It is the player's responsibility to turn that difference into an advantage.
 
 「プラン」という言葉を定義したところで、実際のゲームにおけるプランの立て方を身に付けたとは必ずしもいえない。Golombekが言ったように、ここで求められるのは、局面に存在する特徴を認識する能力である。チェス盤上の謎を看破するためには、チェスの魔法の言葉を知る必要がある。それが「インバランス」である。チェスにおけるインバランスとは、白黒の陣形間のあらゆる相違点を意味する。チェスの目的をチェックメイトだけと考えることはあまりに単純すぎる。チェスの現実的な目標は、インバランスを作り出し、それが自分に好都合な状況になるようにし向けることである。この文言から分かるように、インバランスは必ずしも優位のことではない。単なる相違点である。相違を優位に変換するのはプレーヤーの責任に委ねられる。
 
Here is a breakdown of the different imbalances:
1) Superior Minor Piece (the interplay between Bishops and Knights).
2) Pawn Structure (a broad subject that encompasses doubled pawns, isolated pawns, etc).
3) Space (the annexation of territory on a chess board).
4) Material (owning pieces of greater value than the opponent's).
5) Control of a key file or square (files and diagonals act as pathways for your pieces, while squares act as homes).
6) Lead in development (more force in a specific area of the board).
7) Initiative (dictating the tempo of a game).

 様々なインバランスを以下に挙げる。
 1) 優勢なマイナーピース(ビショップとナイトの相互関係)
 2) ポーン形(ダブルポーンやアイソレートポーン等を含む広範なテーマ)
 3) スペース(チェス盤上の領土併合)
 4) マテリアル(相手より価値ある駒を持っていること)
 5) 重要なファイルやマスの支配(ファイルやダイアゴナルは駒の通り道、マスは拠点となる)
 6) 上回る展開(盤上の特定領域において相手を上回る戦力)
 7) 主導権(ゲームの先手を取ること)
 
 9年間対局から離れていた私にとって本書は十分なカンフル剤になったが、一方で弊害も感じている。プラン、戦略、ポジショナルプレーに頼るあまり、「読み」がおろそかになって単純な見落としが増えたことだ。
 しかし、これは明らかに個人的な怠慢の問題だろう。Silmanもことあるごとに、「この局面はTacticsが支配的だからちゃんと読むしかない」等と注意を促している。
 
 タイトルのReassess「再評価」は、読者のプランの立て方を考え直そうという意味だと思う。ただ読んで手順の説明になるほどと感心するだけでもある程度の上達は見込める。問題数が物足りない人には姉妹編のワークブックもある。
 「読み」に自信がある人は、他のことは経験から学ぶだけで1800まで行けるのだと思う。そのへんで壁にぶち当たったときにこういう本が最適なのだろう。もちろん、中級にさしかかったという人すべてにお薦めできる優れた戦略指南書である。
How to Reassess Your Chess: The Complete Chess-Mastery Course
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2005年08月17日

Fred Reinfeld『1001...』x2レビュー

 1800クラスの人に対して毎回序盤を準備して例会に臨むが、たいていこちらの誘いには乗ってくれず、あっさりとラインを外される。そして、新たにプランを立て直さねばならない局面になると時間を浪費し、じり貧への道をたどってしまう。
 ソフトを使って分析すると、相手もけっこう緩手をさしているのだが、こっちのような大ポカは指さない。老獪なプレーヤーはこの我慢比べに強いのだ。チェスは「地味な手の積み重ね」には違いないが、緩手をとがめていかねば先は見えない。
 
 アーヴィング・チェルネフ本が続いたので、今回はそのライバル的なライター、フレッド・ラインフェルトを紹介しよう。ほぼ同時代に活躍した二人だが、ラインフェルトの方がプレーヤーとしては強かった。文体も、甘口のチェルネフに比べると辛口といえよう。
 ラインフェルトは、共著を含めると生涯で200冊以上もの本を執筆した。多くは初心者向けのチェス本で、河出書房新社の「チェス・マスター・ブックス」シリーズでそのうち2冊が訳されているが、他には諸科学の分野に関するものまで多岐に及ぶ。

 いちばん有名なのは2種の1001問題集だろう。私は翻訳対象にならないと判断して二つとも廃棄してしまったが、「チェックメイト」の方はほとんど解き、「サクリファイス&コンビネーション」は700問くらいまで済ませた。
1001 Brilliant Ways to Checkmate (Chess Lovers' Library)
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 この「チェックメイト」の方は、私の買ったときから表紙が変わっているが、amazonレビューによると製本の甘さは相変わらずのよう。しかし、1問1円強と思えば超お買い得だし、似たような問題が次々に芋づる式に解けていくのは快感だ。
 クイーンサクリファイス等テーマ別になっていて「いかにも」という問題を質より量で解いていくのも勉強にはなる。解答が完全じゃない、詰将棋のように無駄な合駒の受けを無視しているものがあるのは気になる。
 
 「サクリファイス&コンビネーション」の方は、現在マーケットプレースだけなのが残念だが、それでも安いから入手はしやすいだろう。ほとんどはピース得を目指す問題である点では易しいが、テーマが明示されているわりには難しいものもある。
 攻め合いや激しいゲームが嫌いで伸び悩んでいる初心者は、こういう本で開眼する必要があるだろう。チェスの目的はチェックメイト、それを実現するためには駒得する。この2つは戦術の基本なのだから。 
 
One Thousand and One Winning Chess Sacrifices and Combinations
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2005年08月13日

Irving Chernev「Most Instructive Games of Chess Ever Played」レビュー

 明日は松戸チェスクラブの例会の勉強会で、また発表する。今回の発表者は私だけのようなので、自分のへっぽこゲームばかりもあれだから、もう一つは今年の全日本選手権のゲームを斬ってみる。「切腹」になるかもしれないが(汗。
 
 なので今回はまたチェルネフ本を手っ取り早く紹介する。amazonレビューはカスタマーだけだが、3人書いているから参考になるだろう。やはりネックは英米式表記、安くて製本が丈夫なDoverだがそのへんを直す気はないらしい。
 では、序文から少し引用して訳そう。
 
(Irving Chernev "Most Instructive Games of Chess Ever Played: 62 Masterpieces of Chess Strategy" p.15)
The chess master knows which positions are favorable, and tries to bring these positions about. He knows that his pieces must be placed where they exert the utmost influence, and where they prevent the opponent's pieces from moving about freely. He knows that Rooks must seize the open files, with a view to gaining control of the seventh rank. He knows that Bishops must either command long diagonals, or else pin down and paralyze the opponent's Knights. He knows the squares on which his Knights must be posted to get a powerful grip on the position. He realizes the essential truth in Tartakover's epigram, " Seize the outpost K5 with your Knight, and you can go to sleep. Checkmate will come by itself." The chess master knows how to obtain a slight advantage, and then exploit it to the fullest. In short, he knows the strategy of winning.

 マスターは有利な局面を分かっていて、そういう局面になるように努めている。自分の駒は、最も威力を発揮し、相手の駒の動く自由を阻止する場所に置かねばならないことも承知している。ルックはオープンファイルを制圧し、7段目の支配をもくろむべきことも理解している。ビショップは、大ダイアゴナルを見据えるか、相手のナイトをピンで硬直させねばならないことも知っている。ナイトを置けば局面を強力に支配するマス目にも明るい。次のタルタコーワの警句が含意する本質も悟っている。「ナイトをe5(黒ならe4)に置いて拠点を制圧すれば、後は寝ていてもいい。独りでにチェックメイトになる」。マスターは、わずかの優位をひねり出す方法を習得していて、次にそれを最大限まで高める。要するに、勝ち方に熟練しているのである。
 
 よく英語は同じ語の繰り返しを避けるというが、逆にわざと繰り返す場合はいやになるくらいひつこい。へそを曲げて全部違う言葉にしてやった(笑。勉強会参加と見学は無料なので明日は「松戸チェスクラブ」例会にお越しください。 
Most Instructive Games of Chess Ever Played: 62 Masterpieces of Chess Strategy (Chess)
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2005年08月12日

Irving Chernev『Combinations: The Heart of Chess』レビュー

 ブログにアクセス機能があるかどうかも確認してなかったが、調べてみるとチェス関係者がほとんどのはずなのに80%以上がトップをブックマから見てくれているようでうれしい。リンクももっと増やすべきなのかなあ。
 その次にアクセスが多いのは、やはりメイン(というにはあまりにほったらかしの)HPのテーマでもある変身系だが、検索でたどり着いたケースでは「ニューハーフ」が4位、1位はなんと「水野優」だった。有名人みたい(笑。
 
 松田さんの本を読んでいるとチェルネフの引用訳が出てきたので、ちょうどいいからまたそれでいこう。というわけで、Irving Chernevの"Combinations: The Heart of Chess"である。
 安いし翻訳候補として数か月前に買って、もうレビューページにも載せているが、実はほとんど読んでいない(汗。訳すなら二度手間になると考えていてはいつまでたっても読めないかもしれない。
 
 356問の手筋問題集で問題局面のプレーヤー索引が付いている。itiya kumagaiさんのamazonレビューがいいのでそれ以外に説明することもない。問題集だから英米式表記もそれほど苦にはならないだろう。
 では、目次の前にある用語ネタとしてもいい原文の翻訳比べといってみよう。
 
WHAT IS A COMBINATION?

A combination is a blend of ideas-pins, forks, discovered checks, double attacks-which endow the pieces with magical powers.
It is a series of staggering blows before the knockout.
It is the climactic scene in the play appearing on the board.
It is the touch of enchantment that gives life to inanimate pieces.
It is all this, and more -
A combination is the very heart of chess.

松田道弘 抄訳(『チェスの楽しみ』筑摩書房 p.70)
 コンビネーションとはアイディアの結晶(ルビ:ブレンド)である。一連の手筋が一体となってチェスの駒に魔法のような力を授けるのだ。コンビネーションはノックアウトに先立つ連続パンチであり、無生物であるチェスの駒に生命を与える魔法のタッチともいえる。そして何より−コンビネーションはチェスのハート(魂)である。
 
水野優 訳例
 コンビネーションは、ピンやフォーク、ディスカバード・チェックやダブル・アタックの狙いが混然一体となったもので、駒に魔法の力を授ける。
 それは、ノックアウトに追い込む連打である。
 それは、盤上のプレーのクライマックスシーンである。
 その魔法に触れると、駒が命を得て動き出す。
 それにもう一つ−
 コンビネーションは、チェスの魂そのものなのである。
 
 松田さんの省略や文の結合は意図あってのことだし、「結晶」「連続パンチ」などは見事な訳だと思う。強いて言えば「無生物」「生命」が硬くて少し違和感があり、「タッチ」はちょっと無責任な気がする。
 私のはあえてできるだけ別の言葉を使ってみただけの凡訳である。チェス界最高のストーリーテラー、チェルネフの文体を訳すときには私も松田さんの雰囲気を見習えばちょうどいいかなと思う。
Combinations: The Heart of Chess
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star独特の編集

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2005年08月11日

Irving Chernev「Logical Chess: Move by Move」レビュー

 一昨日のヤクルト、ガトームソンの全力疾走振り逃げの間にリグスの本塁突入があまりにすごくて野球トピで書こうと思ったが、ウェブでみんな似たようなことを書いているのでやめた(汗。
 高校で草野球をやっていたときにも同じプレーはあった。スコアを付けていたので、公式規則を調べて送球中の進塁と見なし打者の打点(三振なのに!)とした。今回のは記録を見損ねたが、リグスの盗塁にしないわけにはいかないだろう。
 同日は、中日が阪神を大逆転したり、佐々木が清原の友情三振への一打席登板引退試合と派手な試合に話題をさらわれたが、野球の真の醍醐味は神宮球場にあったと思う。リグスが残留できるよう今後の活躍を願う。
 
 前置きが長くなった。序盤のレパートリー・ブックの紹介、 1 d4系もやっておこうと思ったが、変な本ばっかりのようなのでとりあえず前回で終わりにする。Trompowsky, Torre Attack, Colle Systemあたりが手を狭めるにはお薦め。
 
 今後の書評をどういう順序ですればいいか悩むところだが、ベストセラーは当然優先するとして、難しいのよりは初中級者向け、理論書よりは実践的なものかゲーム集といったところだろうか。
 そこで初心者向けの本を調べていたのだが、一つ絶対お薦めできない本があるのでまずそれを紹介しておく。大阪のサークルで活動をしていた頃、新参者向けの資料ネタとして買ったが、結局捨ててしまった本である。
Comprehensive Chess Course: Learn Chess in 12 Lessons (Comprehensive Chess Course)
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 いちおうBCMのレビューを訳してみよう。
 
"Grandmaster Lev Alburt, a highly successful chess coach, here offers for the first time the once-secret Russian method of chess training" (Garry Kasparov). This is a complete course on the basics of chess in 12 lessons. A beautifully laid-out and integrated course, designed by former Soviet grandmaster Alburt (and his old coach Pelts). Alburt emigrated to the USA and became its champion three times. It's important to understand the basics of chess before you advance. Whether you are an adult learner or a child, you couldn't be in better hands than with these two super-experienced authors, who take you through the basics with crystal-clear explanations and plenty of examples. Suitable for working with a teacher. Also suitable for elementary/intermediate players.

 「名コーチ、グランドマスターLev Alburtが初めて紹介するかつては秘技とされていたロシア式トレーニング法」(Garry Kasparov)。本書は12のレッスンから成るチェスの基本の完全マスターコースである。課題を最適に配置してまとめているのは、ソビエト出身のグランドマスターAlburt(と彼の昔のコーチPelts)である。。Alburtはアメリカへ亡命し、3度全米チャンピオンに輝いた。チェスの上達は、基本の理解なくしてはあり得ない。学習者が大人でも子供でも、この二人の「超」熟練した著者が明晰な説明と多数の実例を通して指南するコースに勝るものはない。教師付きでの使用、および初中級者向け。
 
 カスパロフまで出てくる御大層な推薦文だが、最後の教師付きというところをもっと強調すべきだ。内容は極めて初歩的なのに詳しい説明には乏しい小学校の教科書的素材であり、子供が教師付きで学ぶ教材を想定している。
 しかも、本といっても綴じてある背中から簡単に一枚ずつちぎれる製本になっており、無駄にでかいからA4のプリンター用紙といった感じだった。私は'92年頃に買ったが、現状も大差ないだろう。

 だからといって、英語を別にしても、日本で子供相手に大人が教える教材にも適当とは思えない。ブログの読者の皆さんは、経験学習より概念学習で学ぶべき年齢の方がほとんどだろうから、なおさらお薦めできない。
 私はかねがね、実戦や問題を多量にこなすこと以外にもっと効率的に上達する方法があるはずと思っている。基礎と応用とをつなぐ領域の概念をもっと細分化して整理できるはずだ。いずれ発表したい。
 
 さて、お薦めできない本だけではさすがにまずい。Irving Chernevの永遠の名著"Logical Chess: Move by Move"を紹介しよう。調べると初出が'57年、手放すべきではなかった。
 Nunnにも同様の本があるが、それに比べると初歩的基本的である。名局というよりはやや短手数で決着がつくゲームなので、いい手の狙いと悪い手の理由がよく分かる。Batsfordの新版は少し高いが(現在マーケットプレースのみ)、やっと棋譜が国際式になった。
 33のゲームのプレーヤー名は、amazonにある目次の詳細で確認できるし、PGN棋譜ファイルなら「チェスのリンク」に追加した「松戸チェスクラブ」HPからダウンロードできる。原文はないが内容の訳を一部紹介して終わりにしよう。
 
 ゲーム2 ジオッコ・ピアノ
 白:Liubarski 黒:Soultanbeieff(Liege, 1928年)

1.e4
 盤上の最善手! ポーンはセンターを占め、2つのピースが出撃可能になった。
 150年前に名手フィリドールは言った。「キングポーンを2つ進めるよりいい初手はない」。このアドバイスは今なお生きている。
 唯一他の第1手、1.d4 は2つのピースを開放する。
1...e5
 「おそらく最善の応手」と、カパブランカは語った。
 黒はセンターの圧力を釣り合わせ、クイーンとビショップの道を開ける。
2.Nf3
 活力に劣る 2.Nc3 や 2.Bc4 等の展開手より優れている。このキング側ナイトが攻撃に加わることで黒の応手の選択肢が狭くなる。
 黒は 2...Nc6 か 2...d6 でポーンを守らねばならない。あるいは 2...Nf6 で反撃するかもしれない。
 どう対処するにせよ黒はぐずぐずしていられない。白の脅威に対して何かをしなければならない。
2...Nc6
 まぎれもなく論理的な手。この1手で、ポーンは手損なしに守られ、クイーン側ナイトは序盤で最も有利な位置に繰り出した。
Logical Chess: Move by Move (Batsford Chess Book)
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