ホームページは「チェストランス」です。古い記事では図の駒が表示されません。

2005年11月04日

マスターズ第5回:聖アマン〜「メイトを強制」2

 「水野優のチェス書レビュー」ページは長らくほったらかしで、それ以外のブログ上のレビューもたまってきて、まとめてレビューを見る人にはひじょうにア クセスしにくい状況になっている。そこで、レビューページをジャンル分けして見やすい表目次を付けることにした。まずは「終盤」本編をアップしている。
 そのかいあってか(といっても直接商品リンクからではないが)、昨日は何と8冊も私のアソシエイトから注文をいただいた。この収入規模のアフィリエイト にこれだけ力を入れる私のような者はまれだろうが、この手応えがあるからレビューや翻訳を続ける意欲が湧く。全くありがたいことである。


 ブルドネの次にフランス最強プレーヤーになったのはピエール・聖アマン(Pierre Saint-Amant)である。彼を最後にフランスのチェス界支配は終わりを告げ、フランスがグランドマスター級のプレーヤーを次に輩出するのは来世紀 のこととなる。

 聖アマンは72歳まで生きたが、チェスは47歳の年でやめている。ブルドネのような専業プレーヤーではなく、いくつもの 仕事を持っていた。1800年9月2日(一説によると12日)にモン フランカンに生まれる。国家公務員になり、1819〜21年にはフランス領ギアナに駐在する。
 パリにもどると、カフェ・レジャースの常連となる。もう一人、キングズ・ギャンビットの変化に名を残すリヴォニア出身のリョネ・キェゼリツキーは、聖アマンに引けを取らなかったが、目もくらむような攻撃を仕 掛けるわりに持久力がなかった。彼は後に発狂し、1853年に貧困の ために不幸な最期を遂げる。

 アマンはデシャペルのレッスンも受け、すぐに師匠より強くなる。しかし、彼はチェスに将来性を認めなかった。ジャーナリストや俳優業はうまくいかなかっ たが、ワイン業で大成功する。結婚するが、恐妻家となり、気性が激し く横暴な妻に振り回されることになる。
 カフェの常連は、アマン夫妻が毎日ダンスをするのにうんざりする。アマンが窓越しにもう付き合いきれないと仲間にサインを送ることもあるが、それは至福 の夫婦愛を象徴してもいた。その日最後のゲームが終わるやいなや、ア マンは飲食代を払うのも忘れ、息を切らして自宅へ飛んで帰るのだった。

 1836年にはイングランドを訪れ、最強のプレーヤーたちを打ち負 かす。7年後に再訪英したときは、その中でも最強のハワード・スタウントンに 辛くも1ポイント差で勝利する。同年パリでリマッチが行われ、自らにむち打つアマンだっが、6勝11敗4分でスタウントンに敗北する。
 その後、アマンはほとんどチェスを指していない。グランドマスターに典型的なエゴである。代わりに、創刊者ブルドネの死後引き継いだチェス雑誌『ラ・パラメデ』の編集に専念し、国家の公務にもどる。チェスでおろ そかになっていた役人としてもその後の活躍は目覚ましい。

 国防軍の大尉として、チュイルリー宮襲撃暴動のさいは、陣頭指揮を した。断固として退かず、民衆の宮殿襲撃という愚かな行為をうまく転換させたので、拍手喝采で司令官に任命される。1851〜52年にはカリフォルニアへ赴任した。
 1851年には、ロンドンでヨーロッパ中の強豪が招待された大会が行われただけに、アマンが参加 できなかったのは残念である。その後はアルジェリアで暮らし、もはや チェスは彼の生活の一部ではなくなった。そして、1872年10月 29日、馬車から投げ出されたときの怪我が元で亡くなる。


 昨日の「メイトを強制する」だが、別の意味でもおかしな表現であ る。メイトに「する」のは強制する側なのに、これでは「劣勢側にメイトすること」を強制しているようである。「劣勢側にチェックメイトされる状態」を強制 していると考えれば、何とかつじつまは合うのだが。
 このややこしさは、そもそも(check)mateという言葉が動 詞としては能動的に「メイトにする」という意味なのに、名詞では「メイトされた状態」という受動的な意味になることに起因する。分かりやすい例は、動詞で は「打ち負かす」なのに名詞では「打ち負かされること」となるdefeatで ある。これを「勝つ」と「敗北」だとバラバラに覚えては訳が分からない。

 stalemateも同じだが、「ステイルメイトにする」という優 勢側にはありがたくない能動的意味と、「ステイルメイトにされた状態」という劣勢側にはありがたい受動的意味となるため、事態がcheckmateの場合 と逆転する。もちろん日本語の常識としておかしくならないように訳せば済むことである。
 話をもどして、どうしても「強制」を使いたいなら「強制的にメイト する」とすればいささか冗長とはいえ、おかしさはなくなる。force the exchangeとかの訳は「交換を強制する」より「〜強要す る」の方が私は好きだ。「強制」は「強制的」に使う方が向いている。
posted by 水野優 at 16:44| Comment(0) | マスターズ(チェス近代史) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。