ホームページは「チェストランス」です。古い記事では図の駒が表示されません。

2005年08月16日

松田道弘『チェスの楽しみ−松田道弘 あそびの本 6』書評

 amazonアソシエイト(アフィリエイト)はその注文内容も確認することができる。最近はライブリンクから以外に書評を見ての注文が増えているのがありがたい。これからもレビューをメインに続けるので皆さんよろしくお願いします。
 左下のライブリンクも種類を増やしてみた。あまり重くなるのも困りものだから、もう減らそうかとも思っている。もっとカスタマイズして便利にできればいいのだが。
 
 この松田さんの本は、すでに書評した岩波ジュニア文庫の『将棋とチェスの話−盤上ゲームの魅力』のプロトタイプといえる。多くのコラム等が転載されているが、本書はチェスだけなので棋力向上に役立つ内容からプロブレムまで内容は盛りだくさんだ。
 筑摩書房「松田道弘 あそびの本 6」6冊シリーズの最後となる本である。縦書きで英字の棋譜まで縦なのは何とかしてほしいが、チェスだけのシリーズじゃないから仕方ない。詳しい目次とともに章ごとに見ていこう。
 
大統領夫人と握手する方法 東公平
はじめに
 
 東さんの話は抜群におもしろい。松田さんのルール説明に関して「かゆいところに手が届く(配慮)」と述べているが、私も全く同感である。といっても他の本に比べてであって、まだ理想的とはいえない。
 
T Let's Play Chess
 チェスを始める前に
  まずチェスの道具を
  チェス・ボードとチェスメン
  アレイ−駒の配置
  将棋とのちがい
 駒の動き方と駒のとり方
  ルークの動き方
  クイーンの動き方
  ビショップの動き方
  ナイトの動き方
  ポーンの動き方
  ポーンのプロモーション
  アンパッサン
  キングの動き方
 キャスリングというルール
 チェックとチェックメイト
  チェック
  チェックメイト
 ドロウ(引きわけ)に関するルール
  *「昼と夜・白と黒」
 
 目次でも分かるように、「アレイ」など見慣れないカタカナ用語も散見される。もちろん意味は最初に説明しているし、英日対照的な用語の扱いは、私も将来この手の本を出すなら採用するつもりだ。
 しかし、カタカナ表記自体に難もあり、「ドロウ」は二重母音でもないのだからおかしい。「チェック」は発声しなければいけないというルール説明も困ったもの。一昨日例会に初めて来られた方もそう覚えていた。
 
 将棋だと、「王手」と言わずに次に王将を取るのを卑怯とするへぼ棋士の悪あがきが生んだ慣習かもしれないが、チェスだと早指しの特例を除けばチェックを避けないキングの手は反則だから、そもそも発声の必要性は少ない。
 この違反手(illegal move)を「ありえないムーヴ」としているのも気になる。額面通りに受け取ればそれでも意味は通るだろうが、「ありえな〜い」"Unbelievable!"と連想すると絶妙手のようにも思えてくる(笑。
 
 話がもどるが、そういえば勝利直前の儀式は他のゲームにもある。トランプのページワン(ローカル名かもしれないが)では、上がる1枚前に「ページワン」と言わないと上がれない。麻雀でリーチせずに上がるのがいやがられるのも同じことだ。
 
U Chess Notation
 チェス・ノーテイション
  実戦例−レティ対タルタコベール戦
  まぎらわしいときの表現
  英米式表記法
  * ベア・キングのたたかい
  * チェス・ゲームのマナーについて
 
 記譜法は、国際式以外にも、読者が古い洋書を読むことまで配慮して英米式にも触れているのがいい。ベア(bare)・キングは、初心者が裸の王様同士で延々とゲームを続けた話である。熊(bear)王ではない(笑。
 
 最後の「マナー」では、すでに例のレイモンド・チャンドラー『プレイバック』の話が出てくる。著者が、「待った」はプレイバックだがコンピュータ・チェスではテイク・バックという、としているのにはどうも引っかかる。
 「待った」は普通take backであって、play backはチャンドラーが少し強引にチェスに結びつけたように思える。play backは、もどすことよりもやり直す行為の方に力点があるのではないか。識者の意見を仰ぎたい。
 
V Chess Tacticsー攻撃のテクニックを知ろう
 アタックの基本的考え方
  ダブル・アタック
  ピンまたはピンアップ
  ディスカバード・チェック
 ビギナーへのヒント
  * Next Move−次の一手
 
 少ページながら戦術指南である。「ビギナーへのヒント」は効率よくまとめた条文だが、これで次のNext Moveの数題がスラスラ解けたら読者は天才だ。ここはそれよりも、華々しい各コンビネーションの解説を強化して鑑賞に徹した方がいいと思う。
 
W World Chess Champions−チェス名勝負ものがたり−
 キング・ハントに賭ける情熱
  ロマン派の末裔−アドルフ・アンデルセン
  チェス界の神話−ポール・モーフィー
  チェスの求道者−ウィリアム・スタイニッツ
  ファイティング・スピリットの驍将−エマヌエル・ラスカー
  仮借ない、冷たくて非情でぞくぞくするゲーム−カパブランカ対ラスカー
  チェスを母国語とした男−ホセ・ラウール・カパブランカ
  カパブランカの「不思議な対局」
  盤上の魔術師−アレキサンダー・アリョーヒン
  ワールド・チェス・チャンピオン
  * チェスとその仲間たち
 
 第W章の扉に「私は観衆のリアクトをきくのが好きだ。 フランク・マーシャル」とある。原文は"I like to hear the audience react to my move."とでもなっていたのだろうが、この「リアクト」はせめて「リアクション」としてほしい。
 モーフィーの話では、あのオペラ座での対局時のオペラはロッシーニの「セビリアの理髪師」としている。Sergeantのモーフィー本が巻末資料にあるので、これに従ったと思われる。「フィガロの結婚」とするピノー説はやはり謎だ。
 
 エマヌエル・ラスカーの碁の相手をしたドイツ生まれのアメリカン、エドワード・ラスカーもけっこうなプレーヤーで、本も残している。相手のキングを自陣の第1段まで引きずり込んできてキャスリングでメイトするという有名なゲームは、皮肉なことにこっちのラスカーのものである。
 
 「ユーベ」って誰?と思ったらエイベだった。Euweだから徹底英語読みなら「ユーウィー」か。ドイツ語読みの「オイベ」もよく見るが、オランダ人だから「エイヴェ」がいちばん現地読みに近い。この意味で最も不遇な世界チャンピオンかもしれない。
 本書の初版が'86年だから、その前年に世界チャンピオンになったカスパロフは、まだ名前の頭文字"G"もリストに載っていない。どうでもいいが、世界チャンピオンに「頭文字D」はいないようだ。
 
X Chess Problems
 チェス・プロブレム−人口のパズル
  チェス・プロブレムの実例
  チェス・プロブレムのたのしみ
  プロブレムを解くためのヒント
  サム・ロイドのツー・ムーヴァー
  スリー・ムーヴァーなど
  一手メイト
 フェアリー・チェスの世界
  セルフメイト問題
  フェアリー・ピースを使った問題
  逆推理プロブレム
 
 プロブレムがルール上起こりうる局面でないとならない説明で、「白のQが8つあってもいいが、白のPが9個あってはならない。(P8個が全部Qになることはあっても、PがPにプロモートすることはできない」等とある。
 重箱の隅をほじくると、どうせ極端な例を引き合いに出すなら「Qは9つ(最大値)あってもいい」としてほしい。「PがPにプロモートできない」という説明も無意味だ。PがPになってもPの数は増えないのだから。
 
 プロブレムをまともに解いていると帯出期間中に図書館へ返せないし、既知の問題も多いのであっさり答を見て進んだ。それでも間違いを見過ごせないのは私の性である(汗。









 これは図130、サム・ロイドの2手プロブレムで、解答 1 Qa1は正しいが 2 Nf7#が間違っている。それだと 1...Kg5 2 Nf7+ Kh4で詰まないではないか。初手さえ当てればいいとはいえ、このミスはちょっと悩ましい。図153は逆に詰み上がり図なのに詰んでない。
 プロブレムは、実戦に役立たないからプレーヤーに白眼視されてきたとか、『将棋とチェスの話』では、プレーヤーとしての実力がない人がプロブレムにはまる傾向がある等と、著者の扱いは低い。
 しかし、著者の嗜好はむしろこちらにあるようだ。対局せずに名局鑑賞だけする人とプロブレム好きとに大した違いがあるとも思えない。ただ、詰将棋とプロブレムが似て非なるものであることはたしかだ。
 
 フェアリー・チェスでは、スマリアンの逆解析プロブレムまで出てくる。早くに読んでいれば、スマリアンの本にももっと早く出会えて先に翻訳できたかもしれない(可能性はかなり低いが)。
 小野田さんも出しているようにパズルの本はけっこう売れる(最近は特にボケ防止)から、チェス本の中ではこの手の本はかなり有望な部類なのだ。パズル好きな人ならチェスの駒の動きくらいはたいてい知っているし。
 
参考文献
あとがきにかえて

 「参考文献」は、私の「チェス書レビュー」並に古い(笑。「あとがきにかえて」は、当時のコンピュータ対局ソフトの進化について触れている。サーゴンとか懐かしい名前が出てきた。この頃まだチェス専用機を追っかけていた私はもっと遅れていた(汗。
チェスの楽しみ
4480694064松田 道弘

筑摩書房 1986-10
売り上げランキング :


Amazonで詳しく見る
by G-Tools
posted by 水野優 at 17:41| Comment(8) | TrackBack(0) | チェス(和書評) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
東公平氏の氏名を見ると、以前購入した
ボビーフィッシャーのチェスの本を
思い出します。確か訳者が東氏だった
と・・・・・面白い本でした。
最後の頁まで詰め将棋(チェス)をやったら、
本をひっくり返して又詰め将棋(ちぇす)を
やる・・・・・会社の上司に貸したら・・・
返却されず。本当、良い本だったのに・・・
Posted by 鷹野晴信 at 2005年08月16日 21:59
水野さん、勘違いしてますよ。
エドワード・ラスカーとエマニエル・ラスカーが兄弟と言うのは超「新説」ですよー。
血縁はあったとしも「遠い親戚」というのが私の知る所です。
とりあえず、「wikipedia」をお調べください。
アメリカのバーン兄弟と間違えたのかな。
それから、「チェックは声に出さなければいけない」という誤った説を出したのはこの本だったのですね。
以前「近代将棋」の投稿欄にこの説を堂々と載せていた人がいたので、私は半信半疑で手元のチェス入門書をひっくり返して調べた記憶があります。
そのときは、投稿者はチェスの映画に影響されたのだろうと思っていたのですが、こんな「種本」があったとは、困ったものです。
Posted by Keres65 at 2005年08月16日 23:40
この本、私も愛読してました。過去の名局に関してはFineのThe World's Great Chess Gamesを参考にしてると思うんですがどうでしょう。私はいま、神奈川県に帰省していて実物を確認できません。記憶で言ってしまうと、たとえば、モーフィー対ポールセンの局面図に太字が使われてることや、紹介棋譜がよく一致してることなんかから、そう想像してます。
Posted by maro_chronicon at 2005年08月17日 10:33
 たくさんコメントありがとうございます。

鷹野さん:
 チェスの本をお持ちでしたかあ。『ボビー・フィッシャーのチェス入門』は、私も初めて買った思い出深い本です。

Keres65さん:
 ここではお初です。マルクス兄弟と間違えてました(嘘。どうも長い間勘違いしっぱなしだったようです(汗。訂正しておきます。

maro_chroniconさん:
 そのFineの本はまだ未見です。それであえて巻末の「参考文献」に載せてないのかもしれませんね(笑。神田古書巡り御一緒したかったかも。
Posted by 水野優 at 2005年08月17日 12:10
今年の神田は盆休みに行ったので不作でした。
私の古書店めぐりは、田村で20分、巌松で20分、アカシヤで40分、ほかざっと見て、最後にぶらじるか壱真でコーヒーが最近の基本パターンです。
これは私以外の人にはつらいコースかも。
(もっとも、20年前は半日居たって飽きも疲れもしなかったなあ)
それより最高のケーキ屋さんとかご存知では、、、。
Posted by maro at 2005年08月17日 23:43
 たしかに暑い時期には辛そうですね。私はブックオフの105円をあさってる方が合ってますが、それでも図書館で済めば買わないですからねえ。行ってみれば欲しいものが出てくるのかもしれませんが、都営新宿線沿線にいたときですら行かなかったくらいです。
 甘いものは昔から嫌いなので全然そういうタイプではないんです。例会前には脳を働かせるために食べたりしますが(笑。食費は月1万円強ほどと質素です。
Posted by 水野優 at 2005年08月18日 13:22
>甘いものは昔から嫌いなので
あたた。失礼しました。
『チェス思考に学べ!』を書店で見かけたら、巻末の「用語集」をぜひ開いてください。しっかりと用語集を作ってる方にはなかなか刺激的かと。
Posted by maro at 2005年08月22日 01:12
 いえいえ>失礼しました。
 どう刺激的か分かってきましたが(笑、機会があれば見ておきます。私も、この出版を担当された方から問題点を聞いております。言ってくれれば無償でもお手伝いしたのになあ。
Posted by 水野優 at 2005年08月22日 18:06
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック