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2005年10月14日

マスターズ第2回:デシャペル

 フィリドールの築いたポジショナルプレーを、次の世代のフランス人マスターたちはあっさりと忘れ去った。アレクサンドル・ルイ・デシャペル(1780-1847)、シャルル・マエ・デ・ラ・ブルドネ(1797-1840)、ピエール・聖アマン(1800-1873)、リョネ・キェゼリツキー(1806-1853)らである。
 それは時代の流れだったのかもしれない。アメリカ革命、フランス革命、産業革命が起こり、ワーズワース、バイロン、ゲーテらの新しい詩やベートーヴェン の驚くべき自由な音楽が生まれた。チェスの世界にもロマンティックな 波が押し寄せたのである。

 盤上を貫く攻撃やコンビネーション。血に飢えたチェックメイトを目 指して、ピースは容赦なくサクリファイスされる。先手のプレーヤーは(当時は白が先手とは決まっていなかった)、できるだけ早くポーンをギャンビットする。相手はこれに応じるしかない。応じなければ臆病者呼ばわりされるからである。
 それからは、攻撃、サクリファイス、コンビネーションの嵐で、驚くべきことにほとんどドローにはならない。こんなあまりまともとは言えない、最も野性的で激しく、エ キサイティングで巧妙なチェスの時代が、75年ほど続いたのである。

 デシャペル、ブルドネ、聖アマン、キェゼリツキーは、カフェ・レジャースで恐れられた四人組だった。彼らは、後にイングランドからスタウントンが来るまでフランスの優位を守ることになる。デシャペルは、多くの 点で今日のグランドマスターの先駆けと思える特質を持っていた。
 彼はひじょうな自己中かつ横暴で、大ぼら吹きの独裁者、そしてギャンブラーだっ た。戦争で手柄を立てるが、プロイセンとの戦いで右手を失い、にサーベルの傷を負う。18世紀は骨相学が全盛で、ジョージ・ウォーカーは、その傷で脳がチェス向きに再構成されたなどとまことしやかに伝え ている。

 デシャペルは、チェス以外にトランプのプロギャンブラーでもあっ た。熱狂的なチェスファンでもあるウォーカーによると、片手でカードを操る様は不思議なものだったらしい。デシャペルは、チェスを学んだことなどないとい う。
 ある日偶然、見たこともなかったチェスの対戦を2時間見ただけで覚え、その翌日、フィリドール以降最強のベルナルドに挑戦するが2敗を喫する。しかし、不屈の闘志でその翌日には全勝 し、1ポーンと2手のハンデまで与える。「何も上達していないが、3日もあれば誰もが学ぶことを理解するには十分だったさ」

 おもしろい話だが残念ながら誰も信じない。大ぼら吹きだったにせよ、デシャペルが長年最強のプレーヤーだったことは確かである。微妙なポジショナルプレーは時間の無駄と考え、ひたすら前だけを見て、駒の交換攻撃防 御よりも、チェックメイトを目指す棋風だった。
 晩年は引退も同然だった。弟子のブルドネに勝てないことに甘んじられる性格ではなかったからと、農業に転じて忙しくなったからである。作曲もしたが後生には残っていない。1832年にパリで起こった騒乱では、日頃 の言動が災いして監禁されている。

 1840年代には、ある理由から復帰を決意する。15年ものブラン クがあるのに、フランスの名誉をかけてイングランドへ対戦を申し込む。しかし、ロン ドン・チェス・クラブは、彼がチェス以外に、ビリヤードホイスト(ブリッジの前身)、カボチャ作り、それに嘘つきでもフランス一と知り、マッチは行われなかったのである。

ジョン・コックラン−デシャペル 1821年、パリ、非公式

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. d4 exd4 4. Bc4 Bc5 5. Ng5 Ne5 6. Bxf7+ Nxf7 7. Nxf7










7... Bb4+ 8. c3 dxc3 9. bxc3 Bxc3+ 10. Nxc3 Kxf7 11. Qd5+ Kf8 12. Ba3+ d6 13. e5 Qg5 14. exd6 Qxd5 15. dxc7+ Kf7 16. Nxd5 Bd7 17. O-O Rc8 18. Bd6 Ke6 19. Bg3 Bc6 20. Rad1 Bxd5 21. Rfe1+ Kf6 22. Rxd5 Nh6 23. Ra5 Nf5 24. Rc5 Nxg3 25. hxg3 Kf7 26. Rd1 Rhe8 27. Rd6 Re7 28. Rf5+ Ke8 29. Rd8+ Rxd8 30. Rf8+ Kxf8 31. cxd8=Q+ 1-0

 負けてんじゃん(笑。7...Bb4+はないよなあ。ちなみにもう一つ残っているゲームでは、fポーン落ちと2手ハンデで同じコックランに勝っている。
posted by 水野優 at 00:06| Comment(0) | マスターズ(チェス近代史) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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