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2005年12月19日

Burgess『The Mammoth Book Of The World's Greatest Chess Games』

 ホームページ「チェス トランス」は、細かいデザイン変更等は「更新履歴」にわざわざ書かずに常にいじくっている。デザインのセンスはないが、表は線をなくした方がスペースも取 らないし、すっきりしていいことが分かった。ここの「マスターズ」連載もページ化したので、まとめて読みたい方はそちらからどうぞ。


 ゲーム集は批評しにくいこともあってほとんど扱ってこなかったが、今回 はGraham Burgess他編の"The Mammoth Book Of The World's Greatest Chess Games"(622ページ、'04年、キャロル&グラフ出版)である。レビューページで先に書いていたが、序文だけ書いてるアナンドを著 者にしていた (汗。

裏表紙の訳:
 イギリスの専門家チームが、あらゆる時代から厳選、分析、再評価、説明し、800以上の局面図と共に詳解した不朽の100局。
 これらのゲーム、2世紀に渡る世界中のチェスの精髄を著者と一緒に勉強して、自身の棋力を向上させよう。今のレベルは問わない。各ゲームの終わりで、学 ぶべ き課題を要点として掲げた。
極めつけは:
 ・アドルフ・アンデルセンの「不滅」局と「不朽」局。
 ・ボビー・フィッシャーの「世紀のゲーム」
 ・ボリス・スパスキーの「ジェームス・ボンド」メイトのコンビネーション
 ・ナイジェル・ショートの「サディスティックなキングの猛進」
 ・ディープ・ブルーのガルリ・カスパロフに対する歴史的な初勝利
これらを勉強して学べることは:
 ・攻撃の仕方
 ・主導権の維持
 ・防御と反撃
 ・論理的な序盤の指し方
 ・終盤の戦略
 ・心理戦
 ・名人の考え方
1997年のイギリス・チェス連盟ブック・オブ・ザ・イヤー受賞

目次の訳:
ヴィシー・アナンドによる前書き
序文
記号
1 マクドネル−ラ・ブルドネ、マッチ第16局、ロンドン、1834年
(中略)
100 アナンド−ロチェ、ビール、1997年
プレーヤー索引
序盤索引
著者について

1 マクドネル−ラ・ブルドネ、部分訳(原文の記譜は絵文字駒):
1 e4         c5
2 Nf3      Nc6
3 d4      cxd4
4 Nxd4      e5
5 Nxc6?!      
 いくぶん黒のセンター支配を助長する交換で、白はその代償を何も得られない。さらに、d5マスを弱める黒の無謀な4手目の大きな欠点をチャラにした。こ れ以後は 5 Nb5が当然の手とされている。
5...         bxc6
6 Bc4      Nf6
7 Bg5      Be7
8 Qe2?!        
 クイーンを繰り出してもa6〜f1ダイアゴナルから攻撃される可能性があり、展開が遅れる。黒がセンターで前進しやすくなっただけである。クイーンが e5にかける圧力は、少なくとも白が安全にキャスリングするまでは有効になりえない。白は代わりに 8 Nc3か 8 Bxf6から 9 Nc3とすべきだった。


 ここまでは図がないが、800図以上なので一局平均8個はあることになる。訳で省略したが、ゲームの前に各プレーヤーの略歴等の説明が数行ずつあ る。すでにゲーム集をたくさん持っている人はダブるだろうが、それでもこの詳しい解説を手元の本と比べて楽しめるのではなかろうか。お得な本である。
The Mammoth Book Of The World's Greatest Chess Games
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2005年12月17日

電気掛敷毛布〜Tisdall『Improve Your Chess Now』

 昨日から朝の冷え込みがきつくて寝坊もできない。今の家は1月から住んでいるのに、こんなに寒い日があったかしら。しょうがないのでamazonに電気 毛布を注文した。140cmで1980円が通販の最安値のようだが、掛け布団にするかもしれないから長いのにした。amazonは何でも1500円 以上なら送料無料がいい。明後日には届いてくれよ〜。
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 もうレビューした本かどうか分からなくなってきたが(汗、Jonathan Tisdallの"Improve Your Chess Now" (224ページ、'97年、エブリマン・チェス)である。タイトルimproveから分かるように、ある程度上達して壁にぶつかってから読む本であり、初 心者には難しいだろう。

目次の訳:
記号
序文
1 伝説の枝分かれ分析
2 目隠しチェスと数手間隔の局面図
3 不利な局面をしのぐ技術
4 パターン訓練(他の有益な練習も)
5 ピースの価値
6 知恵と助言
付録1:メイトのパターン
付録2:主要な戦術テーマ
引用文献
練習問題の解答
プレーヤー索引

1 伝説の枝分かれ分析 冒頭の訳:
「僕は枝分かれ式で考えていない。君はそうしてるのかい?」−グランドマスター、アナトリー・レイン
 コトフの著書『グランドマスターのように考えよう』は、実践的助言と目から鱗の議論にあふれた概論である。中でも最も有名なのが、いわゆる「枝分かれ 分析」で、変化の読みに不可欠な技術を完璧にする理想的な方法として広く採用されてきたものである。グランドマスター、レインのぶっきらぼうな質問に、私 は長年引っかかりを感じてきた。今もなおそうである。この興味深い言葉は無視できなくて、考えれば考えるほど気になる。答は簡単で、もちろん私も そうしていない。その一方で、私は教えてきた。枝分かれで考えなさいと。自分がそうやって考えていないのに。なぜ? コトフの威厳ある教えのせいで、そう 思いこんでいたのかもしれない。しかし、なぜレインの不平が真実に思えるのだろう?
 コトフの助言は英知にあふれているが、候補手から正着を選択する重要性以上の何物でもない。コトフが選択した古典的な実例は、お決まりの料理番組に少し 似ている。 「ここにさっき用意したものがあります」という風にである。コトフは、重要な実践的考察(いつ指すのか、いつ読むのか等)をし損ねただけでなく、ゲーム中 のプレーヤーを悩まし混乱させる下位変化筋を無視した。私は、枝分かれを描く才能を理解できないのみならず、ほんとうの枝分かれはいつも途方に暮れるほど 錯綜しているため、困ったことに、読めば読むほど抜け出せなくなることを悟ったのである。…

 のっけからコトフの名著"Think Like a Grandmaster"が否定されてしまった。私のレビューを見て買った方には申し訳ない(汗。さて、「枝分かれ」がまやかしの技術だとすると、それに 代わって著者が推奨するのはいかなる方法なのか?!
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2005年12月15日

Silman『Complete Book of Chess Strategy』

 昨日の記事で書いたおそらく留学経験もある大学教授が、原文は正しく解釈しながらもあのような不自然な日本語でしか表現できず、おそらく本人も気付かな いかそれでいいと思い、出版社も恥ずかし気もなく世に出し、amazonのカスタマーレビューでも批判されるどころか、「安心して読める訳」と形容されて いる。
 高三のときの英語の先生でひどいのがいた。まず生徒に訳させるがそれは直訳でなければいけない。その後で自分が意訳し直して悦に入っている。生徒が先に 気の利いた訳でも言おうものなら(もちろん予習不足の場合もだが)巻き舌口調で激怒する。今でもあんな調子でやっているのだろうか。
 高校で落ちこぼれた私は、現役時の共通一次試験の英語が90/200点だったが、浪人して開眼し、満点を取った。それでも志望校にはいけなかった。その とき始まった回り道をまだ続けている。正面にゴールが見えるときが来るまで。


「シルマンは、世界で最も独創的で明確かつ鋭敏に教えられるチェス教師で ある」−ブルース・パンドルフィーニ(裏表紙より)

 また一般本にもどってJeremy Silmanの"Complete Book of Chess Strategy"(360 ページ、'98年、サイルズ出版)である。すでに紹介したSilmanの"How to Reassess Your Chess"と対を成す参考書という位置づけの本書は、実戦のための知識と技術を網羅したお得な内容となっている。

目次の訳:
序文 記号伝説 記譜法
第1部 序盤
 基本的序盤戦略
 キャスリング
 展開
 フィアンケット
 序盤定跡
  アルビン・カウンター・ギャンビット、アリョーヒン・ディフェンス、ベンコ・ギャンビット、ボゴインディアン・ディフェンス、ボーリング・オープニン グ(逆ロンドン・システム)、ボトビニク・フォーメーション、ブダペスト・ギャンビット、カロカン・ディフェンス、センターカウンター・ディフェンス、 コーレ・オープニング、チェコ・ベノニ、ダッチ・ディフェンス、イングリッシュ・オープニング、フォー・ナイツ・オープニング、フレンチ・ディフェンス、 ジオッコ・ピアノ、グロブ、グリュンフェルト・ディフェンス、ヘッジホグ・フォーメーション、キングズ・ギャンビット、キングズ・インディアン・アタッ ク、キングズ・インディアン・ディフェンス、ラルセン・オープニング、モダン・ベノニ・ディフェンス、ニムゾインディアン・ディフェンス、オランウータ ン、ペトロフ・ディフェンス、ピルツ・ディフェンス、クイーンズ・ギャンビット・チゴリン・システム、クイーンズ・ギャンビット・アクセプテッド、クイー ンズ・ギャンビット・ディクラインド、QGDカパブランカの解放作戦、QGDタラッシュ・ディフェンス、クイーンズ・インディアン・ディフェンス、レ ティ・オープニング、ルイ・ロペス、スコッチ・オープニング、セミスラブ・ディフェンス、シシリアン・ディフェンス、スラブ・ディフェンス、ストーン ウォール・アタック、トーレ・アタック、トロムポウスキー・オープニング、ツー・ナイツ・ディフェンス、ベレソフ・オープニング
 準備
 逆オープニング
 序盤のクイズ
第2部 中盤
 相手キングへの攻撃
  違う側へのキャスリングの場合
  同じ側へのキャスリングの場合
  昔ながらのビショップ・サクリファイス
  コンビネーション
  コンビネーションのテーマ
   クリアランス・サクリファイス、おとり、そらし、ダブル・アタック、フォーク、ピンと串刺し、風車、X線、ツヴィッシェンツーク
  真ん中にいるキングの場合
  キング側の攻撃焦点
   h7への攻撃、g7への攻撃、f7への攻撃、g6への攻撃、黒マス上で錯綜するf6, g7, h6への攻撃
  メイトの包囲網
  メイトのパターン
   アナスタシアのメイト、バックランク・メイト、ブラックバーンのメイト、ボーデンのメイト、ダミアノのメイト、グレコのメイト、レガルのメイト、 モーフィーのメイト、モーフィーの隠しメイト、ピルズバリーのメイト、レティのメイト、ルック、ナイト、ポーンによるメイト、窒息メイト、2マイナーピー スのメイト
  サクリファイス
  戦術ビジョン
 ブロッケード
 候補手とインバランス
 中央集権化
 クローズおよびオープンな局面
 代償
 反撃
 防御戦略
 とらわれのピース
 主導権
 駒得
 マイノリティ・アタック
 マイナーピース
  マイナーピースの戦い、ビショップの法則、ナイトの法則、2ビショップ、2ナイト
 不思議なルックの動き
 オープン ファイル
  アリョーヒンのガン/トリプル、ダブル ルック、入れない!、ファイルを開く、交換ファイル、どちらがファイルを支配しているか?
 オーバープロテクション
 ポーンのセンター
 ポーンの鎖
 ポーン形
  出遅れポーン
  ダブルポーン
  孤立ポーン
  孤立ポーン組
   ハンギング ポーン
    戦略(白)、戦略(黒)
   ハンギング マス
  パスポーン
  ポーンの島
  トリプルポーン
  ポーンの緊張
 パーペチュアル チェック
 ピースの動きやすさ
 プラン
 2つの弱点の原則
 予防
 クイーン側ポーン・マジョリティ
  クイーン側マジョリティ対キング側マジョリティ、クイーン側マジョリティ対センター・マジョリティ
 制限
 スペース
 マス
 静的優位対動的優位
 支持点
 ピース交換
 はめ手
 中盤のクイズ
第3部 終盤
 ビショップと違う色でクイーンになる端ポーン
 追いつ追われつ
 交換
 終盤のマイナーピース
 終盤のパスポーン
  クイーンの終盤でのパスポーン、ポーン・マジョリティと端寄りのパスポーン、プロモーションとアンダープロモーション
 クイーンとマイナーピースの戦い
 ステイルメイト
 キングの活用
  キングとポーン対キング、オポジション、ポーンの手を温存、ポーンのマス、三角法
 ルックの活用
  活動的なルック、ルセナの局面、フィリドールの局面、パスポーンの後ろのルック、盤の短い側と長い側、7段目の2ルック
 終盤のクイズ
第4部 実戦的事項
 ブランダー
 ドローの提案
 駒の価値
 心理学
 時間切迫
 実戦的事項のクイズ
クイズの解答

基本的序盤戦略の冒頭訳:
 ほとんどのプレーヤーは、序盤とは、それぞれの駒をセンターを中心として展開させることと考えている。それは正しい一面だが、大きなビジョンを見逃して いる。序盤の真の目的は、両者の陣形間にある違い(または一連の相違)を創り出し、それに見合うように駒を展開することである。
 例えば(白として)、相手がポーンをd6とe6に進める間にポーンをd4とe4に進められれば、スペースで優位に立ったことになる。後はその優位を活用 できるように駒を展開すればいい。
 他にセンターをめぐる典型例には、黒が ...Bc8-g4x(N)f3とする手筋がある。このよく起こる交換は、ビショップ対ナイトというインバランスを引き起こす。こうなるやいなや、白は ピースとポーンを2ビショップの力が最大になるよう配置する。一方で黒は、(2ナイトに好都合な)閉じた局面を目指し、2ナイトが白の2ビショップに匹敵 またはそれをしのげる拠点を創り出すことに腐心する。


 膨大な目次の項目で分かる通り、全体が実戦的な用語集と考えてもいい。特にメイトのパターンが名前付きでいろいろあるので、うちの用語集に加えたくな る。しかし、その中でもSilman節は健在だ。冒頭からいきなり「インバランス」の登場である(笑。
 この詰め込みすぎの内容を見ると日本の入門書を連想する。概観するためとはいえ、序盤をABC順で並べてグロブ(1 g4)まで入れる必要があるだろうか。人によっては、一通り学んだけど何も身に付かずに終わるかもしれない。初心者向けの辞書やレファレンスとしてはいい と思うが。
Complete Book of Chess Strategy: Grandmaster Techniques from A to Z
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2005年12月08日

Seirawan&Silman『Play Winning Chess』

 ワイヤレス耳掛けヘッドホンだが、もう使わなくなってしまった(汗。使用頻度が下がれば充電の手間はさほどでもないが、プラグをPCスピーカーのジャッ クから抜き差しする方が面倒とは思ってもみなかった。差したままでもスピーカーの音をオンオフできる(高級アンプのような)仕様ならなあ。


 Yasser SeirawanとJeremy Silmanの"Play Winning Chess" (224ページ、'03年、エブリマン・チェス)は、マイクロソフト出版から出ていた頃に、当時「関西チェスの会」で新参初心者に配布する教材を作るため に買ったことがある。このシリーズの最初の本であり、ルールを知らない人から学べるようになっている。

目次の訳:
序文
1 チェスの進化
2 第1原則 戦力
3 第2原則 時間
4 第3原則 スペース
5 第4原則 ポーン形
6 注釈付ゲーム
7 4つの原則と読者
写真帳 用語集 クイズとテストの解答 索引

 型どおりチェスの起源の話から始まる。クロック登場以前の逸話もおもしろいが、いずれ私の連載「マスターズ」に出てきそうなので、少し内容が古いが "Women in Chess"から引用して訳す:
女性のチェス
 身体能力が結果を左右する他のスポーツと違って、チェスでは男女が同じ土俵で競い合えると思われているかもしれない。しかし驚くべきことに、チェスとい うス ポーツは男性が支配している。世界のトップ100プレーヤーの中には女性はいない。女性世界チャンピオン、マヤ・チブリダニゼのレイティングが2500な のに比べて、世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフのレイティングは2800である。プロのチェスプレーヤーは、グランドマスターのレイティングが50違 うと1「クラス」格が違うと考える。では、カスパロフはチブリダニゼより6「クラス」上なのだろうか? 私はそうは考えない。ただ、チェス界をこれほど男 性が牛耳っている原因が、女性のグランドマスター称号所持者があまりにも少ないことにあるとは言える。あらゆる女性を見下すようだが、FIDEは女性が 称号を獲得する際の成績水準を単純に下方修正した。(FIDEは世界チェス連盟の頭文字)現在女性は、女性グランドマスター(WGM)と女性インターナ ショナル マスター(WIM)の称号を獲得できる。


 現在、男子ゴルフツアーに女性も参戦して話題になっているが、チェス界ではもっと早くからジュディ・ポルガーらが「男子」トーナメントに参加して男子の 称号も獲得している。女子に対して男子と言っているだけで、「無性差別」トーナメントとでも言うべきだろうか。
Play Winning Chess (Winning Chess)
1857443314 Yasser Seirawan Jeremy Silman

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2005年12月05日

Seirawan『Winning Chess Strategies』

 先日のIQテスト番組は、脳の入出力をそれぞれ左右脳優位に分けて計4つの類型に分類していたが、これをチェスに当てはめるとどうだろうと考えてみた。

入力
出力

 右
 右 天才プレーヤー
 右

プロブレム解答および鑑賞

 右
プロブレム作成、通信戦


不向き(お

 ずいぶんな極論だが、私も不本意ながら「プロブレム解答および鑑賞型」である。


 今週もWinning Chessシリーズ強化週間、Yasser Seirawanの"Winning Chess Strategies"(256ページ、'03 年、エブリマン・チェス)である。本書はシリーズ3冊目にあたる。ルール等の事前基礎知識はもちろん必要である。元々マイクロソフト出版から出ていたが、 エブリマンが再発してから版を重ねている。

裏表紙の部分訳:
 世界のトッププレーヤーから覚えやすい戦略を身に付けて対戦相手を出し抜こう!
 戦略、それは世界中でチャンピオンを目指すプレーヤーたちにとって、究極の秘密兵器である。自身の豊富なトーナメント経験から、国際グランドマスター、 ヤッサー・セイラワンは、戦略の原則をゲームのどの段階にも柔軟に適応する方法を教えてくれる。セイラワンの分かりやすく効果的なプランの立て方と分析 の技術を用いれば、どのゲームにも自信とやる気を持って臨め、勝利に必要な方法を使って毎回力強く賢明に指せるだろう。

目次の訳:
序文
1 戦略の重要性
2 駒得を最大にする
3 相手の反撃を阻止する
4 ピースの行き場所を理解する
5 優れたマイナーピース
6 ポーンの使い方
7 標的を作る
8 領土支配
9 キングを攻撃する
10 誤った戦略
11 戦略の名人たち
12 問題の解答
用語集 索引

 "Winning Chess Tactics"で戦術の定義があったように、本書でも第1章で戦略の定義がなされる。部分的に訳す:
 ラリー・エヴァンスは戦略を「…長期に支配的なプラン」とし、『オックスフォード・チェス・コンパニオン』でフーパーとホワイルドは、「…ゲームにお ける長期的目標のプランと実行」と言っている。(中略)
 「長期的」という言葉は深い読みを暗示するが、実際エヴァンス、フーパー、ホワイルドは、ポジショナル プレー−ゆっくり組織的に小さな優位を築き上げること−を指している。元世界チャンピオン、マックス・エイベの発言が当を得ているだろう。「戦略は思考を 必要とし、戦術は観察を必要とする」。つまり、戦略的プランは、戦力、スペース、駒の機動性、長期的な指し手によるポーン形に関する局面の特徴を勘案して 形成される。一方で、戦術は、短期的な好機を利用するために局面を観察して作られるものにすぎない。


 戦略は、チェスにおいて最も学ぶのも身に付けるのも難しい概念および技術である。これを専門的に扱う本はたいていが中級者向け以 上の本だ。初心者のうちは実戦で経験をつめばある程度身に付く技術でもあるので、序盤、終盤、戦術だけで壁にぶち当たるようになったら、こういう本もお薦 め である。
Winning Chess Strategies (Everyman Chess)
1857443322 Yasser Seirawan

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2005年12月02日

Seirawan&Silman『Winning Chess Tactics』

 amazonは3月から12月までの間、一か月に本を5000円以上購入で250円、10000円以上購入で500円分のギフト券を還元してくれる。還 元は翌々月になる。私も9月のギフト券を先月使ってまた5000円分買おうとしたが、発送期限が長いのが一冊あってとうとう間に合わなかった(汗。
 2回以上の注文の場合は、到着日が同じ月でなければならない。来年もおそらくこのサービスは続くだろうから、2か月おきに最低5000円以上(税込み。 ギフト券を含んでもいい)を、発送期限も考慮して買うのが得策ということになる。知っておかないと損をする。


 今日は朝から図書館と買い物のはしごで疲れたから、「マスターズ」は明 日に回して書評にする。Yasser SeirawanJeremy Silmanという鬼に金棒コンビによる"Winning Chess Tactics"(240ページ、'05年、エブ リマン・チェス)、まだ半年前に出た新刊である。

裏表紙の一部訳:
 世界のトッププレーヤーから成功間違いなしの戦術とコンビネーションを学ぼう。
 攻撃? 防御? 駒の交換? 戦術とは、罠や待ち伏せで短期的に優位に立ったり、たった一手でゲームの行方を一変させたりする、いわば戦略を見張る番犬 である。国際グランドマスター、ヤッサー・セイラワンが世界のチェス伝説からその戦術を教えてくれるのに、どうして途方に暮れながら相手のへまだけを期待 してさすことがあろう。

目次の訳:
謝辞 序文
第1部 戦術とコンビネーション
 第1章 定義
 第2章 ダブルアタック
 第3章 ピン
 第4章 串刺し
 第5章 キングの戦術とコンビネーション
 第6章 そらし(ディフレクション)
 第7章 オープンファイルやダイアゴナル上のバッテリー
 第8章 ポーンの威力
 第9章 おとり
 第10章 クリアランス サクリファイス
 第11章 X線アタックと風車
 第12章 ツヴィッシェンツーク
 第13章 他の種類のドロー
第2部 戦術の名人とそのゲーム
 第14章 アドルフ・アンデルセン(1818-1879)
 第15章 ポール・モーフィー(1837-1884)
 第16章 ルドルフ・シュピールマン(1883-1942)
 第17章 フランク・マーシャル(1877-1944)
 第18章 アレクサンダー・アリョーヒン(1892-1946)
 第19章 ミハイル・タリ(1936-1992)
 第20章 ガルリ・カスパロフ(1963-)
第3部 補足問題と解答
 第21章 基本戦術
 第22章 上級コンビネーション
 第23章 プロ級コンビネーション
 第24章 第1部の問題解答
 第25章 第3部の問題解答
用語集 索引


 第1章の「定義」では、定義は退屈だが、混乱が生じている「戦術」 と「コンビネーション」の定義は大切だと説く。引用されるマスターの定義部分を中心に訳出する:

 戦術は、自軍の戦略を助け、相手の戦略をくじかせる。戦術は、一般的戦略プランから破壊力を生み出す。戦術は、いかなる状況も完全に有利な局面に変える 力を持っているからである。したがって、戦術の定義はこうなる。
 「戦術は、短期的な好機によって優位を目指す作戦である
 (中略)
 もちろん元世界チャンピオン、エマヌエル・ラスカーはコンビネーションの何たるかを知っていた! 彼の定義を見ておこう:
 「強制的に望ましい状況を導く変化やその組合せを先読みできる稀なケースにおい て、これら変化とその論理的組合せや構成を総じてコンビネーションと呼ぶ
 しかし、ラスカーの定義にはいくつかの問題がある。冗長であることも理解を妨げている。2番目に、コンビネーションが稀なものとしている。(中略)3番 目に、ラスカーはすべてのコンビネーションがサクリファイスを含むことに言及していない。4番目に、おそらく最も重要なことだが、コンビネーションを勝利 をもたらすものだけとしている。(中略)
 元世界チャンピオン、ミハイル・ボトビニクの提唱した優れた定義は:
 「コンビネーションは、強制的な手順やサクリファイスをからめた手順、その結果、 仕掛けた側が客観的な優位に立つものをいう
 (中略)読みやすいが最後の「客観的に優位に立つ」が言葉足らずで分かりにくい。
 これら偉人の成果をまとめて、以下の分かりやすい定義を提唱する。
 「コンビネーションは、強制的な手順と組み合わされたサクリファイスであり、ある 目的に到達するために特定の局面を利用するものである


 戦術は戦略の構成要素であるとはよく言われるが、「戦術が戦略の番犬」という表現はおもしろい。基本的に初心者向けの本ではあるが、戦術のレファレンス として読み応えのある構成になっていて侮れない。今回は用語が多くて訳が難しかった(汗。
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2005年11月26日

Snyder『Chess for Juniors』〜Pawn bordering on queen

 今朝は昨日頼んだ電気のブレーカー交換をしてもらった。昨日エアコン、電気カーペット(共に弱)、電子レンジ同時使用で落ちたのが2回目だったからだ。 15Aで はさすがに冬場は無理なので20Aにしてもらった。工事は実に簡単で費用もかからない。
 基本料金が5Aあたり130円(東京電力)なので390円から520円になるが、それくらいは仕方ないだろう。市川の最初の家30Aで4年過ごしたのが 今思うと1万円以上の無駄だった(汗。先日逮捕されたカリスマ主婦の節約を勧める本にもこのことは書いてあるだろうか(笑。


 週3回の書評のうち1回は自由テーマでやっているが、「通信チェス」のha4shu2さんが初心者用には子供向けの本がいいのではと書いていたのを思い だした。そこで、トップセラーのRobert M. Snyder "Chess for Juniors: A Complete Guide for the Beginner"(237ページ、'91年、ランダムハウス)である。
 こういうレベルの本をわざわざ英語で読む日本人層となると、早期英語教育を受けている子供や帰国子女、あるいは英語力向上を兼ねて(洋書挑戦の足がか り)といった人に限られてしまうだろう。しかし、自分が好きで得意なジャンルから外国語に挑戦するのは、いい取っ掛かり方である。


裏 表紙の訳:

 ナショナルマスターで著名なチェス教師のロバート・スニダーが、若い初心者向けにこの不朽のゲームを紹介する。スニダーは基本原則を教えてから、序中終 盤で勝つ戦略の選び方を分かりやすく伝授することで読者の知識を増やしていく。20のレッスンに、275個の局面図が含まれる。
(目次と重複するため中略)
 ロバート・M・スニダーの生徒には、1989年と90年の小中学生全米チャンピオンがいる。カリフォルニア州ガーデングローブに全米最大規模のジュニア 向けクラブを設立し、講演にはのべ5万人の生徒が参加した。

目 次の訳:

序文
レッスン1/背景 基本ルール
レッスン2/個々の駒とその動き方
レッスン3/チェック チェックメイト キャスリング
レッスン4/ドロー
レッスン5/記譜法:チェスの手の読み書き
レッスン6/基本戦略 序盤 序盤の一般的指針 序盤でのピースの役割 序盤でのピースの展開例
レッスン7/ハンギング ピース、フォーク、ピン ハンギング ピース フォーク ピン 無口なコンピュータ
レッスン8/終盤 チェックメイト(2R+KvsK) チェックメイト(Q+KvsK)
レッスン9/定跡 ルイ・ロペス エクスチェンジ・ヴァリエーション メインライン
レッスン10/基本チェックメイト チェックメイト(Q+KvsK)
レッスン11/ルイ・ロペスのオープン・ヴァリエーション 戦術的テーマ 串刺し
レッスン12/キングとポーンの終盤 ルイ・ロペスのメインライン
レッスン13/もっと戦術的テーマ ノアの方舟トラップ 「へりにいるナイトはへぼ」 ディスカバード アタックとディスカバード チェック 働き過ぎの防御駒 もっとK+PvsK終盤
レッスン14/シシリアン・ディフェンスと 1 e4に対する他のディフェンス 上級戦術テーマ チェックメイトにする見事なクイーン サクリファイス
レッスン15/ルックの活用 チェックメイト(K+RvsK)
レッスン16/クイーンポーン・オープニング ニムゾインディアン・ディフェンス クイーンズ・インディアン・ディフェンス
レッスン17/ポーンの活用 ダブルポーン 孤立ポーン 出遅れポーン ポーンの鎖 パスポーン クイーン側数的優位 上級テーマ キングと多数ポーンの 終盤
レッスン18/ダミアノ・ディフェンスのゲーム
レッスン19/ポール・モーフィー対イーズワール伯爵とブラウンシュヴァイク州公爵のゲーム
レッスン20/上達の継続 英米式記譜法

レッスン2 冒頭の訳:

ポーン
 ポーンは軍の歩く兵隊です。他の駒より動きはゆっくりしています。ゲームが始まるときには、最も弱くて価値の低い駒です。しかし、ゲームが進むにつれて ポーンはひじょうに価値の高い駒になることができます。
 ポーンをポンド(Pond)と呼んではいけません。Pawnの最後に"d"は付いていません! ポーはチェスの駒、ポン(池)はカエルや魚が住んでいるところです!


 あちらの子供もそういう間違いをするのだと思うと、日本人として気が楽になる。子供向け入門書といってもけっこうな分量で序盤もそこそこ扱ってい るが、序盤に偏重しがちな日本の入門書とは違う。私の経験では、『ヒガシコウヘイのチェス入門 定跡編』を読み終わった直後ですら、ほとんど定跡は記憶に残らなかった。
 最初から序盤を切り捨てた小野田本を高く評価する理由の一つはそこにある。結果がすぐに出ないという点だけを考慮しても、いい悪いの判断が序盤ほど難し いものはない。実戦で何度も痛い目に合わないと結局は分からないのが序盤ではないだろうか。


 メイソン訳中に珍しい表現に出くわしたので紹介しておく。Pawn bordering on queen、クイーンになるマスに境界を接している。つまり「7段目にいるポーン」である。完全一致検索でGoogleっても引っかからないが、用語集に 加えておかねば。
Chess for Juniors: A Complete Guide for the Beginner (Mckay Chess Library)
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2005年11月19日

Vukovic『The Art of Attack in Chess』

 昨日昼のTBSニュースで、たまたま今年の1月まで住んでいた市川市本八幡付近の朝の通勤自転車ラッシュをやっていた。去年フジテレビでやってた交通バ ラエティ番組でも本八幡駅北側の爆走自転車を扱っていて、あまりに多いからやらせと思ったほどだった。私は通勤しないから近くに住んでいても見たことな かった。
 昨日のはその北側の京成八幡駅西側の踏切を渡る自転車軍団で、ここは私は歩いたこともない。歩行者が歩く幅がないほどだから北京通りなどと呼ばれている らしく、たまたま転倒した自転車が何度も放映されていた。下りかける遮断機の下を無理に通ろうとしてラリアートを食らったのだ(笑。


 何度も引用しながらもブログではレビューしてなかったVladimir Vukovicの"The Art of Attack in Chess"(384ページ、1998年、Everyman Chess)である。うちのレビューでは、「権田源太郎氏も推薦する攻撃についての百科全書的な名著。特にキャスリングしたキングに対する攻めと守りは後 半の中核となっていて実践的。初心者もメイ トのパターンから学べる」と書いた。
 以下にBill Whitedのレビューで概観しよう。手元にあるというのに(汗。


 初版は'65年の古典だが、'98年に国際式記譜の改訂版が出たので早 速買い直した。攻撃について学ぶには未だに最良の書である。いかに攻撃するかという技術は、残念ながら多くの入門書では扱われていない。3手の簡単なコン ビネーションでお茶を濁しているのが現状である。
 著者は、攻撃できるときにいかに攻撃するかを説明する。多くの他の著者と違って、小さな優位を終盤の勝ちにつなげることには関心を払わない。このやり方 は間違いではない。棋力を向上させるには攻撃の仕方を学ばねばならない。

 著者は「焦点(focal points)」を提唱する。「弱点(weak square)」は攻撃側から見れば「強力な攻撃焦点」、攻撃側がメイトするマスは「メイトの焦点」といったぐあいである。これらの理論はシュタイニッツ にさ かのぼるが、著者は攻撃を完遂させる中で利用する。
 サクリファイスや攻撃に絞った点で標準的な中盤本と異なるが、戦術本というよりはむしろ攻撃のポジショナルな面に関する論文だと強調したい。19世紀か ら20世紀にかけてのゲームを勉強すれば、著者の考え方を実戦の中に多く見いだせるだろう。

 本書は、中級者に攻撃のプランの立て方と実行方法を教えてくれる。本書の前にセイラワンの"Winning Chess Strategies"と"Winning Chess Tactics"を勉強するのが望ましいが、上達を望む万人のライブラリーに心から推薦できる一冊である。


 本書は、私が中盤本翻訳の第一候補に考えていて'70年留保にも該当するが、まだ全然手つかずだ(汗。
The Art of Attack in Chess
1857444000 Vladimir Vukovic

Everyman Chess 1998-02
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starとってもおもしろい!!

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2005年11月05日

Kongsted『How to Use Computers to Improve Your Chess』

 毎日更新が途切れるかもしれないと言いつつ、本業と自由な読書時間も以前より確保できるようになった。時間がありすぎると何もできなくて、時間がないと きの方が何でもできるとは、誰もが経験的に知っていることではなかろうか。
 しかし、今月はネット環境のない実家へ帰省するので、更新がパッタリ止まったらそう思っていただきたい。100日以上連続で続いているので途切れるのは 惜しいが、たまに充電すればいいことがあるかもしれない。


 Christian Kongstedの"How To Use Computers to Improve Your Chess" (192ページ、'03年、ギャンビット社)は、誰もが興味を引かれるタイトルだが、どうせありきたりのことしか書いていない気もする。Kevin Bidnerのレビューで追ってみよう。


 チェスが上達することがいかにたいへんかは誰もが分かっている。チェ ス・ソフトウェアはそれを手助けするために作られた。強力な分析力とデータベース機能によって、理解と学習力を実際に驚くほど加速することができるのであ る。

 本書は多くの点で有益だが、タイトルとは裏腹に「コンピュータに勝つ方法」に31ページも費やしている。一方で、CT ArtやChess Mentorのようなトレーニング・ソフトウェアに関しては半ページしか述べていない。著者は、ChessBase(Fritzなど)、Convekta (Chess Assistantなど)、Chessmaster 9000に重点を置いている。
 本書はコンピュータ・チェスの興味深いストーリーで始まる。プログラムがどのように「考え」、学ぶかなど、著者はソフトウェアの内部構造や様々な「チェ ス・ エンジン」の強さや弱点にも精通している。好局例を使って難しい局面を読み解くいろいろな方法も説明する。

 次章では、コンピュータ・チェスの盲点を詳説する。自局分析ツールとして使うさいに役立つテーマである。プログラムはある種昔ながらの強さと弱さを持っ ていて、常に局面の最善手を見つけることはできない。戦略的なポジショナル サクリファイスがソフトで評価されない等の豊富な実例を紹介する。
 コンピュータの考え方を理解した上で、それをほんとうに有益な分析ツールとして利用する。著者は、この強力なツールで自局を核心まで改善する方法を提示 する。実戦譜の深い分析を通じて、コンピュータの領分と人の概念化力の方が勝る部分を明らかにする。

 序盤の指し方を改善する方法は、もっと実戦的で有益な章かもしれない。ツールの機能は目覚ましいが、それをフルに活用することは骨折りである。データ ベー スを使って自分独自のレパートリーを構築する様々な方法に触れている。最後の数章は、戦術や終盤に関連して締めくくる。
 全体として、今日の市場にあふれるソフトウェアを利用する人にはお薦めである。著者自身の経験に基づく現実世界の実例を使った説明が、本書を大いに楽し くてた めになるものにしていると思う。
How to Use Computers to Improve Your Chess
1904600026 Christian Kongsted

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2005年10月29日

Capablanca『Chess Fundamentals』電子版も

"A Passed Pawn increases in strength as the number of pieces on the board diminishes." - Jose Capablanca
「駒が減ってくると、パスポーンの威力はピース何個分にもなる」−ホセ・カパブランカ


 外国のチェスソフトになると日本のamazonは扱っていないようだが、電子ブックは何とか洋書の範囲内で買えるようだ。今回紹介するカパブランカの古 典 "Chess Fundamentals"、私は'54年のDavid Mckay版を持っていた。ちなみに来年再版予定のDe Firmian版もある。
 私が手放したのは、チェスの本をすでに出したことがある某教授が翻訳済みと聞いたからである。しかし、ボリュームも少ないし、説明には日本人向けにかな り尾ひれを付けないと一般書としては出しにくいだろう。いつか日の目を見るのだろうか。

 では、持っていたとはいえほとんど内容を忘れてしまったので、Chess Centralサイトで手に入る電子本版について説明しているRick Kennedyのレビューを以下にまとめてみよう。


 初出から90年近くになっても色あせない不朽の名作カパブランカの 『チェスの基本』、絶版になったDavid Mckay版の第2部では、数千のゲームから選び抜かれた18局が図付きで解説されていた。そして、'02年にはティム・ソーヤーによってチェスベースの ファイル形 式に電子化された。

第1部
 I.           第一原則: 終盤、中盤、序盤
 II.          終盤戦でのさらなる原則
 III.         中盤戦での勝つプラン
 IV.         一般理論
 V.          終盤戦略
 VI.         さらなる序盤と中盤
第2部
 実戦集

 チェスベースやフリッツ等のデータベース・ソフトを使うと楽に読める。カパの説明とゲームの実例を平行して見られる。しかも、局面図が常に目の前にあっ て指し手を追っていける。カパの分析に疑問を感じたらソフトの分析エンジンを使ってすぐにチェックすることもできる。
 Chess Centralのフリーメンバー(メール認証が 必要)になると、一部の無料のものを含めてチェスベース.cbv形式ファイル電子本がダウンロードで購入できる。

 まだ紙とインクの本に固執するプレーヤーはいる。ノート型PCを常に携帯するわけにもいかないしデスクトップは家の中でも場所を取る。これからもカパの 傑作古典本の恩恵を受けるクラブ・プレーヤーもいるだろう。しかし、PCがあるなら電子本への切替を真面目に検討すべきである。


 プロジェクト・グーテンベルクだけ見てラスカー訳を始めたが、世界チャンプでいえばアリョーヒンくらいまでは年代的に著作権切れになっている はずだから、それらは一般書ほど多くアップロードされていないにしても、そのうち増えてくるだろう。
 元手のかからない翻訳の楽しみがまだまだあるわけだ。しかし、原文が電子データだと目が疲れるのが難点である。翻訳家はまず原文をプリントア ウトするのが常識だが、そんなインクの無駄遣いはできない(汗。↓は現在手に入る紙版。
Chess Fundamentals (Cadagon Chess Books)
1857440730 Jose Capablanca

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2005年10月22日

Nunn『Understanding Chess Move by Move』

 松戸チェスクラブの勉強会でも使われたというJohn Nunnの"Understanding Chess Move By Move"である。Silman本と比較されることも多いが、彼の本よりは敷居が低いだろう。素材はすべて'90年代の新しいゲームという今 日性も合わせ持っている。難しい専門用語が極力避けられているのもいい。
 出版社レビューをさらに詳細にしたようなPeter Connorのレビューを引用して訳す。


Understanding Chess Move By Move (Gambit) exemplifies the traditional method of self-improvement through the careful study of the games of the great masters, with the sagacious Dr. Nunn as interlocutor performing in his usual excellent manner. Nunn’s book is reminiscent of the Chernev classic Logical Chess Move By Move, but is much deeper & more thorough, being written for somewhat more advanced players. Through 30 games in a wide variety of openings, every significant move is explained, and many important alternatives are discussed. Each game is identified by a theme (though in reality, no game is quite so mono-thematic), all the key ideas & plans are thoroughly explained and discussed, and finally, there’s a game summary. If we occasionally wish that the discussions had gone further, we must remember that there are limitations on the length of a popular work. Understanding Chess Move By Move is beautifully put together, and in my opinion, anyone who plays over the games in it slowly and carefully is bound to improve his understanding of chess. In effect, it is a very inexpensive chess lesson from a top GM. If you are a class player seeking rapid improvement, of course, you will probably focus on the games involving openings you frequently play or play against. It’s hard to find anything about this book not to like and it was almost certainly the best chess book of 2001, and one of the very best of the past decade or so.
 『一手ずつ理解するチェス』(ギャンビット社)は、偉大なマスターたちのゲームを注意深く学ぶことを通して自己研鑽するという伝統的な方法の実例であ る。聡明なナン博士は、いつもの優れた語り口でその代弁者を演じている。ナンの本書は、チェルネフの古典『一手ずつの論理的チェス』を連想させるが、それ よりさらに深く徹底的で、いくぶん上級者向けに書かれている。様々な序盤から採取された30ゲームを通して、重要な指し手がすべて解説され、欠かせない他 の手も多く検討されている。各ゲームは、テーマによって区別され(実際にはテーマが一つだけというゲームはないが)、重要な考え方やプランがすべて説明お よび検討され、最後に総括が付けられている。もっと深くまで掘り下げてほしいところもあるが、一般書のボリュームという制限を考慮すれば仕方ない。『一手 ずつ理解するチェス』は、私見では、掲載されたゲームをゆっくり注意深く並べる読者なら誰もがチェスの理解を深められるように企画されて いる。実質的に、これはトップGMによるとても安価なチェスレッスンなのである。素速い上達を望んでいるエキスパート未満のプレーヤーなら、当然ながら、 よく指すか指される序盤を含むゲームに焦点を絞ることだろう。本書は、気に入らない部分が見つけがたく、ほぼ間違いなく2001年のベスト・チェス 書籍であり、過去10年間を考えてみてもかなり優れた本である。


 amazonカスタマーレビューは、現状で三者三様だが、一見初心者向けにようでいて序盤の現代性を強調している等、一筋縄ではいかない面を持ってい る。本書で上達するレベル以上の読者でも、目から鱗の概念的内容が含まれていそうである。
Understanding Chess Move by Move
1901983412 John Nunn

Gambit 2001-02-14
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おすすめ平均star
star微妙・・・。
star読めば必ず強くなる
star近代チェス実践集

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2005年10月17日

Hsu『Behind Deep Blue』

 昨日は雨も降っていたからまた例会に行かなかった(汗。いちおう本業を優先したのだが、ブログは家にいれば半端な時間にいくらでも書ける。造形は手が汚 れる作業なので、毎食一食分だけレンジで炊飯する米をとぐ前に手を洗ってから食事までの時間はブログや翻訳の時間に充てている。
 金曜の試合でヤクルトの全日程が終わった。その前に横浜が広島に勝って3位を決めてたから(黒田が単独最多勝かけてがんばると思ったのに)拍子抜けした が、岩村の30号などで快勝して若松監督の退任式まで見られたのには満足した。
 去年は最終戦が無料開放だったから、今年は昼間の用事を作って初めて神宮へ乗り込もうと思っていたが、こういう目玉イベントがあると無料にならない。来 年は古 田が監督をやれば興行面にも関わるらしい。ただでさえ客の少ない神宮がどう変わるだろうか。


 以前はぶいぶん古いBellのチェスコン本を紹介したが、今回は去年出て最近またよく売れているHsuの"Behind Deep Blue"である。本書はAI関係のサイトでも多くレビューされているから資料には困らないが、以下の出版社レビューが概要を知るには最もいいようだ。


On May 11, 1997, as millions worldwide watched a stunning victory unfold on television, a machine shocked the chess world by defeating the defending world champion, Gary Kasparov. Written by the man who started the adventure, Behind Deep Blue reveals the inside story of what happened behind the scenes at the two historic Deep Blue vs. Kasparov matches. This is also the story behind the quest to create the mother of all chess machines. The book unveils how a modest student project eventually produced a multimillion dollar supercomputer, from the development of the scientific ideas through technical setbacks, rivalry in the race to develop the ultimate chess machine, and wild controversies to the final triumph over the world's greatest human player.
 1997年5月11日、世界中の観衆が驚くべき勝利の幕開けをテレビで見たように、一台のマシンが世界選手権保持者ガルリ・カスパロフを破ってチェス界 に衝撃を与えた。そこへ至る冒険を始めた男が書いたのが本書である。ディープ・ブルーとカスパロフの歴史的な二度の対戦の裏側で何が起こったか、ディー プ・ブルーの内輪話を披露する。これは、すべてのチェスマシンの中で頂点を目指す物語の背景でもある。一介の学生プロジェクトがいかにして何百万ドルの スーパーコンピュータを生み出し、科学的思考の発展から始まって技術的退歩を経験し、究極のチェスマシン作りにライバルとしのぎを削ったか、そして人間の 世界最強プレーヤーに対して最終的に勝利したことへの激論を明らかにする。


 Hsuは、カーネギーメロン大学の院生だった1985年からこのプロジェクトを始め、チームごとIBMでその続きをしたという感じである。メンバーに は、プログラムの専門、チェスの専門(ジョエル・ベンジャミン)等がいる。Hsuはハードウェア担当で、現在はコンパックの研究所にいる。
 著者の畑違いからかもしれないが、本書はチェスプログラムの純粋な技術的側面にはあまり触れていないからあくまで読み物と思った方がいい。

 Hsuは、あのコンピュータらしからぬ手が人為的操作だとするカスパロフの抗議を退ける。あの手に関してはNHKでも放映されたから知る人は多いと思う が、たとえそれが人為的であったとしても、世界チャンプの発言としては情けなさすぎる。この件に関しては映画『ゲーム・オーバー』まで作られている。
 こういう本に関しては、人間をしのいだマシンを畏怖するよりそのマシンを作った人間を賞賛すべきなのだろうが、どうもそんな気になれない。自分のことを 考えると、機械が得意なフィールドにまたのこのこともどってきて「材木押し」をするのがやるせなくなってくる。

 私はやはり、機械がもっと苦手な芸術的分野に執心すべきなのだ。翻訳ソフトなんて、まだ語用や意味どころか文法さえ完璧には判断できないし、造形や音楽 に関しては言うまでもない。
Behind Deep Blue: Building the Computer That Defeated the World Chess Champion
0691118183 Feng-Hsiung Hsu

Princeton Univ Pr 2004-01
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2005年10月15日

Plaskett『Can You Be a Tactical Chess Genius?』

 最初に書くチェスの格言は、ネタ切れというより「マスターズ」連載の好機に使うために温存している。最近は珍しく本業の方をきばっているので、この最初 の近況報告もネタはあってもさぼりがちだ。それでも記事は毎日書いているのだから我ながらあきれる。
 それより例会が6週間ぶりなので明日行くのがますますおっくうになってきたが、本を持参するついでもあるから仕方ない。棋譜並べや局面問題を解いて手 応えは感じ続けているが、実戦で腕試しをしたいとは全然思わなくなった。ブログ書いてるだけで満足なのは確かだ。


 今回は、先週紹介した"Can You Be A Positional Chess Genius?"の姉妹本"Can You Be A Tactical Chess Genius?"(Everyman Chess, 2002年, 144ページ)だが、著者は違ってベテランのGM James Plaskettである。

 Leopold Lacrimosaは、5000題以上を収録した「ポルガー親父の本」を引き合いに出して、180題くらい解いてGenius(天才)になろうなんておこ がましい。しかし、その目標へ向かっての出発点としてはいい本と述べている。
 180問は15問ずつの12章に分割されていて、15問は難易度に応じて5問ずつが5,10,15点満点と区別されている。ページあたりの問題数は2問 ずつで目に優しく、"Ask A Grandmaster"というヒントが付いているのも姉妹本と同じである。

 しかし、戦術テーマそれぞれに関する基本的な説明がないので、全くの初心者には向かないようだ。入門書を読み終わったくらい〜中級者向けだろう。しか し、今は"Positional"と同じくマーケットプレースのみ。今後はamazonに在庫があるものに絞ろう。今回は手抜きレビューだった(汗。
Can You Be a Tactical Chess Genius?
1857442598 James Plaskett

Everyman Chess 2002-05-01
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2005年10月09日

Bill Robertie『Beginning Chess Play』

 寒暖を繰り返すこういう季節は嫌いだが、窓がむだに多くて冷房効率の悪いうちは、今後せいぜい早朝から日光を取り入れて暖房効率を上げたいところだ。窓 が多いのは壁が弱くて地震につぶれやすいということで、震度6だとアウトだろう。すでに1.5度ほど傾いている(汗。
 ラスカーの『チェス戦略』訳は終盤に突入、といってもこの後に多量の中盤があるのだが、最低限にまとめられたこの終盤の内容は初心者がとりあえず一覧す るにはちょうどいい。誰もが並べて理解できるという確信は持てないけど。


 日本の初心者はまず和書と実戦で中級レベルに達するだろうから、洋書の入門書を読むことは少ないと思う。しかし、うちのアソシエイトではセイラワンの "Winning ..."シリーズ(かつて試しに1冊買った)が売れていたりするので需要がないこともないのだろう。
 そこで今回は、Bill Robertieの"Beginning Chess Play"(第2版)である。出版社Simon & Schusterはラインフェルドやパンドルフィーニ本を連想する。著者は元全米早指しとバックギャモンのチャンプでもあるらしいが、全然知らなかった。
 以下の、本文を引用したChessvilleのレビューと訳がいちばん参考になりそうだ。


"Control The Center" and a diagram with the central squares designated.  Then follows: "In the opening, we control the center by developing pieces; that is, moving pieces off the back rank into battle. That should be a key goal of your opening strategy: develop your pieces, preferably toward the center of the board, and mobilize them for the coming fight."
 「センターの支配」は、センターのマスが示された局面図付き。続いて、「序盤では、ピースを展開する−最下段にあるピースを戦場に向けて動かす−ことに よってセンターを支配する。これは、序盤の戦略に欠かせない目標である。ピースをできれば盤の中央へ向けて進め、来る戦いへ動員する。


 こういう部分は、ラスカーの『チェス戦略』と同じだなと思う。最近は初心者本ほど頻出するといってもいいこの軍事用語のたとえは以前ほど気にならなくな り、機会あれば原文になくても訳で使うことすらある。文体的には、英語特有の連続名詞表現が日本語の漢熟語の羅列に反映する方がずっと読みにくい。
 上記訳に少し触れておくと、細かいことだが最後に出てくるcenterはof the boardが付いているから用語としてのセンターと区別した。センターという訳語も、中央だと「中央」とでも強調しないと一般語に埋もれてしまって用語の ニュアンスが出しにくいからとも言える。

 ラスカーを訳していると、いろいろと訳語の疑問点や披露したいテクニックが出てきてネタはたまりつつある。いずれまた紹介する機会を持ちたい。
Beginning Chess Play: The Essentials of Winning Chess Play
1580420443 Bill Robertie

Cardoza Pub 2002-09
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2005年10月07日

positional〜『Can You Be a Positional Chess Genius?』

 私は興味ないが、ドイツでチェスボクシングが行われたことが、日本のニュースサイトでも上がっている。この扱いを見ると、JCAがチェス普及のために重 要視する理由が分かる気がする。海外だと二競技ともに強豪のプレーヤーがそろうのだろう。そういえばエイベはボクサーじゃなかったっけ?


 今回は、"Can You Be A Positional Chess Genius?"、著者はIM Angus Dunnington(Everyman Chess、2002年、144ページ)である。これは、GM Plaskett著の"Can You Be A Tactical Chess Genius?"の姉妹編にあたり、デザインや構成も似ている。
 Chessvilleのレビューによると、本書は問題集の答を考え解答を見て答合わせをするといったルーティーン作業では、本書の神髄を味わうこともで きないし、自分のポジショナル プレー力を伸ばすことにもならないとある。

 用語positionalは(造語は別として)短い日本語には置き換えられないから、「チェス翻訳の話」記事でも逃げてきたし、未だに「用語集」でも 「ポジショナル」としているだけだ(汗。数語で置き換えていいのなら「駒の配置に関する」と言っていいだろう。
 その意味での対立概念はmaterialだ。例を挙げると、駒数と価値が同じでも一方が展開で勝っているとpositional advantageを持つというぐあいである。しかし、別の見方では、上記の姉妹本のようにtacticalがもう一つの対立概念となる。

 この場合のpositionalも「駒の配置に関する」という意味には違いないのだろうが、tactical playerが攻撃的でスリリングな一般受けする印象に対して、positional playerは玄人受けすると言えば聞こえはいいが、一般的にはだるくておもしろみのないプレーヤーと認識されていて、割に合わない表現となっている。
 だからといって、「サクリファイスが通ればポジションが引っ込む」(いろはガルタの「無理が通れば道理が引っ込む」のチェス版?)と考えるのは間違いで ある。サクリファイスが成立するためにはpositional advantageの積み重ねという前段階があったはずだからだ。

 何か入門書の前書きのようになったが、そう考えるとpostionalな問題というのは難しそうだ。誰だったか、「アリョーヒンが妙手を決める局面でな ら私もそ れを見つけられるが、その局面まで持ち込むことができない」と言っていたのはまさにこのことだろう。

 3段階レベルの問題が全部で15問というのは、各章ごとの数だろうか。ページあたり2個の局面図があるほど問題は多いはずなのだ。その題材は、 1911〜1998年の有名なゲームの局面と一部はこのための作局である。
 "Ask a Grandmaster"というヒントも付いている。フォントは大きくて読みやすい。"My System"くらいは先に読んでいた方がいいというレビューを見ると、基本的な用語には精通している中級者レベル以上向けのようだ。amazonカスタ マーレビューの方が分かりやすいので参照されたし(汗。
Can You Be a Positional Chess Genius (Everyman Chess)
1857442644 Angus Dunnington

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star上級者向け:Positional Chess の実戦的問題集。

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2005年09月30日

Evans『The 10 Most Common Chess Mistakes』レビュー

"A chess game is divided into three stages: the first, when you hope you have the advantage, the second when you believe you have an advantage, and the third... when you know you're going to lose!" - Tartakower
「チェスのゲームには3つの段階がある。最初は、優勢を期待するとき。次は、優勢だと思うとき。そして3つ目は…負けると分かるときである」−タルタコーワ

 一昨日はビデオデッキのダブル&マルチ画面機能が効かなくなったが、なぜかほっとした。ソニーのVHSとHi8のWデッキで、VHSはすでに故障し、 Hi8もPC録画に取って代わっていたので、この機能のためだけに常にデッキ側でチャンネル操作をしていたからだ。
 だから寝るときにプラグから電源を切っても、デッキとして使っている時間を考えると電気代が無駄だった。そこで、昨日デッキをしまい込んで、空いたテレ ビ下のラックに、今まで裸で並べていたCSチューナーやMDデッキを入れてすっきりした。


 やっと預かっている本の最後、モーレーの"My One Contribution to Chess"のレビューをしようと思ったが、amazonに見あたらない。タイトルからは想像も付かないが、一辺12マス等のフェアリー・チェスを考案し た話である。Faber and Faberだが、出版年等が表記されていなくてずいぶん古いハードカバーだ。

 というわけで、また「人のふんどし(で相撲を取る)レビュー」を再開する。特に理由もなくラリー・エヴァンスの"The 10 Most Common Chess Mistakes"を選んだ。タイトルからすると初心者向けのようだが、たしかに上級者向けでないにしてもそう簡単なものではないらしい。
 世界チャンプを含むマスターたちのやらかした218のミスが、20個ずつくらいで10種のよくあるミス(以下に記す)に分類されている。それぞれのミス は問題になっていて、1ページに1つ、図に1,2行の状況説明が付き、2つの選択肢(実際に指されたミスと正着)から解答を選ぶ。

1.  Bad Development 展開の後れ
2.  Neglecting the King キングを軽視
3.  Misjudging Threats 狙いの過小評価
4.  Ignoring Pins ピンの見落とし
5.  Premature Aggression 早すぎる攻撃
6.  Miscalculation 読み間違い
7.  Impulsiveness 衝動
8.  Pawn Snatching 欲張りポーン
9.  Creating Weaknesses 弱点生成
10. Inattention 不注意

 特に二択であればテーマで答が分かってしまうのがこの手のクイズの欠点だろう。しかし難易度にはかなり幅があるようで、逆にこのくらいでないと初心者に は難しすぎるようだ。説明を読んでも手の良し悪しが微妙すぎて分かりにくいものもあるらしい。
 テーマには目新しいものもないが、分析さえ目で追えれば盤に駒を並べずに寝転がってでも読んで楽しめる。答を考える前に解説を見てしまってもある程度の 勉強にはなるだろうが、実力向上に寄与するかは、同様のパターンを実戦で体験したときに生かせる直感力になるまで身につくかどうかだ。
The 10 Most Common Chess Mistakes: ...And How to Avoid Them!
1580420427 Larry Evans

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2005年09月28日

Thomas『Chess for the Love of it』レビュー

"Every chess master was once a beginner." - Irving Chernev
「どのチェス・マスターも昔は初心者だった」−アーヴィング・チェルネフ

 ガトームソンや川島の離脱に最近の打線不振でついにヤクルトが4位に転落した(汗。しかし、CSフジで関根潤三元監督が語る話はおもしろい。あのノーラ ン・ライアンを獲得し損ねた話まで久々に思い出させてくれた。ヤクルトの交渉窓口が100万ドル渋ったからという理由まで(今だから)明らかになると、ま すます残念だ。


 預かっている絶版本も残り三冊。週末の例会までに何とか終わりそうだ。A. R. B. トーマスの"Chess for the Love of it"。著者はイギリスの国内ではトップクラスのプレーヤーだったらしいが、まだマイルズ、スピールマン、ショートらが出てくる前の話である。
 しかし、ヨーロッパに遅れをとるイギリス国内のチェスに活を入れるような発言も出てくるので、今日に至る発展に貢献したのだろう。著者のいるクラブにブ ラックバーンやカパブランカがやってきたときの話などもある。

 少し引用するだけではおもしろい部分もないので、裏表紙の解説にする。


 Largely as a result of the Fischer-Spassky encounter, there has recently been a great upsurge of public interest in chess. A. R. B. Thomas is no newcomer to the game: he has had more than fifty years' experience of international congresses, and in this book his aim is to communicate the intense pleasure he has experienced in the world of chess. He also looks at the state of British chess today and discusses ways of improving it. Two chapters will be of special interest to the tournament player. They are the ones in which he discusses little-known lines against the Sicilian Defence, and gives a survey of the rarely-played Moeller Defence to the Ruy Lopez, including games of historical importance. The book concludes with a detailed analysis of the author's own experience of playing and beating an American chess computer.
 主にフィッシャー−スパスキー戦のおかげで、最近の世間のチェスへの関心はめざましいものがある。A. R. B. トーマスは新参者ではない。国際大会に50年以上参加し、チェス界で経験した熱烈な喜びを伝えることが本書の目的である。今日のイギリス・チェ ス界の現状も見つめて、改善方法を論じている。2つの章は、特にトーナメント・プレーヤーには興味深いものだろう。シシリアン・ディフェンスに対するほと ん ど知られていないライン、めったに指されないルイ・ロペスのメラー・ディフェンスを、歴史的に意義あるゲームも含めて検討している。締めくくりは、著者自 身がアメリカのチェス・コンピュータを打ち破ったゲームの詳細な分析である。


 出版社は、最近あまり見ないRoutledge & Kegan Paulだ。こういう同人誌的な本でも、英語で出せば世界を市場にできるのがうらやましい。読者数が圧倒的に少ない言語に訳してもなあ…。まあ本職の方は いちおう世界を市場にできるんだけど。
Chess for the Love of it
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2005年09月25日

理論(家)〜『Complete Chess Strategy』レビュー

"Chess is ruthless: you've got to be prepared to kill people." - Nigel Short
「チェスは無慈悲だ。人を殺す覚悟が必要である」−ナイジェル・ショート

 先日のテレビの特番で、2年間何も食べないで生きている男を見た。 半年くらい前にも同様の女性を見てうらやましいと思ったのだが、共通するのは長時間日光を浴びてそこからエネルギーを得る仕組みがあるらしいということ だった。
 男性の方は、毎日ハチミツ入りの水を少し飲み、太陽を直接何時間も見る必要があったのだが、何がきっかけでこうなったのが気に なる。昼食をハチミツだけとかにしてみようかしらん。単に太ってしまうだけかもしれないが、太れば栄養が足りてるからいいのか(笑。


 日本人チェス伝道者Sunkingさんが「近代チェスの中盤のバイブル」と呼び、学生時代からライフワークのように訳を続け、いつからか tabataさんにバトンタッチした(?)本、パッハマンの"Complete Chess Strategy"(全3巻)である。この人も レティと同じチェコ出身だ。
 手元にあるのは1巻のハードカバーのみで、これに該当する10年以上かかった訳は以前にSunkingさんから購入したが、原本が英米式表記であること もあって、全然イメージが一致しない。とにかく、テーマ別に中盤技法を実戦素材から学ぶ本としては歴史的な名(大)著である。

 しかし、また絶版本だし、今回は「序文」から引用する部分にタイムリーなネタがあるので、久しぶりに用語翻訳について掘り下げてみる。ではまず、引用(p.vii)と訳である。


Is it possible to learn how to play the middle-game correctly, or must we rely on our own imagination, combinative powers and experience when tackling this complex phase of the game?
 There is no doubt that the theory of the middle-game is vastly different from that of the opening. The latter has been studied in detail, with theoreticians attempting to supply us with the 'best' moves. We must of course try to grasp the strategic and tactical ideas behind each opening, but there is no escaping the need for a wide knowledge of many concrete variations.
 中盤戦の正しい指し方を学ぶことは可能なのか、それとも自分自身の想像力やコンビネーション力、複雑な局面と渡り合う経験に頼るしかないのだろうか?
 中盤戦の理論が序盤のそれとひじょうに異なることは疑いない。序盤 は、理論家が詳細まで研究して「最善」手を示してきた。各序盤定跡の 背後にある戦略および戦術的考え方を把握するのも当然だが、多くの具体的な変化手順を幅広く覚える必要から逃れることはできない。


 この後に、問題の中盤の話になるのだが、今回のネタはここまでにある。ha4shu2さ んの「通信チェス」の「チェス用語集のリンク集」のコメントで雑役翻訳屋さんの「チェス用語集」が更新されたことを知って見に行くと、増えているのは分かるがそ れがどれかが分かりにくい(というのはうちの用語集も同じ)。
 しかしtheoryと(今回増えたらしき)theoreticianの説明に目が留まった。以下に引用する。


theoretician:次項のとおり、チェスでは実戦に使われた 手を整理した体系をtheoryと呼ぶ。一般のtheory(理論)とは少し違う意味がある。だからtheoreticianを「理論家」などと訳すのは 誤りで、「序盤研究の得意なプレイヤー」の意味である。
theory:セオリー、定跡。本にまとめられた序盤・終盤の知識。 ただし、将棋の定跡とは違って、1局でも実戦例があれば、定着していなくともtheoryと呼ばれる。その場合は「戦例」と訳すべきであろう。
(c) 2001-2005 NISHIMURA Hiroyuki


 言われてみるとたしかにその通りだが、私はずっと上記のように「理論」と「理論家」の一本槍でやってきた(汗。上記の訳「中盤戦の理論」は何とか許容 範囲だと思うが、序盤に関してはしっくりこないから「セオリー」でぼ かしておこうと考えたことはある。
 日本語の語感では硬い「理論」に比べて「セオリー」はかなり柔軟だ。しかし、それでも定跡という意味にはほど遠い。ここは思い切って実情をもっと反映し た訳語にしなければならない。上記の「序盤は、理論家が」は「序盤は、専門家が」 くらいにしておこう。ちなみにSunkingさんは「序文」を訳してない(笑。
 「専門家」という言い方も、この場合は序盤の専門家と分かるが、一般に専門家と訳しがちなexpertはマスターの下レベルという「エキスパート」と、単に初心者と対比する熟練者や名人という意味でも使われる。今訳しているラスカーもそうだが、この用 法は古い人に多いようだ。

 私の用語集では、訳語意味を分けているが、この二つは結局のところ補い合うしかない。よほどぴったり の訳語を付けても、用語集を頼りにする人の大半は意味が知りたいわけだし、長々と意味を説明できても、一言でしっくりくる訳語が付けられない場合は歯がゆ い。
 最近はdiagramなどどうでもいい訳語を付け加えたくらいだ が、読みやすい翻訳という一般的なレベルでは、訳語より文体の方がよほど重要で、まだラスカーの文体となじめない私は、粗訳のままとりあえず進めてしまっ ている。長い目で見てやって下さい(汗。
Complete Chess Strategy
0713429720 Ludek Pachman

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2005年09月23日

Bell『The Machine Plays Chess?』レビュー

"Chess is really 99 percent calculation." - Andrew Soltis
「チェスは、実際99パーセントが読みである」−アンドリュー・ソルティス

 夏が終わろうとしているというのに、仕事の製作工程が変わって、乾燥作業のためにどうも扇風機が必要になってきた。関東へ出てくるときに捨てたのが悔や まれる。しかも、それ を買った近所の小さな電気屋が最悪で、釣り銭をわざとらしく少なく間違え、指摘しても謝りもしない。
 なぜそこまで覚えているかというと、そのとき「保証書に店名を書いてあるか」と念を押したのに、帰ってみると何も書いていない。あきれかえってそのまま にしてしまったが、10年以上経った今「扇風機」というキーワードを聞いただけでもまだ怒りがこみ上げるので、そのとき怒鳴り込まなかったのが悔やまれ る。
 安い量販店やネット販売の台頭にもかかわらず、安くもないのに細々と近隣の商品知識のない固定客を相手にして図々しく生き残っている転売以外に能のな い自営業者や、前の歩道スペースを違法に占拠している八百屋や花屋は早くつぶれてくれ。


 今回は初のチェス・コンピュータ本、この手では草分け的な"The Machine Plays Chess?"である。著者ベルは、UNIXやC言語を開発したベル研究所と関係あると思っていたが、どうも違うらしい。この手の本はたいていケンペラ ンの自動チェス人形「トルコ人」で始まるが、本書も例外ではない。
 チェスソフトの基本的な部分は変わらないとはいえ、定跡書と同じで古くなると歴史的な意義を感じて読むしかない。逆に、時代に先駆けてプログラムを考案しながらも、ハード ウェアが追いつかなくて、実現できなかった数学者たちの苦労を思うと、切ない気持ちになる。

 今一つ引用したい部分がないので、裏表紙の真ん中辺りだけにしておく。

"Because it's there," was Sir Edmund Hillary's explanation of why he climbed Mount Everest. The chess programmer might well use the same explanation when asked why he has accepted his challenge. The difference is that chess seems to have no finite bounds limiting its development, and the triumphant programmer will never be sure that his programme cannot be eclipsed by another even when all human opponents are long vanquished.
 「そこに山があるから」。エベレストへ登った理由を聞かれたサー・エドマンド・ヒラリーは、そう答えた。チェス・プログラマーも、挑戦する理由を聞かれ たら同様に答えるだろう。違っているのは、チェスには進歩に限界がないと思えることである。勝ち誇ったプログラマーでも、自分のプログラムが他のプログラ ムに今後も負けないとは言い切れない。すべての人間プレーヤーがマシンに打ち負かされて久しい時代になってからでも。
The Machine Plays Chess (Pergamon Chess Series)
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2005年09月19日

最短ステイルメイト〜『Book of Extraordinary Chess Problems』レビュー

"Chess is a sea in which a gnat may drink and an elephant may bathe." - Indian proverb
「チェスは、ハエが喉を潤し、ゾウが水浴びできる海である」−インドのことわざ

 ラスカーの『チェス戦略』は第3章までアップした。ここまでは1章分が短いから何てことはないのでこれからだが、抽象的な内容が減ってくる分だけやりや すくはある。中級以上の方には歯ごたえがないとは思うが、これからチェスを始める方々には必ず役に立つものと信じている。


 プロプレムについては松田さんの本の書評で触れたりしたが、まだそういう本のレビューはしてなかった。今手元に残っているのは一冊だけだが、これが全く とんでもない。いわゆるフェアリー・チェスに属するセルフメイトやヘルプメイト、レトログレードはもとより、条件を満たす局面を作るなんて問題まである。 しかしルールを改変したものはない。
 プロブレムの本は作家の名前を出しておけばいくらでも引用できるから、翻訳するよりは自分で編集して作ってしまう方がずっといい。しかし、問題と答くら いは英語でもほとんどの人は分かるだろうから、よほどいい本を作る必要があるだろう。

 自力で解いたチェックが付いた問題は数えるほどで、答を見て感心するものと割り切った方がいいが、印象に残っているものを一つ紹介しよう。ゲーム開始局 面から最短のメイトは有名な馬鹿詰め(1 f3(4) e6(5) 2 g4 Qh4#)だが、最短のステイルメイトを作れという問題である。
 サム・ロイドが1866に作った10手が解答となっている。これより短い答はないのだろうか。

1 e3 a5 2 Qh5 Ra6 3 Qxa5 h5 4 Qxc7 Rah6 5 h4 f6 6 Qxd7+ Kf7 7 Qxb7 Qd3 8 Qxb8 Qh7 9 Qxc8 Kg6 10 Qe6 ステイルメイト










 調べてみると他にもあった。しかし、白の2手目まで(1 c4, 2 Qa4)と少し手順が違うだけで最終局面は同じだった。問題は、それが'95年のスウェーデン・ジュニア選手権で指されたということだ。当然示し合わせた ドローだが、こんなことをするとディレクターによっては両者負けにされることがあるので気をつけよう。

 これも遊んでいる。Jens Hohmeister - T Frank 1993 1.d4 e5 2.Qd2 e4 3.Qf4 f5 4.h3 Bb4+ 5.Nd2 d6 6.Qh2 Be6 7.a4 Qh4 8.Ra3 c5 9.Rg3 f4 10.f3 Bb3 11.d5 Ba5 12.c4 e3 1/2-1/2










 この駒取りのない最短ステイルメイトの元ネタもサム・ロイドだった。1.d4 d6 2.Qd2 e5 3.a4 e4 4.Qf4 f5 5.h3 Be7 6.Qh2 Be6 7.Ra3 c5 8.Rg3 Qa5+ 9.Nd2 Bh4 10.f3 Bb3 11.d5 e3 12.c4 f4. 最終局面は黒のクイーンと黒マスビショップが逆になっている。
 真似する方も少しだけ変えてオリジナリティーを出すことで、グランドマスタードローよりたちの悪いドローにする罪悪感を緩和したのかも知れない。将棋で ステイルメイトにしたら勝ちだが、チェスでは現在のドローの前は負けという、将棋の常識からさらに遠いルールだった。おもしろいからまた扱いたい。
Book of Extraordinary Chess Problems: 120 Unusual Puzzles
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2005年09月18日

Fred Reinfeld『Chess For Amateurs』レビュー

"The pin is mightier than the sword." - Fred Reinfeld
「ピンは剣より強し」−フレッド・ラインフェルド

 訳あって十数冊の古いチェス書がうちに届いた。うちにある間にこれらの本のレビューを優先させようと思う。しかし古いからamazonに在庫のないもの ばかりだし、私もざっとながめただけだし、レビューになるのだろうか。まあいつものことだが。


 ラインフェルドの"Chess For Amateurs - How To Improve Your Game"だが、新書ほど小さくて本文は98ページ。外国のキヨスクとかに置いてありそうな感じだ。下のamazonリンクのより実は古い出版社のもの で、値段はたったの1.95ドル。しかもその前にハードカバーで10版以上を重ねていたという。
 10のレッスンがそれぞれ1つずつ主要定跡のゲームを紹介し、その多くの局面に問題が埋め込まれている。選択問題のような気楽なものではなく、「この手 の狙いは?」といった論述問題が多いから真面目にやると簡単ではない。だから解答のページ数の方が多くなっている。

 ロバート・バーンの序文の最後(p.xi)を引用して訳そう。教科書的だからおもしろい文章が見あたらない(汗。


 This book can be used and enjoyed by merely playing through the games and peeking at the commentary, but I firmly recommend that the most productive method is to write down your answers to the quiz questions before turning to Reinfeld's instructive commentary. This way the aspiring amateur is virtually guaranteed significant progress.
 本書は、単にゲームを並べて解答をのぞき見るだけでも楽しめるが、ラインフェルドのためになる解説を見る前にクイズの答を書いてみるという積極的な方法 を強く勧める。意欲的なアマチュアなら、実際にかなりの進歩が見込めるだろう。
Chess for Amateurs: How to Improve Your Game
0812821858 Fred Reinfeld

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2005年09月17日

Fred Waitzkin『Searching For Bobby Fischer』レビュー

"You cannot play at chess if you are kind-hearted." - French Proverb
「優しい心ではチェスはできない」−フランスのことわざ

  せっかくの翻訳連載ネタだったラスカーの『チェス戦略』だが、「水野優のリンク」に加えてそこだけに上げることにした。ホームページだと、段組みなどレイアウトを変える必要があるので二度手間がかえって面倒だからである。その代わりハイピッチで進めてとっと片づけてしまいたい。


 昨日のツー・ナイトのWilkes-Barre Var.はフレッド・ウェイツキンの"Searching For Bobby Fischer"にも出てくる。著者の息子である主人公ジョシュが、世界選手権中のモスクワでロシアの子供と指すシーンである。私の翻訳本はいつ出せるか分からない(お金の問題)ので、その部分(p.52〜53)の引用と訳を紹介する。


 In the first game, Anton played a Wilkes-Barre variation which my son had never seen before. "My God," I thought, "even little Russians know everything about chess." Josh played in the lackadasical style he had developed the previous summer, looking longingly at pastries and smiling at passersby. Soviet fans holding cups of espresso pauseed to watch the two little boys play. Like players and kibitzers in Washington Square, the Russians were curious about little players; maybe one of them would be a world champion someday. Josh hardly glanced at the board, and when he took with his knight instead of checking with his bishop, he had a lost game. I smiled grimly at Anton's father, patted his boy on the head and fought the urge to pull Josh from the room, shake him and exhort him to play harder. It seemed inappropriate for him to be taking the game so lightly. The boys giggled and set up their pieces again. They were playing with them much as children play with jacks in a playground.
 最初のゲームでは、アントンがツー・ナイツ・ディフェンスのウィルクス−バリ変化を指した。我が息子が見たこともない定跡だ。「何てことだ。ロシア人はこんな小さな子でも、チェスのすべてを知っている」。ジョシュはこの夏に患ったやる気のないスタイルで指していた。物欲しそうにお菓子を眺めたり、通りがかる人に微笑みかけたりしている。ソビエトのファンは、エスプレッソのカップを持ったまま立ち止まって、二人の少年のプレーを観戦していた。ワシントン・スクエアのプレーヤーや見物人と同じく、ロシア人も小さなプレーヤーに興味を示した。二人のうちどちらかが未来の世界チャンピオンになると思ったかもしれない。ジョシュはほとんど盤面には目もくれない。ビショップでチェックせず、ナイトでポーンを取った時点でジョシュの負けゲームになった。息子の頭を軽くたたいたアントンの父親を冷ややかな笑みを浮かべて見た私は、部屋からジョシュを連れ出したい衝動と戦いながら、揺り動かしてでもなんとかしっかりプレーさせようと努めた。安易にゲームをさせることはジョシュのためにはならないらしい。しかし子供たちはクスクスと笑いながらまた駒を並べる。二人にとって、チェスはグラウンドでのボール遊びのようなものなのだ。
 Later Volodja came into the dining hall and I thanked him for lending us his ticket. "It is nothing," he said. He watched the children play for a few minutes. By now Josh was looking at the board and had got the hang of Anton's Wilkes-Barre attack; he realized that if he checked with the bishop and retreated it, he was up a pawn with a good position. The two kids were playing in the shadow of Karpov and Kasparov, and from time to time tumultuous cheers filtered from the hall to this children's game. Perhaps the boys fantasized that the cheering was for them.
 その後、ボロージャが食堂に入ってきたので私は入場券を借りた礼を言った。「何てことはないです」と答えた彼は、子供たちのプレーを数分ほど見ていた。今ではもうジョシュの目は盤面に向かい、アントンのウィルクス−バリ攻撃の対処法をつかんでいた。ビショップでチェックしてから引いておけばポーン得でいい局面になることに気づいたのだ。二人はカルポフ−カルパロフ戦の威光の下で指していた。ときおり嵐のような歓声がホールから子供たちのところまで聞こえてくる。二人の少年は、自分たちへの喝采と思っていたかもしれない。


次は、出版社へ売り込んだときのレジュメから「ストーリーの要約」である。

 スポーツライターである著者フレッド・ウェイツキンが、息子ジョシュの子供時代のチェスプレーヤーとしての活躍をつづったドキュメンタリー。ジョシュは現在成人してマスタークラスのプレーヤーであり、父と共著のチェス書も出版されている。
 タイトルのボビー・フィッシャー('43〜)はアメリカ人唯一の歴代チェス世界チャンピオン(在位'72-75)で、当時無敵だったソ連からタイトルを奪ったが後に防衛戦を放棄して表舞台から姿を消したために伝説の人となった。
 著者は当時フィッシャーがチャンピオンになる選手権を見てチェスファンになった。自分の才能には早々に見切りをつけたが、偶然ジョシュの才能に気付き、コーチまで付けて英才教育をほどこし、ジョシュは全米小学生チャンピオンになる。


 HALO/ChessBeatさんのamazonカスタマーレビューを読むたびに、なんとか翻訳を世に出したい気持ちは募る。思えば翻訳に足を突っ込むきっかけとなった本である。最初の訳はひどすぎたけど、1年前の訳でも直したくなる。一生勉強だ。
Searching for Bobby Fischer: The Father of a Prodigy Observes the World of Chess
0140230386 Fred Waitzkin

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2005年09月13日

Harold C. Schonberg『Grandmasters of Chess』レビュー

"Chess, like love, like music, has the power to make men happy." - Dr. Siegbert Tarrasch
「チェスには、愛や音楽のように人を幸福にする力がある」−ジークベルト・タラッシュ博士

 うちのチェス記事でいちばんの弱点は国際トーナメント等の最新情報な のは明らかだ。私自身が、ポスト・カスパロフの世界チャンプ事情にさえ疎い浦島状態 だから仕方ないのだが、せっかく翻訳力を生かせる分野でもあるので、ぜひこのサイトのこの連載トピックは和訳で読みたいというのがあれば、教えて頂きた い。


 以前の記事「グールド・フィッシャー・チェス」で、チェスの本も出している音楽評論家に触れたが、そのショーンバーグのチェスの本"Grandmasters of Chess"をmiddlemountain さんにいただいた。中古でペンの書き込みがあるが、それが読む助けにもなるし、開いたときの匂いもいいハードカバー本だ。
 なぜか同じ著者と思えないほど音楽書より読みやすい。フィリドールに 関してはもちろんのこと、音楽の引用が頻出する(音楽書にチェスの話はこれほど出せないだろう)ので、音楽とチェスと英語の3つに通じていることをこれほ ど幸せに思うことはない。

 約300ページのまだ40ページほどしか読んでいないが、第1章「ゲーム? スポーツ? 芸術? 科学?」から以下の部分(p.25)を引用して訳す。 普通のチェス書ではこういう視点の話はまずお目にかかれない。


 And in one case, at least, the actual physical movements of the expert chess player bear an amusing relationship to the polished finger movements of a great instrumentalist. Observe an expert chess player at the moment he captures a piece. He takes up his own piece daintily, between thumb and first finger of the right hand. Observe how his arm comes down with a swoop of finality toward the piece to be captured. Observe the slight anticipatory tremble of the third and fourth fingers as they approach their goal. If fingers can ever be said to salivate, these fingers do. Observe how, in one blurred swoop, as elegant as Heifetz in fingered octaves, the wrist pronates, the third and fourth fingers snatch the captured piece out of the way while, simultaneously, the player's own piece now occupies the captured square.
 たしかに一つの状況で、名チェスプレーヤーの実際の体の動きと名演奏家の洗練した指の動きとの間におもしろい関連が見られる。名 プレーヤーが駒を取る瞬間を観察してみよう。右手の親指と人差し指で自分の駒を優美につまみ上げる。そして、最後にさっと腕が駒を捕らえる様である。目的 のマスに近づくと、薬指と小指が前もってかすかに震える。指から唾液が出るのなら、よだれを垂らすだろう。はっきり見えないほどの一瞬で、ハイフェッツが オ クターブを弾く指のような優雅さで手首がくるりと回り、薬指と小指が相手の駒を取り除くと同時に自分の駒がそのマスに収まる様子を見て取ろう。


 片手で駒を持ち替える様を名ヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツが左手をオクターブ跳躍させる運指にたとえている。クロックを自分で押すかどうか や駒の形の違いによるのだろうが、将棋ではまず見かけない駒のさばき方だ。
 将棋はまず取る相手の駒をどけてから自分の駒を動かすが、チェスの 感覚ではかなりまどろこしい。ポーン等を進めるときに盤から持ち上げずに滑らせ、目的のマスで特に位置を直すでもなく盤に押しつけてから手を離す人は、ま ず将棋経験者と見ていい(笑。

 こういう本を読んでいると、私は技量向上本よりこっちの方が性に合っているなと思う。「十年留保」に該当しないのが極めて残念だが、本書からは折を見て引用したり内緒 のネタ本に使おうと思う。仕事とブログ以外の時間は当分これを読むのにかかり切りだ。
Grandmasters of Chess
0706701356 Harold C Schonberg

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2005年09月12日

Svetozar Gligoric『Shall We Play Fischerandom Chess?』レビュー

"Chess is life." - Bobby Fischer
「チェスは人生」−ボビー・フィッシャー

 リアルタイムネット対戦におけるソフト指しや、郵便戦、Eメール戦 等におけるソフト使用は御法度だが、禁止する手だてもない禁則は無意味だという意見も ある。ソフトを戦略等で上回れるプレーヤーにはどうでもいいことかもしれないが。
 私を含めて、トーナメント直前に序盤の手順をあわてて確認する人は多いと思うが、序盤の知識があるのとないのでは圧倒的な違いがあることは理解しつつ も、毎度のこういう行為(記憶力のなさ?)に何かむなしさも感じる。「ソフト使い」とやっていることは大して違わないのではないかと。

 そういうモヤモヤを解消するチェスが、「戎棋夷説」でも取り上げら れたフィッシャ・ランダム・チェス(FRC)である。1段目のピース の並びをランダムに並べ替えることで、定跡を無効にして真の(?)実力勝負をやろうというものだ。定跡から外れた直後が弱点とされるコンピュータに対する 人間側の苦肉の策ともいえ る。
 1993年にボビー・フィッシャーがシャッフル・チェスの一つとし てルールを確定したからこの名があるが、アイデア自体は古くて1792年の Zuylen van Nieveldまでさかのぼることができる。フェアリー・チェスは数多くあれど、これほど現実的な要請からの新ルール提案は、現行ルール確定以来の大事件 かもしれない。

 ピースの並べ替えには2つの制約があって、2つのビショップは互いに違う色のマスにあり、キングは2つのルックの間にないといけない。前者は戦略的に妥 当 だし、後者はキャスリングを可能にするためである。キャスリングのルールは複雑になり、18通りのルールが定められている。
 並び方は960通りだという。もちろんこの中には現行ルールの配置 も含まれる。クイーンとキングが入れ替わっただけの、鏡像的に定跡をそのまま使える配置もある。通常の配置から白または黒のみキングとクイーンの位置が逆 になるだけでも戦略はずいぶん違ったものになるだろう。
 しかし、白と黒の配置は同じだからそれはあり得ない。私などは白と黒の配置を別々に決めて、この手のボードゲームには御法度の「運」の要素を取り込むのも一興と 思うのだが、どうだろう。

 蛇足ながら960通りを検証してみよう。まずは8個の順列は(8P8 = 8!)通り。同じ駒2つが3組(ビショップ、ナイト、ルック)あるから、その各順列の積(2!x3)通りで割らねばならない。ビショップが違う色のマスに いるのは確率的に1/2と考えていいから、さらに2で割る。
 すると、8!/(2!x3x2)=2520. キングがルックの間にいる場合が問題で、場合分けするしかなく煩雑なので省略する(汗。とにかく、2つの制限にあてはまる局面は、ランダムに並べた場合の 2割未満しかないということになる。

 以下に紹介する本は、かつてのソ連圏以外最強プレーヤーにしてフィッシャーの旧友、ユーゴのGMグリゴリッチ(クロアチア語の発音までは分からん)によるもので、第1部は フィッシャーの伝記からFRCの開発まで、第2部はFRCを中心に扱う。
 第2部では、1842年のゲームから'95年のカスパロフの勝利、 '96年ユーゴでの初FRCトーナメントでのレコの優勝、それに 16x12盤を使ったカパブランカマローツィ戦までも出てくる。フィッシャーは駒の配置を決める装置まで考案した そうだが、そのためだけに電子機器を必要とする(時間をかければサイコロでも可能)ルールというのも皮肉なものだ。

 GMリュボジェヴィッチが言うように、この未来的アイデアは新たな 創造力を生み出すだろう。定跡がなくて最初から戦略的に手を考えねばならない。これは通常のゲームでは体験できない勉強になるかもしれない。詳しくはFischer Random Chess(簡単な960通り計算方法もある)を参照されたし。
 旧ユーゴはあのスパスキーとの再戦以来何かとフィッシャーに縁があ る国だ。一線を退いてからも、この伝説のチャンピオンはフィッシャー・モードという時間設定に新たな基軸を打ち出した。そして、次はルールまで変えようと している。…というか、もうこんなにFRCが指されているなんて知らなかった(汗。
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2005年09月08日

Richard Reti『Modern Ideas in Chess』レビュー

"The scheme of a game is played on positional lines; the decision of it, as a rule, is effected by combinations." - Reti
「ゲームの構想はポジショナルな指し手に沿って進め、勝敗を決するときは概してコンビネーションによる」−リファルド・レティ


 「十番目の惑星」という記事で、プラネタリアンへの羨望を書いた。先月は、大平貴之という独りでプラネタリューム(プラネタリウムという表記は使わない主義)を作った人がモデルのTVドラマがあった。
 欲しいなら自分で作ってしまえばいいという考え方は私も元から持っているが、このケースには脱帽だ。これほど一つのことに入れ込みながら、勉強も仕事もちゃんとやっているのだから単なる狂人でもない。
 私も紙に針で穴を開けていくプラネタリュームを作ったことがある。4等星まで開けるまでに何度手が痛くなったことか。生涯を掛けてやりたいことを見つけるのが彼より遅くなったからといって、私も負けてはいられない。

 
 今回は部分翻訳ストックの最後、リファルド・レティ(Richard Reti)『チェスの現代思想』(Modern Ideas in Chess)である。ニムゾヴィッチとともにハイパーモダンの寵児レティの代表作、『マイ・システム』とともに超現代派マニフェストといえよう。
 私的には『マイ・システム』より好きでボリュームも少なめだから翻訳候補だったが、なぜか手放してしまった。その絶版のDover版を現状ではHardinge Simpoleが復刻といい仕事をしている。高いのは仕方ないか。
 
 本書は、全体的には実戦を通して古典から現代への棋風の変遷を解説している。訳してあった第1章の一部を以下に紹介するが、ここにもコンピュータ・チェスの考え方の先駆けが見られる。


第1章 ポジショナルプレーの発展
 2. ポジショナルプレー

 一般の素人は、チェスマスターが強いのは3,4手あるいは10手20手も先まで読む力があるからだと思っている。そんなチェス愛好者は、私がコンビネーションプレーのときにおよそ何手先まで読んでいるのかと質問する。私が極めて真面目に、「たいてい1手も読んでいません」と答えると、きまって驚かれる。かつてアンデルセンの頃には、コンビネーションプレーの能力がチェスの才能の本質と見なされていた。しかし、それ以後チェスの精神はさらなる発展を遂げ、チェスにおいて正確に先を読む能力は、おそらく数学における計算技術ほど重要なものではなくなった。
 正確に先の手順を読もうとする試みは、単純な数学の公式を適用するだけで、おおむねいかに無理で不毛なことかがすぐに理解できる。特に狙いがない局面、通常の平穏な局面を想定してみよう。双方の手番ごとにそれぞれ平均して考慮すべき手が3手あるとすると、あまり先までは読めないことが明かになる。ここで3手としたのは計算を一般化しやすくするためである。すると、フル1手(つまり、一方が1手指して相手も1手指す)あたりのすべての変化だけで3^2=9通りも考慮しなくてはならなくなる。フル2手だとあり得る変化の総数は3^4=81にものぼり、これを読めるのはせいぜい郵便戦の場合くらいである。
 さらに白と黒が3手ずつ指す変化数を計算すると3^6=729となり、ほとんど実際に検討できる数ではない。この手数を苦労して読めたとしてもそこに何の得があるだろう? 変化手を読むことに意義があるのは、その先の局面で最も有利なコンビネーションがどれかを最終的に見つけられるときだけである。平穏な局面では3手先まで読み切っても明かな結果が出てくるとは思えない。だから、コンビネーションしか考慮しないという並のプレーヤーの考え方では、さらに先を読まねばならない。すると、数手後から先は可能な手数が増大し、人間の計算能力を超えた速さが必要になることが明かとなる。
 コンビネーションは、多くの可能性を読み切って1つに限定できる場合に限られる。つまり、一方の指し手がすでに予想できる指し手を相手に強いる場合である。指し手の狙いをかわす相手の手が1つかほとんど選択肢がない場合に起こりうる。たとえば、相手の駒を取ったから相手がそれを取り返す、あるいはチェックの場合である。そのようにしてコンビネーションは相手の指し手を強制する。そういう場合にのみ20手やそれ以上先まで読むことができる。別の変化手順がひじょうに少なくなるからである。
 大まかに言って、本書の本質的な目的はコンビネーションそのものではなく、指し手を決定する戦略的精神の進歩と発展に関連するすべての事柄を扱うことである。1手も先を読もうとしないで指し手を決める方法をポジショナルプレーという。コンビネーションとポジショナルプレーによる指し方は、お互いに相反するものではなくむしろ相互に補い合っている。ゲームの構想はポジショナルな指し手に沿って進め、勝敗を決するときは概してコンビネーションによる。このように、ラスカーはポジショナルプレーをコンビネーションへの準備とみなす見解を述べた。
 
 
 この記事の先頭の引用文(「ゲームの構想は〜」)は実は別のネタ場所から引っ張ってきたが、これがこの訳の最後にあったことに今気が付いた。前後の流れがないとうまく訳せないものだ(汗。
Modern Ideas in Chess
1843820153Richard Reti Harry Golombek John Hart

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2005年09月06日

Aron Nimzowitsch『My System: 21st Century Edition』レビュー

"The defensive power of a pinned piece is only imaginary." - Aron Nimzowitsch
「ピンされたピースの防御力は幻想に過ぎない」−アーロン・ニムゾヴィッチ

 去年チェス洋書を大量処分したときに買って頂いたmiddlemountainさんから、お礼にと洋書を2冊もいただいた。ニューヨークの大古書店ストランドで購入された貴重な本なので、いずれエッセンスをここで披露して還元したいと思う。
 
 
 また「チェス書レビュー」ページのストックから続けよう。アーロン・ニムゾヴィッチの『マイ・システム』である。マスターの99%が研究したと言われる傑作が新訳と国際式記譜になって図も増えた。
 全体的は、前半で概念の説明をし、後半でそれをどう実戦に生かしたかという構成になっている。概念部分では、著者自身によって考案された今も使われ続ける用語が多く出てくる。
 
 以下に、以前訳していた初めの部分をこれまた訳だけ記す(図は省略)。本書については「金田一輝のWaby-Saby」7/16でも取り上げられているので参照されたし。


第1部 基本事項
 第1章 センターをめぐる攻防と駒の展開
  −短い前置きおよび初心者がセンターと駒の展開について知っておかねばならないこと−

 チェスの戦略について私の考えでは以下の基本事項を挙げたい:

 (1)センター
 (2)オープンファイルの活用
 (3)第7および8段目(ランク)の活用
 (4)パスポーン
 (5)ピン
 (6)ディスカバードチェック
 (7)駒の交換
 (8)ポーンのつながり

 各々の事項については後にできるだけ詳しく説明する。センターを最初に扱うのは初心者を念頭に置いているからである。ポジショナルプレーに紙面を割いた本書の第2部では「さらに高度な学習」の観点からセンターの探求を試みる。周知のように、正にセンターをめぐる争点が1911〜1913年のチェス界において革命を引き起こしたのである。私の論文(タラッシュ博士の『現代チェスゲーム』はほんとうに現代的見解といえるか?(Entspricht Dr. Tarrasch's "Modern Schachpartie" wirklich moderner Auffassung?)は、伝統的な概念に真っ向から対立するものであり、新ロマン派(neo-romantic school)を生み出したように対抗勢力の先駆けとなった。学習的な見地を含めてセンターを二度取り上げれば正当な評価を下すことができると思われる。

 まずはいくつかの定義:

 図1に描かれたライン(4,5ランクを分ける水平線)を境界「線」と呼ぶことにする。もちろんチェスというより幾何学的な意味においてである。図2に描かれた正方形(中央の4マス)は盤の中心であり、同じく本来の幾何学的な意味においてもである。対角線の交わるところが中心だから見つけるのはたやすい。

◆1. 展開とは、境界線へ向けて戦力(駒)を戦略的に進めることである。

 手順は戦争が勃発したときの進軍に似ている。両軍は敵陣に侵入するためにできるだけ迅速に境界線へ到達しようとする。

 展開は総合的な概念である。1,2,3個と駒を繰り出したからといってそれだけで展開したとはいえない。すべての駒が展開された状況が必要なのである。展開時は民主的精神に満ちているべきだろう。民主的ではない例を挙げよう。一人の将校(駒)が長い距離を歩き回っている間他の将校たちが自軍でしびれを切らして死ぬほど退屈そうにしている。それではいけない。各々の将校を動かすのは1度だけにし、そこで待機させるのである。

◆2. ポーンの前進はそれ自体が展開する指し手ではなく、単に展開の補助としか見なされない。

 初心者にとって重要な規則を述べよう。ポーンを動かさずに駒を展開することができるならば、それは正しい駒の進め方である。なぜなら、ポーンの攻撃力は明らかにピース(ポーン以外の駒)より劣っているため、ポーンは境界線を突破しても敵に脅威を与えないという意味で攻撃部隊とはいえないからである。しかし、ポーンを前進させずに展開することは実際には不可能だ。センターを支配した敵のポーンが、持ち前の攻撃性を発揮してこちらが展開したピースを追い払うからである。このため、展開するピースの安全を確保するためにまずはポーンでセンターを支配しなければならない。センターとは、中心を囲む4つのマス、e4,e5,d4,d5 である(図2)。

 ポーン抜きの前進が破滅に導かれることを以下に説明しよう。1.Nf3 Nc6 2.e3(このポーンはセンターまで前進していないから、まだこの意味でポーン抜きの前進と見なせる). 2...e5 3.Nc3 Nf6 4.Bc4? d5. ここで白の展開の欠陥が見て取れる。黒のポーンが白の戦力を解体している。5.Bb3(初っ端から二度動いて悪し), 5...d4 となり、少なくとも実戦経験が乏しい者にとって白は窮屈な局面である。

 もう一つの例を示そう。白はクイーン側のルーク落ち、A. ニムゾヴィッチ−アマチュア(白のaポーンはa3に置く)。1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Bc5 4.c3 Nf6 5.d4 exd4 6.cxd4 Bb6. 黒はすでにセンターを失い、加えて4...d6と指さなかったために白のセンターはひじょうに動きやすくなった。ゆえに黒の展開は正にポーン抜き、厳密にはポーン抜きになってしまった展開といえる。7.d5 Ne7 8.e5 Ne4 9.d6 cxd6 10.exd6 Nxf2 11.Qb3 で黒はd6のポーンに完全に押さえ込まれ、ルークを取っても後数手で敵の猛攻に屈する。11...Nxh1 12.Bxf7+ Kf8 13.Bg5 で黒投了。

 この規則(前ページの◆2)から、ポーンの指し手が展開の段階で許されるのは、ポーンがセンターの支配に役立つあるいはその支配に論理的関連のある位置に進む場合である−具体的には、自らを守るあるいは敵のセンターを攻撃するポーンの指し手−ことが導き出される。1.e4 e5 に続くオープンゲームでは、d3 か d4 は−遅かれ早かれ−必ずよい手になる。

 しかし、上記に定められたポーンの指し手しか許されないとすると、この制限において端のポーンを指す手は時間のロス(手損)と見なさざるを得ない。クローズゲームではこの規則は制限付きでしか適用されない。敵との接触が不完全で展開も遅いテンポで進行するからである。

 要約しよう。オープンゲームでは展開の速さが最優先事項である。すべてのピースの展開は1手ずつで済まさねばならない。ポーンの指し手は、センターの支配か支持あるいは敵のセンターの攻撃に役立つものでなければすべて手損と見なされる。ゆえにラスカーが述べた通り、序盤のポーンの指し手は1つか2つ、それ以上はいらないのである。
 
 
 金田一輝さんは頻発する軍事用語のメタファー、amazonカスタマーのkatestvaさんは英語の分かりにくさを指摘している。新訳になってもこれではなあ。やはり和訳しかないのか。しかし、そんなことよりもう品切れになっている(汗。
My System: 21st Century Edition
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2005年09月04日

Alexander Kotov『Think Like a Grandmaster』レビュー

"Play the opening like a book, the middle game like a magician, and the endgame like a machine." - Spielmann
「序盤は本のように、中盤は魔術師のように、終盤は機械のように指すべし」−シュピールマン
 
 慣習とはいえ女性名(カトリーナ)が似つかわしくないアメリカの大ハリケーンの被害はすさまじかった。こんなのが来たら日本は全部覆われてしまうと思っていたら、すでにでかいのが近づきつつある。これも異常気象のせいなのか。
 
 
 今日は一日だけとはいえ復帰後初の大会を控えているので、レビューもすでに「チェス書レビュー」ページ(ほったらかし)に上げているアレクサンダー・コトフ の"Think Like a Grandmaster"(『グランドマスターのように考えよう』)にしよう。

 GMの考え方を読者に披露するという画期的な本でベストセラーになり、続編として"Play Like a Grandmaster"も出た。内容がいいには違いないが、分析の枝分かれが複雑で読み通すにはそうとうなやる気が必要だろう。
 各章は、分析と変化、ポジションの評価、プラン、終盤、プレーヤーの知識となっており。新版は国際式表記である。もう手元にないので原文を引用できないが、昔訳した序文を以下に記す。

序文

 チェスに関する書物は膨大な数にのぼる。最近のゲームに著者が注釈を付けたものから、序盤定跡の変化をまとめて最新版にしたものなどである。しかし不思議なことに、時代を風靡したプレーヤーがその強さの頂点に登りつめた方法を記述しようとは誰も考えなかった。そういう方法を研究すればチェスの複雑さを習得するプロセスが格段にたやすくなるはずなのに。
 本書では、ボトビニク、タリ、スミスロフ、ペトロシアン、ケレス、プロンシュタイン、その他多くの一流グランドマスターがどのようにチェスの理論を学び、チェスの戦略と戦術の神秘を理解しようと自己研鑽したかを記述した。彼ら自身が記事やゲームの注釈において披露している方法の他にも、私が仲間のグランドマスターとのプライベートな会話から得た方法もある。
 私自身の経験談も取り上げる。私のチェス界での実績は理論を勤勉に学んだ賜物であり、この経験は読者の興味をそそるものだと自負する。
 チェスは複雑なゲームであり、熱狂する数多の人々はそこに魅入られている。第1,2カテゴリーの強さにまで到達する人もいれば、生涯「一初心者」として満足する人もいる。もちろん、弱いプレーヤーでもタイトルを獲りたい、マスター、いやグランドマスターになりたいとさえ思っている。誰かが彼らにその目標へ到達する方法だけでも示すことができれば、チェスに熱狂する人々の多くは、興奮や神経をすり減らす経験に満ち、気が滅入るようなトーナメントの長丁場にも対処することができるだろう。
 ではどうすればグランドマスターになれるのか? 強豪プレーヤーの能力が純粋に天性のものであるならば、どんなに努力しても何も変えられないのではないか? 生まれつきの才能はもちろんある程度存在するに違いないが、それ以外に人間の努力の領域、戦略と戦術の技術を習得しようとする惜しみない努力こそが強さの主要因なのである。
 かの偉大なチェスの思索家エマニュエル・ラスカーは、100時間あれば並の若者を一流のプレーヤーにしてみせると断言した。それ以上のことはできるのだろうか? ラスカーにはこの主張の信憑性を証明する機会がなかったので、当然ながら疑問が生じる。入念な独学や勤勉だけでマスターあるいは最終的にグランドマスターになれるのだろうか?
 私の経験からすると、そういった学習や勤勉によって実戦の成績は格段に向上する。読者に知ってほしいのだが、私は1938年まではマスターのノルマを達成することができなかった。しかし、1936〜37年の学習のおかげで「一大ブレーク」が起きる。1938年にマスターの称号を獲得し、そのたった1年後にグランドマスターになったのである。人は自分自身の努力でグランドマスターになれる。勤勉になるだけでよい。その取り組み方を本書の内容で扱った。
 1 本書をできるだけ明解で有益なものにするため、戦略的な法則や概念に新たな名称を採用した。これは無用な学究的アプローチではなく、単に要点を覚えやすくするためである。
 2 本書は紙面の多くを、現在ではいわゆる旧世代に属するソ連のグランドマスターたちのゲームや助言に割いている。その訳は、私がチェスを通してずっと付き合ってきたのがボトビニクやケレス、スミスロフだからである。一方で若いグランドマスターは目下のトーナメント戦に忙しくて盤上の思考過程についての著作は少なく、通常は具体的な変化手順を発表するにとどまっている。
 3 本書には著者自身のゲームも含まれている。これもまた理解をたやすくするためである。チェスを指す思考の秘密を解き明かすという目的からすれば、当然自分の脳の奥深くまで掘り下げねばならない。
 それでは、親愛なる読者の皆さん。グランドマスター級チェスの極みに向かって戦いましょう。
 
 少し手を入れてみたが、「それ以上のことはできるのだろうか?」は流れ的に「そんなことができるのだろうか?」の間違いに思える。原文がないからこれ以上いじらないでおく。
 初心者も勤勉に学べばGMになれるといっても、初心者にはとても薦められない本である。通常は無意識にやっている「読み」のプロセスをコンピュータプログラムの手法のように図示して見せたことが、本書の革新的発想だったといえよう。
Think Like a Grandmaster: Algebraic Edition (Algebraic Classics Series)
0713478853Alexander Kotov

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2005年08月27日

Mullen & Moss『Blunders & Brilliancies』レビュー

"Without error there can be no brilliancy" - Emanuel Lasker
「ミスなくして名局なし」−エマヌエル・ラスカー
 
 また週末の聖子ドラマ一挙放送にかじりつきでさっぱり時間が取れない。誤ダブルクリックで30分録画切れの件も未だ釈然としない。早くも通販に注文したロングブーツが届いたが、見栄を張ったいちばん細いふくらはぎサイズがきつい。冬までにやせねば(汗。
 
 そろそろまたamazonに在庫がある本を紹介したいが、時間がないので調べる手間が省ける手持ちのから続ける。'90年に鈴木知道さんの車で突然訪問した日本郵便チェス協会会長の早川さんちで、帰り際にお土産にいただいた思い出の本である。
 パーガモンは日本に支社があるから、そこに直接注文できないか問い合わせた人がいたがだめだった。やや割高だがいい紙質と印刷で良書も多いのにロングセラーが少ないようで残念だ。
 
 307問が巻末の解答以外にヒントや実戦で起きたときのエピソード等とともに紹介されている。一見して負けの局面が勝ちといった意外性にあふれた問題が満載で、チェルネフ言うところの「ブーメラン・コンビネーション」の宝庫である。
 そういう意味ではレベルも高く、実力アップよりは鑑賞に向いている。巻末のプレーヤー索引を見ると、GM以外からも多く選ばれていることが分かる。唯一の日本人ゲームを取材した問題を紹介しよう。
 
138 A Matter of Technique
Nakagawa-Day, Buenos Aires (ol) 1978
White to play          ★★
It is surprising how often positions like this arise and, even more so, how often they are misplayed. The result of the game hinged on the relative values of Black's passed pawn and White's king-side majority. After 1 g5 fxg5 2 fxg5 h5, the march of the pawns had been halted and Black won.
Here, again, one may talk about luck - for one exact move would have assured victoty for White. What should he have played?








138 テクニックの問題
中川−デー、ブエノスアイレス(オリンピアード)1978
白番        ★★(5段階の難易度でレベル2)
 このような局面がしばしば生じることも驚きだが、こういうところでミスが起きる頻度にはさらに驚かされる。勝敗は、黒のパスポーンと白のキング側でのポーンの数的優位の力比べで決まる。1 g5 fxg5 2 fxg5 h5の後、白ポーンの進撃は食い止められ、黒の勝ちとなった。
 これもまた、運が悪かったと言えるかもしれない。白には勝ちを確定する正着があったのである。白はどう指すべきだったのか?
 
 こういう引用に登場する日本人はたいてい敗者だから、「勝てていたのに」というこの例はましな方だ。本人にしてみればほろ苦い思い出だろう。解答はいちばん下に書いておく。
Blunders and Brilliancies
0080371361Ian Mullen Moe Moss

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138. After 1 h5! Black might well have resigned, for he would have had no answer to the breakthrough 2 g5.
138. 1 h5!なら黒はリザインしただろう。黒は、突破してくる 2 g5に対してなすすべがないからである。
posted by 水野優 at 18:27| Comment(2) | TrackBack(0) | チェス(洋書評 その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月25日

Irving Chernev『Wonders and Curiosities of Chess』レビュー

 もうマウスのダブルクリック病が復活した。動画の編集で酷使していることや私のストロークが極めて浅いことが原因かもしれない。タッチパネル付きの単体キーボード(10キーなし)が欲しい(あるわけない)。
 amazonのデータベースから取得したXMLデータをスタイルシートでHTMLに変換するテストをしているが、XMLデータそのもの(ブラウズ表示前)を見ることができなくて進めない。いずれにせよ日本語対応は難しそうだ。
 
 Dover本が続くが、今回はチェルネフの"Wonders and Curiosities of Chess"。直訳すると「チェスの驚異と珍奇」だが、タイトルは出版社にお任せした方がいいだろう。『完全チェス読本』がその例だが、内容も似ている。
 両方とも原書は持っていたが、今は好きなこの本しか手元にない。実戦そのものに関するネタはこの本の方が多いし、一つ一つが簡潔で読みやすい。英米式記譜にはこの際目をつぶろう。
 
 毎日1つずつ引用して訳せば1年近くネタが持つが、チェルネフ晩年の'74年出版で「十年留保」に該当しないのが残念だ。『完全チェス読本』(装丁が豪華で高すぎ)の二番煎じでもいいから訳したいのに。
 p.48から引用して訳そう。
 
101 BALD HEADS WIN MATCH
In 1891 a team match was played at the Manhattan Chess Club between the bald-headed members and the full-haired members. The bald heads won 14-11.

101 ハゲ頭の勝ち
 1891年にマンハッタン・チェス・クラブで、つるピカチーム対ふさふさチームによるチーム対抗戦が行われた。結果は14対11でつるピカチームが勝利した。
 
 こんなくだらないものばかりと思われては困るので(笑)もう一つp.42から。
 
82 GO FOR CHESS
Dr. Emanual Lasker trained for his World's Championship with Dr. Tarrasch by playing the Japanese game Go daily with Edward Lasker!

82 レッツ・碁ー・チェス
 エマヌエル・ラスカー博士は、タラッシュ博士との世界選手権に備えて、毎日エドワード・ラスカーと日本のゲーム囲碁を打っていた!
 
 言うまでもないが、タイトルは「チェスに向けて頑張る」と「チェスのための碁」という二重の意味をかけている。翻訳でいちばん難しい駄洒落だ。駄洒落優先で意味を変えてしまう裏技もあるが、このケースはいかんともしがたい(汗。
 
 結局大した内容を紹介しなかったが、全体的には棋譜と局面図がたくさんあり、奇妙な記録やポカの話以外にも棋力向上に益する項目もある。ケレスが9人の世界チャンプを破った話では、異例にも全局が10ページに渡って掲載されていて感動的である。
 また絶版本が続いてしまった。Doverのことだからそのうちまた復刻するだろう。
Wonders and Curiosities of Chess
0486230074Irving Chernev

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2005年08月24日

Reuben Fine『The Psychology of the Chess Player』レビュー

 録画ボタンをダブルクリックすると30分切れになるなどという危険な機能(そのときボタンの見た目も変わるが30分未満のときは気付かなかった)を装備したVAIOのバンドルソフトも困ったものだが、ソニー(タイマー)製品とはなぜか腐れ縁がある。
 最初に買ったウィンドウズPCはVAIOノートで、これは液晶が先にいかれたが、浅くて軽いタッチのキーボードはお気に入りだった。未だに単品のノートタイプのいいキーボードを探しているが、あれほどにソフトなパンタグラフキーにはお目にかかれない。
 
 タッチパッドもよかった。信じられないと言われそうだが、私はマウスよりタッチパッドの方が使いやすい。右手をいちいちタイピング位置から大幅に動かして、さらに大きな動作を強いられるマウスはうっとうしくてしかたない。
 マウスの動作速度は最大にしても遅い。ダブルクリックの間隔は最短にしている。ファイル名の変更をするときなど、2回のシングルクリックをダブルと反応されてファイルが起動するのがいやだからだ。おそらく中年になってからPCを始めた人だと「一生」ダブルクリックできない設定だろう(笑。
 
 
 今回はまた変わったジャンルをと考えて、ファインの『チェスプレーヤーの心理学』(邦題だとこれしかない)にした。安いDover本の中でも74ページの薄っぺらだから買った当時で2.25ドル、JCA事業部でも770円で買えた。
 精神分析の博士号も持っていたファインは、実戦を退いてからチェスと心理学の著作に邁進したから、本書はその境界線上に位置することになる。'56年初出なのでフィッシャーとエゴについて書かれていないのが残念。
 
1. Review of the Literature 過去の関連文献のおさらい
2. Genaral Remarks on Chess チェスに関する総括
3. The World Champions スタウントン〜ボトビニク、チャンプ9人の精神分析(イラスト付)
4. Psychoses Among Chess Players 精神病と思われるプレーヤーに言及
5. Summary: Theory of Chess 1〜4のまとめ
6. Appendix: Two Letters by Ernest Jones 出版前に読んだジョーンズの感想
Bibliography 参考文献(2ページ)

 出だしからフロイト流精神分析の臭いがプンプンで、男子プレーヤーのみを対象にすればいい時代はそれでよかったろうが、今日ではそうはいかない。最近出たMarilyn Yalomの"Birth of the Chess Queen"はその対極にありそうだ。
 偏見かもしれないが、学者肌のプレーヤーは概してまともな方だったと思う。病的なモーフィーやシュタイニッツに比べてのラスカーやエイベである。一般に知られているチャンプの人柄以外にさほど目新しい事実は出てこない。
 
 「まとめ」の第2段落(p.68)を引用しよう。
The symbolism of the game lends itself particularly well to these conflicts. Central is the figure of the King, which as a piece is both all-important and weak, and derives its three meanings from this combination. The King stands for: the boy's penis in the phallic stage, the self-image of the man, and the father cut down to the boy's size. Both technically and psychologically the King is unique and gives the game its distinctive flavoring.

 チェスの記号化は、これら(チェスプレーヤー)の葛藤を説明するのに特に役立つ。中心的役割を成すのはキングであり、極めて重要でありながら弱いというこの駒の二面性から以下の3つの意味が派生する。キングが表象するものは、男根期の少年のペニス、男子の自己イメージ、少年サイズに切り詰められた父親である。キングは、駒の機能的にも心理学的にも特異で、チェスに独特の風味を醸し出している。
 
 私が買ったときは、心理学が実戦に役立つことを多少は期待していたが、全くそのような本ではない。それと、フロイト流精神分析の基礎知識を前提として書かれている。
Psychology of the Chess Player
0486215512Reuben Fine

Dover Publications 1956-12
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