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2007年09月13日

永井均『これがニーチェだ』書評

 永井均の『これがニーチェだ』(221ページ、'98、講談社現代新書1401)。猛暑の中の図書館通いを休んでいたので、久々の書評は春にブックオフで買ったものである。ニーチェは、かねがね超人思想に憧れながらも、ご多分にもれず読んでなかった(汗。
 さらに情けないことに、ワーグナーと友人だったニーチェ自身も作曲家で、現在でもピアノ曲のCDが発売されていることを初めて知った。当時の音楽に関する著作もあるのに、ニーチェ関連ではシュトラウスの「ツァラトゥストラはこう語った」を聴いてきただけとは…。

目次の抜粋(裏表紙より)
●道徳批判−諸空間への序章
なぜ人を殺してはいけないのか

 以前精神病の書評で「自明」のこと(自明と思えないなら異常)と簡単に扱った、少年犯罪でも脚光を浴びたテーマである。著者は、ニーチェの言う聖人の代表として大江健三郎を引き合いに出し、彼がこの質問を一蹴したことを、ニーチェのキリスト教(とその道徳)批判へとつなげる流れが分かりやすい。

●ニーチェの誕生と、『悲劇の誕生』のソクラテス像

 ハイデガーが指摘したように、ニーチェはソクラテス以降のイデアに縛られて膠着する以前の原初的なエネルギーを持つ哲学を文献学的に掘り起こそうとした。
 ニーチェは神学から始めて文献学と哲学の間を行ったり来たりしたが、著者によると、哲学の方法論をしっかり学ばなかったために、自分だけが超越的なパースペクティヴで物を言う誤謬を犯した。だからニーチェの著作には俗っぽい「人生哲学」的解釈の余地があるのかもしれない。それはさらなる誤謬となるのだろうが。

●第一空間−ニヒリズムとその系譜学
神の死とニヒリズム
●第二空間−力への意志とパースペクティヴ主義
●『反キリスト』のイエス像と、ニーチェの終焉
●第三空間−永遠回帰=遊ぶ子供の聖なる肯定
永遠回帰の襲来
意志の否定

 著者がニーチェの生涯の思索経緯に従って3つの空間を設定する本書の根幹部分だが、これが難しい。そのときは納得しても、他の空間との違いうんぬんとかになるとさっぱり頭が付いていかない。ニーチェの原文からの引用(著者訳)はいいので、やはり原文をある程度読むしかないようだ。
 原文(訳)で推奨されているのは、『この人を見よ』、『ツァラ〜』(第3部以降)、『反キリスト』(白水社全集か同イデー選書の西尾訳)。『悲劇の誕生』は処女作だしワーグナーに関する記述があるから最初に読みたいが、どうにも難解らしい。

 あとがきにあるように、意外にも『これがニーチェだ』というタイトルは著者が決めたものである。たしかに著者自身も主観が強い内容を認めているし、原書やもっとスタンダードな入門書を先に読むべきと思う。しかし、おもしろい入門書であることは確かだ。


 さっきNTV「ザ・ワイド」でも見たが、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』がバカ売れしている。読みやすい新訳、大きい活字と広い行間、主要登場人物が書かれた栞等、まだまだ古典が売れる工夫はあるものだ。もちろん現代と通じる普遍性を持つ名作だからだろうが。

これがニーチェだ (講談社現代新書)
永井 均
これがニーチェだ (講談社現代新書)
講談社 1998-05
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おすすめ平均 star
starニーチェに対する態度
starニーチェの一つ解釈を提示
star分かりやすいのもどうだろうかと。

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posted by 水野優 at 16:12| Comment(4) | 英語/翻訳/文芸/科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
これ、いいですよね。『ルサンチマンの哲学』もニーチェ論として好きです。
(他の人の書くニーチェ論は論というより、しばしば伝記だったりしますもの)
この著者では、『ウィトゲンシュタイン入門』も好きです。
『悲劇の誕生』はそんなに難しいかなあ。『この人を見よ』こそチンプンカンプンでは。
Posted by maro_chronicon at 2007年11月05日 01:34
 切り口が独特ですね。ルサンチマンは私の生き方に通じるし、芋づる式に読んでいきたいのですが、最近忙しくて止まっています。
 では『悲劇の誕生』を読んでみようかな。

 ウェブ対戦始められたようですね。私はマナーの悪さに閉口してすぐやめました。私の早めの投了が気に入らないらしく、はてには「私が負けを免じてやる」とか言うクソバカとやったのが最後です。
Posted by 水野優 at 2007年11月05日 15:59
> マナーの悪さ
昔ほどではないですね、いまのところ。
私が気にしなくなっただけかもしれませんが。
Posted by maro_chronicon at 2007年11月05日 20:39
 かなり昔はチャットがてらにチェスもやってるという感じで、他流試合をする気にならない雰囲気だったとは思います(笑。
Posted by 水野優 at 2007年11月06日 19:35
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