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2007年07月02日

ファイン『定跡の背後にある考え方』4 dポーンの定跡 クイーンズ・ギャンビットその8

 白の4手目の変化手(1 d4 d5 2 c4 e6 3 Nc3 Nf6後の 4 Bg5に代わる)の中で特に取り上げる必要があるのは 4 Nf3だけである。4 Bf4や 4 e3等の他の手に対しては、黒は普通に ...c5とすれば序盤の問題は何もなくなる。

図27
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
クイーンズ・ギャンビット・ディクラインドの 4 Nf3後の局面

 そこで図27となる。もちろん、他の変化へ移行するのは極めてたやすいが、黒が望めばいくつかの魅惑的な独自の変化へ引き込める。

 最も分かり切った応手は 4...c5である。これがタラッシュ・ディフェンスだという誤解が広まっている。たしかにタラッシュに移行できるが、この場合、黒は孤立ポーンに抱え込まなくてもいいという重要な違いがある。5 e3 (4...c5後に) 等のありきたりな応手では、5...Nc6によって完全な対称形にされ、早々とドロー気味になってしまう。代わりに、白には優位を目指せる2つの方法がある。5 cxd5でセンターでの優位を目指すか、5 Bg5でセンターの緊張を維持しつつ、できれば黒に不都合になる明確化を強制するかである。

 5 cxd5 Nxd5! (5...exd5 6 g3はルービンシュタインがとがめたタラッシュ・ディフェンスの変化になる) 後は、6 e4が指摘されている。強制手の連続(黒陣の方が窮屈だったので、交換できるのはありがたい)が続く。6...Nxc3 7 bxc3 cxd4 8 cxd4 Bb4+ 9 Bd2 Bxd2+ 10 Qxd2 0-0. 白のセンターポーンは良好だが、交換によって黒陣も十分に解放された。ポーン形がこの後のプランを物語る。より開放的な陣形の白は、キング側を攻撃するだろう。クイーン側でポーン数が多い黒は、終盤戦を目指すだろうが、キング側にひそむ危険を忘れてはいけない。典型的な手順は、11 Bc4 Nc6 12 0-0 b6 13 Rfd1 Bb7 14 Qf4 Rc8 (14...Qf6!) 15 d5 exd5 16 Bxd5 Qe7 17 Ng5! Ne5! 18 Bxb7 Ng6 ほぼ互角。白には、黒のクイーン側を弱めるためにビショップをb5へ繰り出す興味深い作戦がある。これは、黒が誤ってキング側ビショップをすぐに交換しなかった場合や、黒からの ...a6, Ba4 ...b5, Bc2に対して早期に a4と応じた場合に限ればきわめて強力だが、黒が普通に ...b6等と続けると功を奏さない。他には、黒陣を窮屈なままにする e5!が有効な作戦となることが多い。センターのd5マスを黒に譲る代わりに、強力な攻撃となりうる。例えば、上記の続きで、11 e5 (11 Bc4の代わり) 11...Nd7? (11...Nc6 12 Bd3 Qa5で互角にするのが正着) 12 Bd3 Nb6 13 0-0 Nd5 14 Ng5 g6 15 Ne4 黒がおそらく抵抗できない強い圧力。

 白の他の候補は、さらなる圧力をかける (4...c5後の) 5 Bg5である。5...cxd4が強制的なので、6 Nxd4なら、黒は優れたセンターポーンが残るが展開で劣る(極めて複雑な変化もある)。6 Qxd4なら、白のセンターポーンは良くなるが、黒陣を全く自由にさせてしまう。模範的な手順は、6 Qxd4 Be7 (6...Nc6 7 Bxf6!は白優勢) 7 cxd4 exd5 8 e3 Nc6 9 Bb5! 0-0 10 Qa4 Bd7 ほぼ互角。

 図27からの黒のもう一つの冒険は、4...Bb4 ラゴズィン・ヴァリエーションで、マンハッタン・ヴァリエーションの主たる欠点をなくした反撃である。つまり、普通に展開する手なので、白の有利につながらない。5 e3 c5なら、ニムツォインディアン・ディフェンスの黒が有利な変化へ移行する。6 Bd3 dxc4! 7 Bxc4 0-0 8 0-0 Nc6 黒には十分すぎる(ニムツォインディアン・ディフェンス参照)。5 cxd5 exd5でも白は好転しない。6 Bg5 h6 7 Bxf6 Qxf6... 黒のクイーン側ビショップが自由に動ける場合は、エクスチェンジ・ヴァリエーションの威力がほとんど失われることを思い起こそう。黒が、白の強力なキング側ビショップと交換できるからである。したがって、4...Bb4を白がとがめる独自の試みは、5 Qa4+ Nc6 6 e3 (6 Ne5 Bd7) 6...0-0 7 Bd2. 興味深い異例の局面になった。黒は、...e5で状況を明確にするためにセンターをあきらめる。7...a6! 8 Qc2 dxc4 9 Bxc4 Bd6! 10 a3 e5! 十分な反撃。

 黒の他の候補手には、これといった新たな考え方はほとんどない。4...Nbd7に は、5 cxd5 exd5 6 Bf4!から e3, Bd3, 0-0, h3, Ne5, Bh2, f4で白が攻撃する狙いがあり、やや風変わりで黒はあまり良くない。4...Ne4は、ダッチ・ディフェンスやストーンウォールに似た局面になる。

 ここまでの10〜15ページ(訳注:クイーンズ・ギャンビット・ディクラインドの大部分)では、手順前後による定跡移行の可能性がひんぱんにあることに気付かれたと思う。考え方と基本ポーン形に集中すれば、そういう不測の事態もより良く切り抜けられ、たやすく習熟できるようになるだろう。


 つい「明確化」などとしてしまうclarificationも用語に準じるくらい訳に気を遣う言葉である。単純化とも違い、一見形勢不明の状況を評価しやすい局面にし向けるくらいの意味だろう。「明確化」が残っているのは、うまく訳せなかった証拠だ(汗。

 昨日「ETV特集」で音楽評論家吉田秀和の特集があった。未だ健在で、グールドについても触れてくれた。吉田が原稿を手書き、楽譜もコピーせず筆写するのは分かるが、インタビュアーの若手芥川作家も原稿を手書きするのに驚いた。携帯小説よりは書きやすいと思うが(笑。

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2007年06月26日

ファイン『定跡の背後にある考え方』4 dポーンの定跡 クイーンズ・ギャンビットその7

図24(再掲)
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
r1b1kb1r/pp1n1ppp/2p1pn2/q2p2B1/2PP4/2N1PN2/PP3PPP/R2QKB1R w KQkq - 0 7
ケンブリッジ・スプリングズ・ディフェンス

 III. 7 cxd5は今日最も見られる変化で、主な狙いは、黒のセンターの弱体化である。浮いた白のクイーン側ビショップに仕掛けられる罠も防いでいる。

 ポーンで取り返すと、クイーンの出撃が全く無意味になり、せいぜいエクスチェンジ・ヴァリエーションの不利な変化に移行させることしかできない。なので 7...Nxd5がほぼ強制的となる。

 再び黒は、...e5か ...c5で自陣を解放しようとし、身の毛もよだつ複雑な変化が続く。また戦術的考察が優先されるが、...c5が通常 ...e5より劣る。白はナイトを 8 Qb3か 9 Qd2で守れる。8 Qb3 Bb4 9 Rc1 e5!では、黒が迅速な展開のためにポーンをサクリファイスし、8 Qd2 N7b6 9 Rc1では、白がピースを早く繰り出すためにポーンを捨てる。どちらの場合も、最善を尽くすと混戦は決着が付くまでには至らない。原則として、ポーン得には走らず、初志貫徹が賢明である。したがって、8 Qb3 Bb4 9 Rc1 e5には 10 Bc4!が最善で、8 Qd2には 8...Bb4が好ましい。これらの変化は駆け足で片づけたが、基本的に新たな考え方を含んでいないからである。

 ケンブリッジ・スプリングズの主たる欠点は、白が回避できることである。主変化 (1 d4 d5 2 c4 e6 3 Nc3 Nf6 4 Bg5 Nbd7 5 Nf3 c6) の6手目に 6 cxd5でエクスチェンジ・ヴァリエーションへ移行したり、6 a3や最も斬新な 6 e4!さえ試せる。この作戦では、早期に黒のセンターを一掃できれば、白の優れた展開が永続すると確信する。白の主たる希望は、強力な攻撃を確保するためにポーンをサクリファイスするか、黒が自陣を早く開きすぎる可能性である。例えば 6 e4 dxe4 7 Nxe4 Be7 (または 7...Qb6 8 Bd3!?) 8 Nc3 0-0 9 Qc2 e5 10 0-0-0 白有望。

 マンハッタン・ヴァリエーションは、1 d4 d5 2 c4 e6 3 Nc3 Nf6 4 Bg5 Nbd7 5 Nf3 Bb4 (図25) から生じる。

図25
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
r1bqk2r/pppn1ppp/4pn2/3p2B1/1bPP4/2N2N2/PP2PPPP/R2QKB1R w KQkq - 0 6
マンハッタン・ヴァリエーション

 黒の作戦が反撃なのは明白である。そういう変化が意義を持つのは、やがて ...c5や ...e5やその両方が続く場合に限られる。黒の強みは、その両方の手がやがて可能となることである。しかし残念ながら、黒は、白の通常の展 開をとがめられないことに気付く。

 白がまず考えるのは、6 cxd5 exd5でセンターを固定する(黒が主変化から外れた場合にたいてい良い作戦となる)ことである。そして白は、来る狙いに注意しながら単純に展開を続けられる。 7 e3 c5 8 Bd3 Qa5 9 Qc2 c4 10 Bf5 0-0 11 0-0 Re8 12 a3 ポーン形の堅牢さで白優勢。

 ラスカー・ディフェンス:基本的作戦は、早期の ...Ne4によるピン外しだが、この手は様々なタイミングで可能な手であり、交換によって黒を解放する利点を持つ。害はないので、黒はナイトが跳ぶ前に ...h6 Bh4としておいた方がいい。そこで主変化は 1 d4 d5 2 c4 e6 3 Nc3 Nf6 4 Bg5 Be7 5 e3 0-0 6 Nf3 h6 7 Bh4 Ne4 (図26).

図26
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
rnbq1rk1/ppp1bpp1/4p2p/3p4/2PPn2B/2N1PN2/PP3PPP/R2QKB1R w KQ - 0 8
ラスカー・ディフェンス

 白はいくつかの交換を強いられる。そこで通常は、ポーン形を良好に保つことで優位を確保しようとする。黒のクイーン側ポーンの数的優勢がその後長期的には相殺されると見なす白の判断は正しい。8 Bxe7 Qxe7 9 cxd5 Nxc3 10 bxc3 exd5 11 Qb3! (...c5に対する何かが必要) 11...Qd6. ここで 12 c4なら 12...dxc4 13 Bxc4 Nc6!が互角にする最速の方法だが、11...Rd8も可能。黒が防御すべきは、白がセンターを堅実に保持してクイーン側へ展開する強力な圧 力である。

 白が他に使える作戦は、優勢な展開を単に維持することだが、エクスチェンジ・ヴァリエーションへ移行する選択肢もある。このためには、cファイルをふさいではいけないので、8 Bxe7 Qxe7 9 Qc2とする。9...Nxc3ならオーソドックスとほぼ同様に進むので、黒は自陣を解放するのが少し難しくなる。代わりに 9...Nf6!が意外にも好手で、ここからエクスチェンジ・ヴァリエーションにするのは白の損になる。早期の ...c5を阻止できず、白が素直に展開すると直ちに ...c5とされるからである。すべてを考慮すると、ラスカー・ディフェンスは、黒の最良の主防御の一つと言える。最大の欠点は、白の緩手 に対してさえも、ドローしか望めないことである。


 一昨日のETV「日曜美術館」の最後の情報コーナーで、二人の紳士がチョコレートでできた相手の駒を互いに取っては食べながらチェスをしている映像を見た。これは、深澤直人が企画する「チョコレート」をフィーチャーした企画展(赤坂の21_21 DESIGN SIGHT、4/27〜7/29)で見られるようだ。

 ↓訳ではまだだが、アクセプテッドの本が多いので(汗。
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2007年06月04日

ファイン『定跡の背後にある考え方』4 dポーンの定跡 クイーンズ・ギャンビットその4

 この黒の新たな解放作戦を阻止するために、白は3つの変化から選択できる。しばらくはぐずぐずと無難な手を指して優れた展開の成果を何か期待する(「手得稼ぎ(the struggle for a tempo)」として知られる)か、クイーン側でマイノリティ攻撃をするためにセンターで交換するか、ポーンで c5としてクイーン側を抑え込むかである。

 ここで交換する変化は、他の手番のときほど良くない。いずれ後で別に検討する。9 c5は、通常 9...e5で頓挫させられる。

図22(再掲)
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
r1bq1rk1/pp1nbppp/2p1pn2/3p2B1/2PP4/2N1PN2/PPQ2PPP/2R1KB1R b K - 0 8
オーソドックス・ディフェンスの 8 Qc2後の局面

 残るは、手得稼ぎである。白は再び、黒がいずれ ...dxc4と指すからビショップを出すのを遅らせようと考える。しかも、最終的には黒キングの攻撃を意図しているかもしれない。そこで 9 a3(図22から 8...a6後)である。黒にはもう、手得になるいい手が 9...Re8しかなく、白が 10 h3と続けると、黒の手得策は尽きる。しかし 10 h3後、黒は以下のようになんとか自陣を解放できる。10...h6 11 Bh4 dxc4 12 Bxc4 b5 13 Ba2 c5 14 dxc5 Nxc5 15 Bb1 Ncd7...

 上記の 9 a3後は、9...b5も優れた選択肢である。10 c5はやはり 10...e5とされ、10 cxb5 cxb5なら黒陣は安泰で、cファイルとc4マスが黒ピースに恰好の足がかりとなる。

 さらに、図22での他の好防御には、ピンを外す 8...Ne4!がある。その後の単純化 9 Bxe7 Qxe7 10 Nxe4 (または 10 Bd3 f5) dxe4 11 Qxe4 Qb4+ は黒の望むところである。

 この変化を終える前に、劣った防御に対してどうなるかを見ておこう。最もよくある誤りは、cポーンが出遅れになることで、早々に致命的な駒損が生じる。 例えば、8...Re8 (図22から) 9 Bd3 dxc4 10 Bxc4 b5? 11 Bd3 a6? ここで 12 Ne5!でポーン得。なぜなら 12...Bb7 13 Nxd7 Qxd7 14 Bxf6から 15 Bxh7+.

 まとめると、上記の変化には、黒が解放する作戦が4種ある。

 (a) ...dxc4から ...Nd5としてキング側でマイナーピースを交換し、最終的に ...e5とする。あまり多くの交換をしなければ、白は、理論的には疑わしいが、わずかな優位を得る。
 (b) ...dxc4から ...b5, ...a6 最終的に ...c5とする。黒は、cポーンが出遅れにならないように注意を要する。ときには、...b6から ...Bb7 最後に ...c5も可能だが、白マスが弱くなる危険(白が Ba6とするかもしれない)が深刻である。この種の白の優位は図21Cで検討した。
 (c) ...a6から ...b5.
 (d) ...Ne4.

図21C(再掲)
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
勝る展開

図21D(再掲)
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
ピースでのキング側攻撃

 選択肢が豊富とはいえ、主変化 7...c6の代わりは推奨できない。例えば、7...b6(古い応手)は白に図21D型の強力な攻撃を許す。8 cxd5 exd5 9 Bd3 Bb7 10 0-0 c5 11 Qe2 c4 12 Bb1 a6 13 Ne5 b5 14 f4 Ne4 (絶対手)15 Bxe4 dxe4 16 Nxd7 Qxd7 17 Bxe7 Qxe7 18 f5! 黒の不自然に孤立させられたeポーンが、重大な弱点になる。優れた防御は、上記4つの作戦から1つを利用するしかない。

 7 Rc1に関しては膨大な研究と実践的調査が成されてきたが、未だ白有利を決定する証拠が出てこない。一方で、黒陣は常に窮屈で、せいぜいドローを望める程度である。ここでも、他の主要定跡(ルイ・ロペスと比較されたし)のように、白黒双方が改善を求めている。

図20(再掲)
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
r1bq1rk1/pppnbppp/4pn2/3p2B1/2PP4/2N1PN2/PP3PPP/R2QKB1R w KQ - 0 7
オーソドックス・ディフェンスの 6...0-0後の局面

 白の他の(図20の 7 Rc1以外の)7手目には、長期間支持されたものはない。...c5−その適切なタイミングはケースバイケースだが−を阻止できるものがないからである。

 中でもいちばん指される 7 Qc2では、7...c5に対して適切な応手がない。黒に孤立したdポーンを背負わせる見えすいた狙いでは、8 cxd5 cxd4 9 Nxd4 Nxd5 10 Bxe7 Qxe7 (10...Nxe7も可能) 11 Nxd5 exd5 12 Bd3 Qb4+ 13 Qd2... 白はわずかに優勢だが勝つには不十分。7...c5には、緊張を維持する 8 Rd1もときどき見られる。8...h6 9 Bh4 Qa5 10 Bd3 cxd4 11 exd4 dxc4 12 Bxc4 Nb6 13 Bb3 白陣の方が開放的だが、長く続くかどうかは疑わしい。10...Nb6 11 cxd5 Nbxd5でも良好。

 その他も、考え方は前述したものと基本的に違わない。7 Bd3等(図20で)には、7...dxc4 8 Bxc4 c5からクイーン側ビショップをb7へ繰り出すべきである。すぐに 7...c5は、白のdポーンを孤立させるつもりなら、黒は強烈な攻撃を被りかねない。例えば、7 Bd3 c5 8 0-0 cxd4 9 exd4 dxc4 10 Bxc4 Nb6 11 Bb3! Bd7 12 Qd3 Nbd5 13 Ne5 Bc6 14 Rad1 黒陣は安泰ではない。


 the struggle for a tempoは用語というほどではない作戦だが、「手得への奮闘」等よりは引き締めたかったので「手得稼ぎ」にしたが、作戦のニュアンスとしては「手得執着」かもしれない(笑。

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2007年03月29日

ファイン『定跡の背後にある考え方』3 eポーンの定跡 シシリアン・ディフェンスその2

 主戦型は2つあり、黒がキング側ビショップをe7へ進める(通常、スケフェニンヘン・ヴァリエーションになる。この変化が最初に有名になった大会が1923年に開かれたオランダの小さな海浜リゾート地にちなむ)かg7へ進める(ドラゴン・ヴァリエーション)かによる。スケフェニンヘンの方がやや複雑だが活力では劣る。

 スケフェニンヘンは通常、2 Nf3 e6 3 d4 cxd4 4 Nxd4 Nf6 5 Nc3と続く。手順は絶対ではないが、黒は、白の c4を防ぐために先にナイトをc3へ進めさせねばならない。この手順はよく前後が入れ替わるのでまごつくし、混乱さえするが、考え方に慣れ親しんでしまえば霧が晴れるように明らかとなる。

 黒の目標は、お分かりのように展開を完了してナイトを効果的なc4に置くことである。したがって、以下の計画通りに進行する(手順は絶対ではない)。...d6, ...Be7, ...0_0, ...a6, ...b5(可能なら), ...Bd7(できれば...Bb7), ...Qc7, ...Rac8, ...Na5, ...Nc4. この間ずっと白がミスしなくて ...d5が不可能な場合を想定してのことである。白が正道から外れれば、このセンターの一突きで黒は最低でも互角にできる。

 上記の計画に対する白の戦略プランは、クイーン側の危機回避とキング側での攻撃組立てという二重の考え方に基づく。白は f4, g4で攻撃を開始できるし、そうすべきこともすでに分かっているが、タイミングはそれほど明白ではない。経験が示すところでは、白は必ずしも先にクイーン側を守る必要はないが、無傷でそうすることはできる。したがって、白の展開手順は以下のように続く(この場合は順序が重要で遵守すべき)。0-0, Be3, Nb3(必ずしも必要ない), f4, Bf3, Qe2(またはQe1), Rad1, Bc1(必要なら), それから g4とすれば準備は十分である。

図16
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
rnbqkb1r/pp1p1ppp/4pn2/8/3NP3/2N5/PPP2PPP/R1BQKB1R b KQkq - 0 5
シシリアン・ディフェンスの 5 Nc3後の局面(スケフェニンヘン・ヴァリエーションになる)

 上記の双方が描いた作戦に従うと主変化になる。図16から、5...d6 6 Be2 Nc6 7 0-0 Be7 8 Kh1 a6 9 f4 Qc7 10 Be3 0-0 11 Qe1 Bd7 12 Rd1 b5 13 a3 Na5 14 Qg3 Nc4 15 Bxc4 白が有望である。

 この手筋をよく理解するために順を追って少し説明しよう。白の8手目は、キングが同じダイアゴナル上にいるとd4のナイトがチェックやピンで危うくなるのを防ぐためである。黒の8手目は、...b5の準備とクイーン側ナイトのピンを防ぐ二重の目的を果たしている。8...d5とすると、白は 9 Bb5 Bd7 10 exd5と応じて黒の弱い孤立ポーンが残ることに注目しよう。このピンが実行できなくなると、白はナイトをd4からどこかへ動かすか、...d5に e5で対抗する準備をする。白は、10手目でビショップを繰り出してクイーン側の展開を完了する。...b5を防ぐ a4は必ずしも必要ではない。

 この手順が白に有利なため、黒が改善策を発見できるかどうかにかかっている。一つの試みはキャスリングの延期で、例えば、7...a6(7... Be7の代わり)だが、白のBe3, f4等の攻撃が強まるばかりである。もっと知られたパウルセンの手筋では、黒のナイトをc6ではなくd7へ進める。これは、白のeポーンを直接または間接的に攻撃する一方、e5経由でc4へのルートも温存する狙いがある。しかしこの場合でも、黒はひじょうに窮屈な陣形となる。例えば、5...d6 6 Be2 a6(主変化で 6...Nc6の代わり) 7 0-0 Qc7 8 Be3 Be7 9 f4 0-0 10 Bf3 Nbd7 11 Nb3 Rb8 12 a4. 危険な e5をきっぱりと防ぐ 12...e5は、黒の興味深い試みである。黒は最速で危機を回避したが、永続的に弱いdポーンを抱えることになる。

 最初の6手目までに、いくつか他の有望な指し手がある。

 白は、キング側ビショップをe2経由で(Be2-f3)大ダイアゴナルに乗せるくらいなら、すぐフィアンケットする方が簡単だと結論する。しかも、黒の ...d5の妨害にもなる。このような陣形は、特に黒からc4での反撃を奪うクイーン側ビショップのフィアンケットと連係すると極めて強力である。こういう作戦では、キング側ビショップを繰り出す前に ...d5とされる危機を回避することが、主たる戦術的課題となる。白がダブル・フィアンケットをした強力陣形の実例は、6 g3(主変化で 6 Be2の代わり) 6...Nc6 7 Bg2 Be7 8 0-0 0-0 9 b3 Bd7 10 Bb2...

 この手筋では白には他にいい手がないが、主変化の方が有利だから当然である。ときどき c4を準備するためにキング側ビショップをd3へ繰り出すことがあるが、d4のナイトが浮き駒になるのが問題で、...Nc6とされると手損になる。したがって、主変化で 5 Bd3(5 Nc3の代わり)とすると 5...Nc6が通常より強烈で、6 Ne2 d5 または 6 Nxc6 dxc6 7 0-0 e5!と、完全に互角にされる。自然な ...Nc6に対する応手として、Nxc6に続いてe5で優勢にできるときしかビショップをd3へ進めるべきではない。黒は優勢になろうとすることさえある。


 黒のキング側ビショップがどちらへ出るかで二大別するのはかなり大雑把だが、その際の両軍の考え方の違いを概観するには有効だろう。シシリアンの手順前後は複雑を極めるが、特にスケフェニンヘンは、...d6と ...e6の順序を問わないのでどちら「系」にも分類されうる。
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2007年03月14日

ファイン『定跡の背後にある考え方』3 eポーンの定跡 カロカン・ディフェンスその2

 II.3 exd5 cxd5 4 c4 数年前にカロカン・ディフェンスを廃業寸前に追いやった攻撃手順である。

 この攻撃の強さは、直ちに黒のセンターに仕掛けてかつ激しく攻撃する点にある。黒は、他の変化のように惰性的には進めず、直ちに困難の解決を迫られる。それは、センターを維持する方法とクイーン側ビショップの最適な居場所である。...e6でそのビショップを閉じこめると、カロカン・ディフェンスの主たる利点を放棄することになる。しかし、ビショップをf5やg4へ(いずれ)繰り出すと、センターを維持できないかクイーン側がひどく弱体化する可能性がある。これらが、黒が指し手を決めるさいの拠り所となる。

 もちろん、黒はクイーン側ビショップにはかまわず、まずナイトを繰り出すことができる。したがって、4...Nf6 5 Nc3 (d5への圧力を増すので、他のナイトの手より強烈) 5...Nc6. ここで白の手は枝分かれする。6 Bg5でセンターへ圧力をかけ続けると、6...e6がほぼ強制的となる (6...dxc4 7 d5だと、実戦的には黒の負け)。黒がセンターを固めたところで(特に...Be7後)、白が優位を保つ方法は2つある。攻撃を仕掛けるかクイーン側でポーンの数的優位を作り上げるかである。攻撃は 7 Nf3 dxc4 8 Bxc4 Be7で実現し、図15Cのポーン形となる。この場合は他のケースよりさらにやや白がいい。黒のd5支配が完全ではない、つまりそこにピースを置くことは好都合だが、維持するのが難しいのである。クイーン側ポーンの数的優位は 7 c5で始動する。黒は、白のポーン形を ...b6で壊すか弱める必要がある。このような場合は、ポーンを寸断しようとする ...e5を白が許したり、黒の十分な反撃を可能にするほど白自らが窮屈になることがなければ、白は優勢になる。この手の局面はすべて、戦術的にしか解決できない。

 白が6手目で 6 Bg5の代わりに 6 Nf3としても、考え方は基本的に同じである。6...Bg4(この場合はそれほど悪くない)の場合のみ、異なる変化手順となる。このピンが攻撃の邪魔をするので、白は上記のクイーン側ポーンの数的優位を築くか、弱体化した黒のクイーン側につけこもうとする。後者の手筋では白の優位はわずかである。7 cxd5 Nxd5 8 Qb3 Bxf3 9 gxf3 e6 10 Qxb7 Nxd4 11 Bb5+...

図15C
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
チャンスは互角。

 III.3 exd5 cxd5 4 Bd3 もっと穏やかな単純化の手筋だが、IIに比べると将来性に乏しい。通例の 4...Nc6 5 c3後、ポーン形は図15Dとなる。白の強さの根拠はe5の支配だが、早くナイトも利かせるべきである。Bf4に続けてキング側へ駒をなだれ込ませられれば、白の攻撃は強力になる。しかし、その見込みは長くは続かず、終盤へ入ると劣勢になる。黒はクイーン側にかのポーン・マイノリティを擁しているので、bポーンをb4まで進 めて白陣に弱点を作り出すことができる(クイーンズ・ギャンビット参照)。黒は、フィアンケットするか白のキング側ビショップとの交換を画策するかで防御できるが、キング側へのフィアンケットの方が持ちこたえられる。

 したがって、5...Nf6 6 Bf4 g6が最善で、クイーン側ビショップはf5へ繰り出せる。しかし、6...Bg4 7 Nf3 e6 8 Qb3! Qc8 9 Nbd2 Be7 10 0-0 0-0 11 h3 Bf5 12 Rae1 Bg6 13 Bxg6 hxg6 14 Ne5は、白が優勢。この変化は、黒がビショップを繰り出さずに ...e6とする手順よりも白が強力である。

図15D
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
黒のポーン形の方が優勢。

 IV.3 e5 窮屈なポーンチェーンを築くが、窮屈を被るものがないので、フレンチ・ディフェンスのそれとは違って全く使い物にならない。3...Bf5 4 Bd3 Bxd3 5 Qxd3 e6後、黒はフレンチ・ディフェンスの欠点を除いた長所だけを持つことになる。...c5後、黒は最低でも互角になる。f5が、フレンチ・ディフェンスの多くの手筋と同様に、ナイトの強力な拠点となる。(図14B)

図14B(再掲)
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
典型的なフレンチ・ディフェンスの陣形。f5が黒ナイトの強力な拠点になっている。


 V.3 f3 唯一 3 Nc3以外で緊張を維持し、有利な可能性を保持する手である。反撃の応手 3...dxe4 4 fxe4 e5! 5 Nf3 exd4 6 Bc4!は、黒のf7が攻撃にさらされるが、3...e6だとフレンチ・ディフェンスの手筋にいずれ移行する。白は緊張をいつまでも維持できないからである。

 白の変則的な2手目は、数少ない新たな考え方をもたらす。最も興味深いのは 2 c4で、黒はしばしば手得と引き換えにdポーンを捨てる。例えば、2...d5 3 exd5 cxd5 4 cxd5 Nf6 (4...Qxd5は通常の変化へ)。余剰ポーンを戦術的に利用する可能性が生まれる。白はこのポーンに執着する(通常うまくいかない)か、黒に弱点を作るために捨てるかを選択できる。例えば、5 Bb5+ Nbd7 6 Nc3 g6 7 Nf3 Bg7 8 d6! exd6 黒のdポーンが標的となる。

 手順前後で不都合な序盤に移行することも避けねばならない。2 Nc3 d5 3 Nf3 e6? 4 d4だと、フレンチ・ディフェンスの黒が不利な一変化になる。そうならないようにきちんと展開すれば互角にできる。

 注目すべきことに、カロカン・ディフェンスには、クイーンズ・ギャンビットと多くの類似点がある。ポーン形図15Cは、クイーンズ・ギャンビット・アクセプテッドから起こりうるし、図15Dはコーレ・システムから生じることもある。


 IIはカロカンで最も激しいパノフ・ボトビニク・アタック。IV(アドバンス・バリエーション)がV(ファンタジー・バリエーション)より低評価なのが意外だ。フレンチのアドバンスよりカロカンのアドバンスの方が、黒が ...c5でセンター崩しをすると手損になる点では悪くない。次回からシシリアン・ディフェンス。
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2007年01月01日

ファイン『定跡の背後にある考え方』2 eポーンの定跡 ギャンビット

ギャンビット
 
 当然ながら、すべてのギャンビットは、攻撃のために1つかそれ以上のポーン(まれにはピース)・サクリファイスを伴う。さらに、1 e4 e5から続いて生じるすべてのギャンビットには、共通する3つの重要な特徴があることが明らかになってきた。

 1.攻撃は黒陣の最大の弱点であるf7へ向けられる。
 2.黒が駒得に執着したければ、展開で後れを取らざるをえない。
 3.ギャンビットの最善の対処法は、サクリファイスに応じ(ギャンビットに応じなければ心理的効果をもたらすことも多いが、せいぜい互角にしかならない)、それから迅速な展開に専念し、必要なら駒得を返すことである。特に、黒はできるだけ早く ...d5を試みるべきである。

 3番の理由を一つ挙げておこう。実戦で、多くのマスターはひどく窮屈な局面を細心の注意をもって守らなければならなかった。定跡としては適切とされている局面であっても、実際の盤上で正確な応手を続けることはひじょうに難しいからである。

 多くの場合、白のポーンの代償となるのは強力なセンターである。代償が素速く効果的な展開だけの場合もある。しばしば(エヴァンス・ギャンビッ トで特に) Ba3で黒のキャスリングを妨害する。

 これらの基本的な考え方以外に、純粋に戦略的な考察からもギャンビットについてもう少し学べることがある。残るは入念な戦術だが、それぞれのギャンビットには、攻撃と防御の両面に役立つ固有の考え方がある。

 実戦では、白の攻撃が駒損を補うほど強力かどうかを問うことが目安となる。答えは通常、展開の状態に示されている。黒は、ピースが窮屈で全部が最後段に並んでいるようだと、そして特にキングが攻撃にさらされていると防御チャンスは乏しい。しかし、陣形が開放的なら、黒は勝つか少なくともドローにできるはずである。

 ギャンビットが大会で見られなくなってきたことは注目に値する。原因は、とがめられるようになったからである。逆に、現代の研究により多くの重要な点でギャンビットは強化されてきた。実戦で見かけることがなくなったほんとうの理由は、防御技術がアンデルセンやモーフィーの時代に比べては るかに進歩したからである。


 本章の最後はギャンビットがまとめられているが、今回はその概論部分である。最後の段落の最初の原文は、It may be noted that the gambits have not disappeared from tournament chess because they have been refuted.だが、意味的にこのnotがあるのは明らかに間違いだろう。二重否定が否定の強調となる破格の用法もないことはないが、ファインが使うとは思えない。
 私の誤解でnotは必要と判明した(汗→コメント

 昨年は本ブログの方向性が確立し、初めて1年フルに書き続けた年でもあり、購読や応援ありがとうございました。今年も原文換算で600ページ以上翻訳します。今後ともよろしくお願いします。

2006年12月18日

ファイン『定跡の背後にある考え方』2 eポーンの定跡 要約 その1

 要約:多くの定跡を駆け足で見てきたので、一休みして学んだ内容を振り返ろう。

 大きく違う場合もあるとはいえ、1 e4 e5で始まるすべての定跡は密接に関連している。名前がすべて違うのは、たまたま歴史的にそうなっただけのことである。一方、クイーンポーン・ゲームとクイーンズ・ギャンビット・ディクラインドにも明かな関連性がある。それらが、大元の定跡から枝分かれする変化(variation)と呼ばれる定跡だからである。センター・ゲームとポンジアニ・オープニングには、タラッシュ・ディフェンスとマンハッタン・ヴァリエーションほどの違いはない。

 類似性を強調してきたが、それは参照しやすいように再分類するのに役立つ。同様に相違点は、共通の出発点から枝分かれした変化が類似した目的へ向かっていく様として理解するのが最善である。

 最初に分かったのは、白が優位を確保する唯一無二の方法が d4とすることだった。しかし、すぐにそうするのは分が悪い。矛盾のようだが、これは多く の定跡に当てはまる。

 ギャンビットはさておくと、白が独自の方針を採る定跡には、ビエナ・ゲームとビショップ・オープニングの2つがある。どちらの目的も素速く好都合な f4とすることだが、その後 d4ともするだろう。黒は ...d5とするべく応対する。この手が指せれば、白の優勢への望みがすべて粉砕される。

 センター・ゲームでは、白は d4という基本的な狙いを直ちに実行する。そして、クイーンが時間ロスの原因となって失敗する。

 白が優位を模索する中で、この最も直接的な方策はおおむね失敗に終わることが分かった。攻撃を強化するためには、白は何かに狙いを付けねばならない。そこで、2 Nf3が最強の手順として浮かび上がってくる。

 しかし、2 Nf3によって白は d4とする狙いをあきらめたのではない。好機が来るまで先延ばしにしただけである。黒は、いずれ指される d4にどう対処するかを常に考えねばならない。そして、それは比較的早いと思っていたほうがいい。

 d4と指されたら、黒はそれを取るか自らのe5ポーンを保持するかの選択を迫られる。取れば、黒は白のeポーンへ何らかの行動を起こさねばならない。さ もないと、ポーン形は図1が示すように白に理想的なものとなる。選択がこの反撃と拠点法と呼ばれる手法に限られるのは、こういう理由による。他に互角にする方法はないのである。

図1(再掲)
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
1 e4 e5で始まるすべての定跡で白にとって理想のポーン形

 一般的に、反撃の方が自由度は高いがポーンの形がばらける。拠点を保持すれば、ポーン形は崩れないがピースが窮屈になる。黒の課題はこの適正なバランスを取ることである。

 黒が2手目に反撃する多くの定跡の中では、ペトロフ・ディフェンス(2...Nf6)が最善で、互角にできるとされている。グレコ・カウンター・ギャンビット(2...f5)とクイーンポーン・カウンター・ギャンビット(2...d5)は、どちらも乱暴すぎて、最善の応手に対しては成立しない。黒からの攻撃は常に、白から攻撃を仕掛けるより危険である。ましてや、いきなりの反撃は黒にとって一利もないが、この考え方は欠かせないもので、適用すればいい結果をもたらす局面も多い。

 拠点システムも数の上では同数ほど存在するが、まともなのは一つだけである。直ちに拠点を保持するフィリドール・ディフェンス(2...d6)は、決し て最善とはいえない。3 d4後、黒はすでにピースを自由に配置できない。特にキング側ビショップは永続的な悩みの種となる。ほとんどの拠点法防御において、黒のキング側ビショップの展開が主要な問題である。


 変化、手順、手筋等の使い分けについては「チェス翻訳の話」でもしたことがあるが、variationやlineにはできるだけ「変化」を使うようにしている(「手順」は一般的過ぎ、「手筋」はコンビネーション等寄り)。定跡との関連では、主か副かという相対性が重要なので、第2段落のようにlineを定跡と訳すこともある。

2006年12月04日

ファイン『定跡の背後にある考え方』2 eポーンの定跡 ペトロフ・ディフェンス〜ビショップ・オープニング

ペトロフ・ディフェンス
1 e4 e5 2 Nf3 Nf6

  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  

 最も単純な形を取った反撃である。例によって長所と短所がある。黒は迅速に展開できるが、代償としてやや締まりのない陣形になる。

 他の定跡(例えば、3 Nc3 Nc6 や 3 Nc3 Bb4)への移行を除けば、白が優位を確保するための選択肢は2つしかない。その 3 Nxe5と 3 d4は、どちらもセンターで直ちに優位に立とうとする。

 3 Nxe5 Nxe4?は黒がポーン損になる。4 Qe2 Qe7 5 Qxe4 d6 6 d4. 代わって通常の変化は、3 Nxe5 d6 4 Nf3 Nxe4 5 d4 d5 ここからe4の黒ナイトをめぐる指し手が続く。白は、Bd3, c4, Re1からいずれ Nc3でこのナイトの土台を揺るがせる。逆に黒は、他に選択肢がなくなるまでこの強い中央の騎士を保持する。普通に続けると、6 Bd3 Bd6 7 0-0 0-0 8 Nc3(または 8 c4) 8...Nxc3 9 bxc3 Bg4 10 Rb1 b6 11 c4 ほぼ互角の見込み。黒は、dポーンへの守りを邪魔しないように 6...Be7(6...Bd6の代わり)ともできる。c4, Re1, Nc3に続いて Ne5等の単純な手筋で、白は黒よりやや広い領土を支配し続ける。

 白5手目の代わりの 5 Qe2は、終盤戦での手得を意図した手である。わずかに優勢ではあるが、現代の技術に対して勝ちきるには不十分である。典型的な変化は、5 Qe2 Qe7 6 d3 Nf6 7 Bg5 Qxe2+ 8 Bxe2 Be7 9 Nc3 Bd7 10 0-0-0 h6! 11 Bh4 Nc6....

 もう一つの 3 d4は、守られていない黒のセンターにつけ込む作戦に基づく。したがって、3...exd4 4 e5 Ne4 5 Qxd4 黒は一見して後れを取っている。しかし、5...d5!が、白のクイーンが矢面にいるために適切な応手となる。黒は、やや窮屈なポジションに甘んじるものの、構造的な弱点がないので悪すぎることはない。
 
グレコ・カウンター・ギャンビット(ラトビアン・ギャンビット)
1 e4 e5 2 Nf3 f5

  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  

 この反撃は他のどの定跡よりも荒っぽいので、とがめるのもたやすい。黒は、オープンなfファイルでの活動と強力なセンターポーンの確保をもくろむが、後者が阻止されると黒陣はみじめに崩壊する。したがって、最善は 3 Nxe5 Qf6! 4 d4! d6 5 Nc4!(5 Nf3 fxe4 6 Ng5 d5 7 c4!もいい) 5...fxe4 6 Nc3 Qg6 7 Bf4! Nf6 8 Ne3! Be7 9 Bc4 c6 10 d5! 白が大いに優勢。白の戦略は ...d5の阻止を中心に展開することに注目しよう。

クイーンポーン・カウンター・ギャンビット(エレファント・ギャンビット)
1 e4 e5 2 Nf3 d5

  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  

 グレコ・カウンター・ギャンビットと同様に荒っぽいが、さらに無理がある。3 exd5 Qxd5 4 Nc3 Qe6 5 Bb5+ 黒の展開がひどすぎる。サクリファイスも、3 exd5 e4 4 Qe2 Qe7 5 Nd4 不十分。

 これとグレコ・カウンター・ギャンビットは、序盤で趣向を凝らすことが、黒にとって白の場合よりさらに危険だという原則の実例となっている。
 
ポンジアニ・オープニング
1 e4 e5 2 Nf3 Nc6 3 c3

  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  

 この最後の手で、白は強力なセンターポーンの構想を思い描いている。しかし、この手の明かな弱点はぬぐい去れない。クイーン側ナイトから最も自然なマスを奪い、黒のセンターでの反撃も防げない。

 この反撃は、3...d5, 3...f5, 3...Nf6の3つの形から選択できる。

 3...d5 4 Qa4では、素早い展開のためのポーン・サクリファイスが黒にとって申し分ない。4...Nf6 5 Nxe5 Bd6! 6 Nxc6 bxc6 7 d3 0-0 8 Bg5 h6 9 Bxf6 Qxf6 10 Nd2 Rb8!.... 4...Bd7も可能だが、4...f6 5 Bb5 Ne7 6 exd5 Qxd5 7 d4!は白が全般の主導権を握るのでよくない。

 3...f5はさらに投機的である(予想通り、キングを危険にさらすから)。4 d4 dxe4 5 Nxe5 Qf6が最も有望。最後に、3...Nf6は、4 d4 d5!と通例の一撃を続ければ素晴らしい応手となる。センターが一掃されると、白の努力は水泡に帰す。
 
ビショップ・オープニング
1 e4 e5 2 Bc4

  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  

 センター・ゲームを除くと、これまで扱ったのは白がいきなり 2 Nf3でセンターを攻撃するものばかりだった。白の狙いは、いかなる黒の反撃も退けてから f4でセンターを攻撃することである。白には、他の多くの定跡へ移行するチャンスもある。

 当然ながら、黒は白のセンターへすぐに対抗すべきである。もっとも効果的なのは 2...Nf6だが、2...c6やどっちつかずの 2...Bc5も可能。

 2...Nf6 3 f4?は失敗で、3...Nxe4 4 d3 Nd6! 5 Bb3 Nc6.... 有望なのは、3 d4(2...Nf6に対して)で、優れた展開がポーン・サクリファイスの代償となる。3...exd4 4 Nf3 Nxe4 5 Qxd4 Nf6 6 Bg5 Be7 7 Nc3 Nc6.... 攻撃機会がポーン損の十分な見返りとなる好例である。

 2...Nf6に 3 d3はやや論理的である。3...Bc5 4 Nc3 Nc6 5 f4 d6 6 Nf3だと、キングズ・ギャンビット・ディクラインドの変化へ移行するので、黒は容易に対処できない。しかし、黒は 3...c6(3 d3に対して)でこの手順を改善できる。そして、強いセンターポーンで対抗すれば少なくとも互角になる。4 f4 exf4! 5 Bxf4 d5 6 exd5 Nxd5は、センターポーンを一掃するので黒が少しよくなる。

 この後者の変化には一つ危険が潜んでいて、センターポーンが弱点になることがある。例えば、2...Nf6 3 d3 c6 4 Nf3! d5 5 exd5 cxd5 6 Bb3 Bd6 7 0-0 Nc6 8 Bg5 Be6 9 Nc3 黒はもうポーンを無傷には保てない。こういう弱点を防ぐためには、黒はこの変化で 6...Bb4+!(6...Bd6の代わり)と指さねばならない。7 c3 Bd6となれば、白のナイトは最良のマスに進めず、黒のセンターを苦しませられないからである。


 マイナー定跡集である。ラトビアン〜とエレファント〜は、今日主流の呼び方なので補足した。定跡名は固有名詞扱いしてカナ書き主義だが、人名と駒名後の'sは省くことにしているのでペトロフとビショップの後ろに「ス」は付けないし、Queen's Pawnもクイーンポーンとする(定跡名でなければdポーン)。
 それでも慣例等にはあらがえず、クイーン「ズ」・ギャンビット、ツー・ナイ「ツ」・ディフェンス等は例外である。クイーンのじゃなくクイーン側のギャンビットだから、ナイツはナイトより文字数が増えたわけではない等の言い訳はできるが(汗。
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2006年10月30日

ファイン『定跡の背後にある考え方』2 eポーンの定跡 ルイ・ロペスその4

 8手目以前を改善する余地は白黒ともに残されていない。例えば、主変化で 8 a4(8 dxe5の代わり)は 8...Rb8 9 axb5 axb5となれば開いたaファイルが作れて強力だが、8...Nxd4! 9 Nxd4 exd4 10 axb5 Bc5! 11 c3 0-0 12 cxd4 Bb6ととがめられると互角になる。

 一つ覚えておくといいのは、白がdとcのポーンを適時に突かなければ、必ずキング側ビショップの交換によって優勢への望みが絶たれるということであ る。例えば、(図7から 5...Nxe4以降) 6 Re1 Nc5 7 Bxc6 dxc6 8 d4 Ne6 9 Nxe5 Be7等は完全に互角となる。

図7(再掲)
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
ルイ・ロペスに対する黒の最善防御。5 0-0後の局面。
r1bqkb1r/1ppp1ppp/p1n2n2/4p3/B3P3/5N2/PPPP1PPP/RNBQ1RK1 b kq - 0 5

 図7で黒の唯一他の5手目はビショップを直ちにc5へ繰り出す試みだが、白に強力すぎるセンターを作られる。5...Bc5 6 c3 Ba7 7 d4 Nxe4 8 Re1! f5 9 Nbd2 0-0 10 Nxe4 fxe4 11 Bg5 Qe8 12 Rxe4 白の勝勢。

 白が5手目以前に他の弱い手を指すと、たいてい黒にキング側ビショップを早く繰り出される。周知のように、白の手が消極的なのはセンターを脅かしていないからである。黒は存分に駒を繰り出してセンターを強化できるので、セオリー的な困難は消え去る。一例を挙げれば十分だろう。5 d3 b5 6 Bb3 Bc5 7 Be3 d6 8 Nbd2 Be6 すでに互角になる。

 もちろん、黒の弱い手順も、白に強力なポーン形や周到な攻撃を許すことになる。すでに多くの実例を見た。しかし、特定のミスに対する「特有の」反駁とでも言うべきものも見られる。例えば、ウォラル・アタックで、a4に対して黒がキャスリング前に ...b4と応じると、Qc4!が破壊的な手となる。一方、黒がキャスリングの後に ...b4とすると、a5!で黒のクイーン側ポーンはバラバラになる。

 そこでようやく、拠点法のもう一つの変化、シュタイニッツ・ディフェンス・ディファード、3...a6 4 Ba4 d6(図10)である。

 この防御の背景にあるセオリー的考察は比較的単純である。

 1.黒は、拠点e5を保持するがクイーン側を前進させない。そのため、クイーン側の弱体化は免れるが、クイーン側でのいかなる反撃も放棄することになる。

 2.白は、様々な方策から幅広いプランを立てることができる。一般的には、センターを固定してから相手のつながったポーン(pawn chain)の土台の前までポーンを進める。(黒のポーンがd6, e5、白のポーンがd5, e4にあるとき、黒の土台はd6、白のはe4となる)

 3.黒はセンターを固定したい。そうすれば ...f5で反撃できる(これもつながったポーンの土台への攻撃)。関連してキング側ビショップのフィアンケット(...g6から ...Bg7)も多用される。gポーンがfポーンのサポートになり、ひいてはセンターを強固にするからである。

図10
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
シュタイニッツ・ディフェンス・ディファード
r1bqkbnr/1pp2ppp/p1np4/4p3/B3P3/5N2/PPPP1PPP/RNBQK2R w KQkq - 0 5

 通常の変化は図10から、5 c3 Bd7 6 d4 Nf6 7 Qe2 Be7 8 0-0 0-0 9 d5 Nb8 10 Bc2 a5 11 c4 Na6 12 Nc3 Nc5 13 Be3 白がわずかにいいが、黒のチャンスも決して過小評価できない。この種の局面での考え方は、dポーン定跡のインディアン・ディフェンスと関連づけるともっとはっきりする。あえて言うなら、白はクイーン側の前進(a3, b4, いずれ c5)を続け、黒はキング側(...g6, ...f5)から仕掛けるべきである。(上記3.も参照)

 黒が消極的すぎてキング側の反撃をする気がなければ、ほぼ絶望的である。悲惨な実例は、1895年ヘイスティングズでの有名なラスカー対シュタイニッツ戦で、5 c3 Bd7 6 0-0 Nge7 7 d4 Ng6 8 Re1 Be7 9 Nbd2 0-0 10 Nf1 Qe8 11 Bc2 Kh8 12 Ng3 Bg4 13 d5 Nb8 14 h3.... 惨めなシュタイニッツは窒息寸前である。

 すでに見た他のルイ・ロペス変化と同じく、双方ともに改善の余地がある。

 黒にまず思い浮かぶのは、...Nge7とセットのキング側フィアンケットである。この場合、センターの固定は時期尚早となる。黒の反撃がいきなり始ま る一方で、白は軌道に乗るまでに最低5,6手必要だからである。例えば、5 c3 Bd7 6 0-0 g6 7 d4 Bg7 8 Be3 Nge7 9 d5 Nb8 10 Bc2 0-0 11 c4 f5は黒がいい。

 しかし問題は、白はセンターを固定することを強制されてはいないことである。

 望むなら、白は長期間センターを動けるままにしておけるし、そうなると黒の反撃はポーンが固定されていないために危険を伴う。また、白は dxe5と交換して黒のキング側ビショップを封じ込み、いずれ来る ...f5を骨抜きにすることもできる。exf5と応じれば黒のe, fポーンはかなりの弱点になるからである。

 白がセンターを固定しない例は、5 c3 Bd7 6 d4 g6 7 0-0 Bg7 8 Be3 Nge7 9 c4! ここで黒には以下よりいい手順がない。9...exd4 10 Nxd4 0-0 11 Nc3 Nxd4 12 Bxd4 白のポーン形がよく、有利な終盤になる。

 白が dxe5とする例は、5 c3 Bd7 6 d4 g6 7 0-0 Bg7 8 dxe5 dxe5(8...Nxe5 9 Nxe5 dxe5 10 c4!だと白の攻めが強力) 9 Bg5 Nge7 10 Qd3 h6 11 Be3 Bg4 12 Qe2 0-0 13 Bc5 黒は厳しい。

 ここでも、主要な定跡の数ある他の変化と同様に、双方とも満足できない。黒は完全に互角にしていないし、白はたいてい壊れゆく優位を確保しようと切望する。


 HPでリンクしている「Literary Chess Agora」のjuwatti2002さんに愛読されていると知ってうれしい。しかも昔これを訳されていたとは! 私は十数年前のひどい翻訳でも平気で当時の大阪のサークル誌に投稿していました(汗。チェスがまともに扱われた名作フィクションの翻訳とかできればいいですね。