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2005年08月10日

金田英二『チェス入門−短期間で上達する−』書評

 和書は書評で洋書はレビューとなんとなく使い分けている(笑。本書は実家にいたチェスを始めた頃に、近くの須磨区役所横の小さな図書館で見つけたが、読んだ記憶はない。
 著者のプロフィールが全く書いてなくて、ネットでも情報が見つけられない。将棋関係者と思うが、何も書いてないのでプロ棋士ではなく、ライターか評論家筋だろう。目次は書評がいらないくらい細かいので章ごとに見ていこう。
 
 はじめに
 第1章 簡単な基礎知識
  1 駒
   1 チェス盤
   2 駒の種類と名称
   3 駒の並べ方
   4 駒の動かし方
    T キング   @動かし方 A取り方
    U クイーン  @動かし方 A取り方
    V ビショップ @動かし方 A取り方
    W ナイト   @動かし方 A取り方
    X ルーク   @動かし方 A取り方
    Y ポーン   @動かし方 A取り方
            Bポーンの昇格 Cアンパッサン
  2 棋譜
   1 盤面・駒の呼び方
   2 各枡記号
   3 棋譜の説明
   4 棋譜の読み方
  3 キャッスリング
   1 キング・サイド・キャッスリング
   2 クイーン・サイド・キャッスリング
   3 キャッスリングの条件
  4 駒の価値
 *チェスの歴史
 
 順当にルールからだが、最後はチェスの起源やチャトランガに触れている。棋譜が英米式なので、'84年発売は初版じゃなく増版の年だろう。この時期は先行した河出書房新社に続けとばかりに多くの入門書が出たのに、全体的に古くさい本書の表現はそれらの本を参考したとは思えないのである。
 
 またあら探しだが、棋譜等のケアレスミスまでは多いので省く。Q側キャスリングは、Rを先にKの横に付けてからKを反対側へ動かすとしている。説明上の都合とは思うが、実戦ルールでは当然ながらR単独の手とされてしまう。
 「Q側キャスリングではRが孤立するのでK側キャスリングの方が防御も強い」という説明もおかしい。Rを防御駒としてだけ考えた場合のことだろうか。Q側の場合Kがbファイルに寄らないと危ないことならよく言及されるが。
 キャスリングができる条件も、私が嫌いな最大の5箇条となっていて、「キャスリングを行おうとする枡」などという分かりにくい表現が出てくる。他の条件と照らし合わせると、Kの移動先のマスのことらしいが。
 
 第2章 ゲームの決まり方
  1 チェック
  2 チェック・メイト
  3 ステイル・メイト
  4 パーペチュアル・チェック
  5 メイティング・マテリアル
 *チェスの起源@A
 
 メイトの問題では、黒が最善の受けをするとメイトにならない例を使っているのが気になった。このことから洋書とかの種本からの引用ではなく、著者自身が作図したことがうかがえる。
 用語の訳はわりと英語重視で、将棋的に「中合い」としそうなところが「インターポーズ」になっていたりするが、ステイルメイトを「捨て詰め」と言い換えたりと誤解を招く表現も出てくる。意味は別に説明しているのだからカタカナで通せばいいものを。

 以下の、パーペチュアルチェックかステイルメイトという例はひどい。










 著者は 1 Qh5+ Kg8 2 Qg5+ Kh8 3 Qh5+ Kg8(国際式表示に変更。以下同様)でパーペチュアルのドローとしているが、白が4手でメイト(1 Qg1 Kh7 2 Ke7 f5 3 Kf6 f4 4 Qg7#等)できる。たしかに、B筋PがQに対してステイルメイトがらみのドローにする手筋はあるが、2段目のPではさすがに無理だ。
 
 第3章 簡単なテクニック
  1 ダブル・チェック
  2 ピン・アップ
  3 スキュアー
  4 フォーク
  5 ディスカバード・チェック
  6 駒の交換
  7 チェック・メイトの基本
   1 クイーンによるチェック・メイト
   2 ルークによるチェック・メイト
   3 二つのビショップによるチェック・メイト
   4 ビショップとナイトによるチェック・メイト
   5 ポーンによるチェック・メイト
 
 「ピンアップ」は用語としてはピンと短縮形で使うことが多いので逆に新鮮な感じがする。「フォーク」の説明で、ルール上フォークと呼べるのはNとPがかけるときだけという旨がある。べつにルールの話じゃないし、queen forkという言い方は現に存在する。
 例題で、防御側の他の応手に触れない説明不足も見られる。「K+B+N 対 K」の説明で、「実戦の場合、一方がメイティング・マテリアルを失ったときには、いくら腕前が未熟で寄せきれないとしてもそれを残している人の勝ちになります」とある。50手ルールか時間切れでドローになりそうだが、当時はルールが違ったのだろうか。
 「Pによるチェックメイト」は実質「K+P 対 K」の終盤だが、Pが6段目まで進んでいるからオポジションに関係なく勝ちの例題で、わざわざステイルメイトになる失敗手順を見せながら正着の勝ちを載せていないのは不親切だ。
 
 第4章 序盤戦
  1 ある簡単な実戦例
  2 序盤戦のパターン
   1 センター・ゲーム
   2 スコッチ・ゲーム
   3 ヴィエナ・ゲーム
   4 フォー・ナイト・ゲーム
   5 ツー・ナイト・ディフェンス
   6 ダニッシュ・ギャンビット
   7 エバンス・ギャンビット
   8 キングス・ギャンビット
   9 クイーンズ・ギャンビット・アクセプテッド
   10 ギュオコ・ピアノ
   11 ルイ・ロペズ
   12 シシリアン・ディフェンス
   13 フレンチ・ディフェンス
   14 スラブ・ディフェンス
   15 ダッチ・ディフェンス
   16 イングリッシュ・オープニング
   17 ペトロフ・ディフェンス
   18 カロ・カン・ディフェンス
   19 フィルドール・ディフェンス
   20 キングズ・インディアン・ディフェンス
   21 クイーンズ・インディアン・ディフェンス
   22 ニムゾ・インディアン・ディフェンス
 
 序盤の前に一つ紹介する「実戦例」はレガルのメイトのゲームだが、この解説は無声映画の弁士のような臨場感を感じさせてすばらしい。どうやら著者の真骨頂はこういうところにあって、堅苦しい理論の解説には向かないのだろう。
 「スラブ・ディフェンス」で図も指し手も 2 c3となっていたことは指摘しておく。コーレ対スラブで対称形になっている。序盤の並び方に何の配慮もない点も気になる。時代、手順、50音順のどれでもない。
 「ニムゾ・インディアン」で「中原の理論」という言葉がいきなり出てきて面食らった。中原誠ではない(笑。center fieldの直訳だろう。著者がニムゾのドイツ語原書"Mein System"にまで当たっているらしき点には敬服するのだが。
 同じくニムゾの最後の方で、








Position after 14. ... bd7

 この後、15 Nxh7 Nxh7と進んだ最終局面図があって、「どうやら白側が駒得をしているようですが、…」とある。白のh7の攻撃など全然決まっていないし、どこが駒得やね〜ん! どういうレベルの間違いなのか見当も付かない。

 第5章 ネクスト・ムーヴ
  例題1〜6
 
 手順と勝ち負けともに最もひどい間違いがある。









 これが白番黒勝ちなのだという。解答はこうなっている。「1 Nxf6 Bxf6 2 Bb7 Rb6 3 Bxa8 Rxb2+ 4 Kxb2 Qb5+ 5 Kc3 Ne2# 黒は白のBにフォークをかけられたRには頓着せず、ダブルチェックで白をしとめます」
 2 Bb7がフォークだって? フォークがNとPだけという話は別として、なぜ 2 Bxa8と取らないのかとどんな初心者でも疑問に思うだろう。2...Rxa8 3 Bc3とでもすれば、白はエクスチェンジアップとQ側パスPで勝ちだ。
 2 Bb7??が大緩手としても、2...Rb6!には 3 Bb4+も時間稼ぎにしかならないところはうまくできている。3 Bb4+ Rxb4 4 Bxa8 Rxb2+ 5 Kxb2 Qb5+ 6 Kc3 Nf3+ 7 d4 Bd8! 8 Rb1 Ba5+ 9 Rb4 Bxb4+ 10 Kb2 Bd2+ 11 Ka3 Qb4#.
 しかし、さかのぼって黒は 1...Rxf6でBをピンする方がいいだろう。それでも 2 Bxa8! Rxf2 3 Rxf2で白の勝ちと思うが、1...Bxf6よりは抵抗できそうだ。これらの間違いからすると、著者が将棋等に堪能なのかも怪しい気がしてくる。
 
 第6章 エンド・ゲーム
  例題1〜9
 
 前章の難しい問題とは打って変わって易しい1〜3手メイトである。エンドゲームとメイトの混乱は初期の入門書には多く、本書はPの終盤が逆にメイトに入れられていた。
 
 第7章 名局譜
  1 モーフィー対アンデルセン
  2 ツカートールト対ブラックバーン
  3 シュタイニッツ対ツカートールト
  4 シュタイニッツ対チゴリン
  5 タラシュ対シュレッヒター
  6 ゼーミッシュ対ニムゾヴィッチ
  7 レティ対ボゴルジュボワ
  8 アリョーヒン対レーシェフスキー
  9 キャパブランカ対スピールマン
  10 ボトヴィニック対オィヴェ
  11 ケレス対スミスロフ
 日本のチェス
 
 お口直しというとなんだが、解説がなくても名局を一手ずつ意図を考えたり予想したりして並べるのがやはり勉強になると再認識した(遅い)。「日本のチェス」に関しては1ページだけで、内容からして本書の初出がかなり古いことが分かる。
 古いと売れないと考えるのは分かるが、和書も奥付にはほんとうの初出年を表示して欲しい。洋書は出版社が替わってもたいていちゃんと載っている。
 
 目次では省いたが、本書には章末以外にも多くのコラムがある。駒の動きの変遷から世界チャンピオンまで多岐に及んでいる。Qが強い駒になったのはエリザベス女王のせいという話も出てくるが、フェミニストならずとも気になるところだ。
 アンデルセンが初代世界チャンピオンとされているのも、後にシュタイニッツ以降を正規のチャンプとする前の話なら仕方ない。人名表記は英・独・ローマ字発音寄りだが、アリョーヒンはロシア語発音。来日したことがあるからかもしれない。
 
 20世紀初頭までまだインディアン・ディフェンスが異端だった頃、堅牢な 1 d4に対して「黒の暗黒時代」が続いた。チェスをやり始めた頃大学で一緒に指していたK君がよくそう言っていたのを思いだした。元ネタはおそらくこの本だったのだ。
 ニムゾヴィッチのコラムで、hypermodern schoolを「前衛教室」としているのは傑作だ。教室はともかく、前衛は「超現代」などより当時の時代精神を感じさせる名訳に思える。これから「前衛派」と呼びたくなった。
 
 いくら内容がずさんとはいえ、黎明期の先人の労作のあら探しをして茶化すのは本意ではない。いろいろ検討したおかげで結果的には勉強になった。日東書院はこの後、渡井氏の入門書を出したから本書の復刻はもうないだろう。

 局面図を載せるのはHPと同じ方法でできるはずなのに、駒の画像を上げたディレクトリの相対パス指定が通らないのでフルパスにし、テキストの設定で改行を<BR>扱いとしてるのでhtml出力した局面図から改行を抜かねばならなかった。今後もブログで局面図を入れるだろうから、なんとかHP用局面と楽に共用できるようにしないと(汗。
チェス入門―短期間で上達する
452800495X金田 英二

日東書院 1984-01
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posted by 水野優 at 16:35| Comment(2) | TrackBack(0) | チェス(和書評) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。

水野さん、実家須磨区なんですか。
私も出身は須磨区で、小学校4年生までいました。板宿(何線か失念)と国鉄鷹取駅の中間あたり。
今でも神戸は原光景なので、ホームシックになると行きます。現在私は四国香川に在住しております。
Posted by 金田一輝 at 2005年08月10日 18:36
 どもです。
 なんと意外なところから(笑。私は長田区ですが鷹取駅の真南2号線近くなので須磨海岸も近いです。地震以降、鷹取駅は帰省のたびに工事で出口の場所が変わっていて困りました(笑。
 板宿は山陽電鉄ですが、今は市営地下鉄も通ってますね。新しい海岸沿いの地下鉄にはまだ乗ったことがありません。どちらも新長田までしか来ないので鷹取は不便です。
 神戸はおしゃれで便利だから好きだけど、仕事柄関東に出て来ました。ネットのおかげでどこにも住めるようになったけど、関東に知り合いが増えたからもどりそうにはないです。
Posted by 水野優 at 2005年08月10日 19:56
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