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2007年12月07日

井上太郎著『わが友モーツァルト』書評

 久々の書評は、井上太郎(1925-)の『わが友モーツァルト』('86/10、講談社現代新書830、p.224)。タイトルの印象とは裏腹に、あくまで書簡に基づいた正統的モーツァルト論を展開する。巻末にはそれを補うごとく、150曲とその名演の選集を収録。
 著者は理工学部から出版界へ進んで音楽書、文芸書、美術書等の編集に携わり、本書出版から執筆に専念する。今世紀にかけて作曲活動も盛んな多才ぶりを発揮。モーツァルトは著者が最も愛する作曲家。

目次
序 モーツァルト現象の中で
1−人間モーツァルト
 1−孤独な神童
 2−遊びの精神
 3−言葉遊び
 4−アレグロの人生
 5−直情径行
 6−高いプライド
 7−寛容と厳しさ
 8−ドン・ファン?
 9−乏しい経済観念
 10−死を友として
2−モーツァルトの十八世紀末
 1−革命の季節に
 2−カトリックとして
 3−フリーメイスンとして

 今でこそ有名なモーツァルトの下ネタ好きは、長らく楽聖には不適当として書簡集から省かれていた部分が30年ほど前に日の目を見てからのことで、それが映画や舞台の「アマデウス」等一連のブームにもつながった成り行きが分かる。
 謎の多い晩年の窮乏生活に関しては、本書では放蕩よりもフランス革命前後の政情不安のせいとしている。近年、実は金には困ってなかったという新説も出てきたようだが…。

3−音楽家モーツァルト
 1−ヨーロッパの音楽事情
 2−宮廷音楽家と自由な音楽家
 3−職人か芸術家か
 4−モーツァルトの美意識

 モーツァルトには本を出版する計画があったらしいが、結局かなわなかったのはたいへん残念だ。本章のような当時の音楽事情の解説はひじょうにためになる。

4−作曲の現場から
 1−自筆譜を見ながら
 2−どのように作られたか
 3−楽器と歌手
 4−自作目録が語るもの

 モーツァルトはフリーランス作曲家の先駆けだったとはいえ、時代にはまだ「芸術家」という意識が乏しかった。モーツァルトの天才は、当時の時代様式や音楽先進国イタリアやフランスへの迎合や対抗という厳しい制約内で名作を残したことにある。
 まめに自作目録を残していたのは意外だったが、それが大英博物館に寄贈される前にシュテファン・ツヴァイクが所有していたというのも興味深い。

5−モーツァルト像の転換
 1−小林秀雄の『モオツァルト』
 2−モーツァルトの劇的空間
あとがき
モーツァルト年譜
私の選んだ一五〇曲とそのレコード

 著者は小林秀雄の『モオツァルト』の「音楽が鳴っている文体」に心酔したが、後にその歌劇より器楽優位の内容に批判的になった。かつては受験に必須と言われた小林秀雄を私は未だほとんど読んでいないが、器楽優位賛成なので読まねば(笑。


 モーツァルト生誕250周年の昨年は、「もういいだろ」というほどのモーツァルト年で、私的にはスカパー・スターデジオの7つしかないクラシック・チャンネルの1つがモーツァルトの垂れ流し(楽章単位のBGM的放送)になってしまったことに未だに憤慨している(汗。
 ピアノ協奏曲の短調2曲は超名作なのに、交響曲の2短調曲(25と40)にはどうもなじめないのは私だけだろうか。悲劇を全面的に表に出すのがはまる作曲家はブラームス等多々いるが、モーツァルトはそれに当てはまらないような気がする。

わが友モーツァルト
井上 太郎

わが友モーツァルト
講談社 1986-10
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posted by 水野優 at 14:53| Comment(2) | Classical Music | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
モーツァルトはメロディーが踊ってますからね〜。踊りにも激しいものから静かなものまで色々あるわけですが、マイナー・キー(短調)をうまく踊らせるモーツァルトは好き。でも、メジャー・キー(長調)を目の前で踊らせるのが彼の真骨頂。実はモーツァルトはあまり聴かないのですが(汗)。
「フリーメイスンとして」は、「やっぱりね」と思ってしまう(笑)。
Posted by NoMercy at 2007年12月09日 23:03
 フリーメイソンのために書いた音楽も持っているのですが、さっぱり印象が薄く、曲によって好き嫌いのはっきり分かれる作曲家です。
 短調曲の話をしたのは、小林秀雄がト短調の弦楽五重奏曲のことに触れてたからで、聴き直さないと忘れてしまいました。
 高校の校内合唱コンクールで歌ったアヴェ・ヴェルム・コルプスは、パート練習リーダーをやった思い出深い曲で、激賞する著者と同感です。
Posted by 水野優 at 2007年12月10日 11:34
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