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2005年11月09日

Nunn『Endgame Challenge』〜メイソンの文体

 また訃報である。JPCA会長早川茂男さんが亡くなった。JCAより長い歴史を持つ同会を創設から支え続け、店を奥さんに任せっきりにしても会報誌 The Pawnの発行は欠かさず、プロブレムや入門書、そして何より日本のチェスの普及に尽力された。
 私も数年お世話になった。 USCFに入る前にグッズの代理輸入など、お忙しいのに無理なお願いをしたと思う。いつも丁寧に書いてくださったお返事のくせ字が印象深い。会員を自然消 滅してしまい、生前にチェス書を出版して届けられなかったのが心残りだ。


 終盤本は、ベストセラーから紹介しようにもレビュー等の資料が乏しいので、仕方なくレビューのあるもので続ける。ナンの"Endgame Challenge"(240ページ、'02年、ギャンビット社)は高価だが、エチュード(スタディ)本もたまにはいいだろう。Bill Whitedのレビューを概観しよう。
 なお、「エチュード」は松本康司前JCA会長がstudyにあてた訳語だが、そのまま「スタディ」とする場合が増えてきて無用の混乱が起きているよう だ。個人的な思い入れか何かがあったのだろうが、そのままスタディとしておけばよかったのにと思う。


 チェス書の名著者の数は少ない。中級者と上級プレーヤー向けにそれぞれ 本を書ける著者はもっと少ない。一つの本でそれを同時にできる著者は片手で数えられるくらいだ。ジョン・ナンはそのうちの一人である。

 定義をはっきりさせておこう。終盤のエチュード(Endgame Studies)はプロブレムとは密接に関連があるが別物である。プロブレムは、実戦ではほとんど起こりえないようなかなり作為的なものなので、実戦のプ レーヤーの多くには見向きもされない。
 一方、エチュードは、通常現実的な終盤を彷彿とさせるもので、たった一つの解しかなく、ひじょうに勉強になるように作られている。エチュードを解くゴー ルは勝ちかドローで、たいていは現実の終盤を凝縮したものである。
 メイトや戦術問題とは違って、終盤はパターン認識より具体的な深い読みを必要とする場合が多い。よくできたエチュードは、終盤の原則を強化するのと同時 に分析力を研ぎ澄まさせる。実戦の終盤によってもこれは学べるが、エチュードは余解がない分集中できて根底にある原則も学べる。

 ナンは1年以上かけて、集めた20000題を250題まで厳選し、ディープフリッツで慎重にエラーをチェックした。これは終盤戦が作局者の能力を超えて 難しいことの証明である。しかし、ナンの分析と詳細な説明によってひじょうに読みやすく理解しやすい本となっている。
 本書の基本的な読者層はクラブの上級プレーヤーだが、ナンの解説力によってもっと下位レベルのプレーヤーにもためになる。詳細な分析は、IMやGMでさ え有益で楽しめるものだろう。


 今日訳してアップしたばかりのメイソン"The Art of Chess"の図14の解説文が妙に分かりにくい表現だったのでその原文の最後を記しておく。興味ある方は、私の訳と見比べてみてほしい。ラスカーと 違ってこれはイギリス人メイソン、つまりネイティブの英語だから分詞構文等が多くて癖があるのは分かる。
 しかし、この英文はさすがにネイティブであってもチェスの知識がないと皆目見当も付かないと思う。いや、チェスの知識があっても、例題図が併記してない と何のことやら分からないほどなので、訳注で意味を補足せざるをえなかった。
 こんな英語を律儀に訳しているくらいならリライトした方がずっと分かりやすい。結局自分で本を書いた方がいいという結論になるようである。
 There are in reality two sides involved here, White's side and the Queen side; so that, after capturing, the Kings are equidistant each from a side; and White, having the move, has also a sort of combination of advantages quite sufficient.
Endgame Challenge
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posted by 水野優 at 00:00| Comment(3) | チェス(洋書評 終盤) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私はJPCAにはいって10年。JCAの機関誌しか情報源のなかった私に「THE PAWN」誌は新鮮でした。チェス界にもいろいろあるんだなあ、と。
早川氏のそれがもう読めないとはとても残念です。

私はそれまでチェスから長く遠ざかってたのが、郵便戦をきっかけにまた実戦に戻ることができました。合掌。

それからエチュードがstudyの訳語とは。目からウロコです。松本氏の造語というのは知ってましたが。
プロブレムとの違いも再認識しました。プロブレムの定義については他で書いてみようか、と思ってます。
Posted by kathmanz at 2005年11月09日 19:27
 前にも書きましたが早川さんには一度会ったことがあります。お店の入り口に「早川」という名字より目立つ「日本郵便チェス協会」と表札が出ていました。今後がほんとに心配ですね。小野田さんのような現役バリバリのプレーヤーが兼任するのは、それ自体無理があります。私は、会報作りは興味あるけど、そこまですると翻訳ができなくなるしなあ。
 上記レビューはスタディとプロブレムの違いも書いているのでいいと思いました。広義のプロブレムは問題全般を指しますが、元々そういう単語だから仕方ないでしょう。他で書くとは、ついにHP作成ですか!?
Posted by 水野優 at 2005年11月10日 11:38
problemの定義については(今簡単に書かれてしまいましたが、、、汗)ネタというか話題として書こうかと。

自分のHPなどという大それた事はいたしません(笑。どこに書いたかは秘密ということで。
Posted by kathmanz at 2005年11月11日 15:39
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