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2007年07月20日

ファイン『チェス棋士の心理学』付録:アーネスト・ジョーンズからの二通の手紙

1956年1月25日 
拝啓、ファイン様

 貴殿の論文を拝読する栄誉に預かるとともに、存分に堪能致しました。これは、たしかに私の研究の延長線上にあるものです。

 貴殿のpsa[精神分析]解釈に関しては全面的に賛成で、ほとんど付け加えることはありません。私には、宰相(Grand Vizier)の駒が女王へ変化したことが依然として不可解に思えますが、貴殿は女王を根源的なものと見なされたようですね。おそらく、これらの背景には母と父の男根問題が潜んでいるのでしょう。

 62ページ(訳注:原書なら第3章の最後)の興味深い処方(Verschreiben)については、アリョーヒンよりカパブランカを好まれる根拠と解釈しました。人格的にも十分理解できることです。他にささいな提案事項をいくつか鉛筆で書き込みました。

 モーフィー−スタントン事件に関しては、ずいぶん扱いが軽いと思いました。モーフィーがアンデルセンよりスタントンにこだわった証拠はたくさんあります。その背景には、早期の否定的父親転移(negative father-transference)があったに違いありません。モーフィーの初期の発言、スタントンの「ひどすぎるゲーム」を覚えていますか。彼を 倒す必要があるかのような発言です。

 (カパのような)かなり早指しの棋士が、ほとんどノータイムで最善手を指してから瞑想や白昼夢にふける自信喪失状態に陥り、時間切迫で悪手に走るという奇妙な行動には、触れておく価値がありそうです。カパのような棋士にはあったであろう自信がいかに重要かを示しています。

 私自身のチェスへの興味は変わった道筋をたどりました。10歳のときに父親からルールを教わったまではよくある話ですが、父には、ポケットチェスセットを持ち歩いている者とは指さないようにと警告されました! おかげで、働き過ぎの人生の中で指したゲーム数は数えられるほどです。空襲でロンドンを離れて今の田舎家に住み始めてからは、患者が減って余暇が増えました。私がチェスにかけがえのない意義を見いだしたのは、その63歳のときです。有名な書籍をほとんど読み尽くし、十冊以上の対局集と隔週チェス雑誌に載っているゲームを並べました。そして、郵便戦を6局指しています。実践も、並のアマチュア相手な らそれほど引けは取りませんし、チチェスター・チェスクラブの会長にまで祭り上げられましたが、あまり顔も出しに行けません。貴殿の定跡(Chess Openings)や基本終盤(Basic Endings)に関する名著もありますが、それを活用できるほどの記憶力がもうないので、ひじょうに明解な貴殿の『世界の名局集(World Great Games)』を堪能しました。今取り組んでいるチェルネフ(Chernev)の『1000名短局集(Thousand Best Short Games)』は、15手か20手ほどで対戦相手に簡単には見破れない作戦を教えてくれる点で最高に狡猾です!

 サンフランシスコのコルビーが少し前に居て、チェルネフの数局を逆に並べてくれました。

 では、大いなる感謝を込めて。

敬具  
アーネスト・ジョーンズ 



拝啓、ファイン様

 チェスに関する論文を送っていただき、ありがとうございます。初めて見たときから、ずいぶん進展しましたね。名作として残り続けると思います。

 ニューヨークで直接お会いできてとても楽しかったです。貴殿の方が私より大西洋を越える機会がおありでしょうから、その節はぜひとも拙宅へお寄りいただければと願っております。

敬具  
アーネスト・ジョーンズ 



 ファインは、本論文が草稿の段階からフロイトの高弟ジョーンズに送って意見を求めたようである。1通目の手紙ではジョーンズが晩年に余暇ができてやっとチェスを楽しめるようになったことがうかがえる。2通目には日付がないが、二人がNYで会ったことが分かる。
 1通目の最後辺り「チェルネフの数局を逆に並べてくれました」は、原文でplayed a couple of Chernevs on me in reverseだが、このin reverseは何が逆なのかが分からない(汗。

 最後の「参考文献」はHPにのみ掲載するのでブログでの連載は今回で終了する。やはり「読み物」は思ったより難しくて時間がかかったが、精神分析という貴重な副産物が手に入った。この枠は、次回からAnthony DickinsのA Guide To Fairy Chessを連載する。

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この記事へのコメント
精神分析とチェスって、相性いいの?(^-^;
Posted by Rina Katase at 2007年07月20日 20:11
> 全面的に賛成で、ほとんど付け加えることはありません。

そう、そうなの、、、。
加藤一二三の長いネクタイとか、彼がベルトをゆすりあげて、ググッとそそり立つところとかも、何の象徴か分析してほしいわあ。
Posted by maro_chronicon at 2007年07月20日 22:30
 マニアックですねえ(笑。将棋は将棋でこういう文献はないんでしょうか。チェスのように心理学や精神分析を修めた棋士はいそうにないですが。

 プロのチェス棋士の頭の中は凡人とどう違うのかという疑問が当初にあって、記憶力や判断力のテストがまず行われ、本書でも最初に引用されています。
 チェスは、スポーツと同様競技のわりに不健康になりがちで、芸術家のような特殊な才能を必要としながら非情な勝ち負けがある点で芸術とは一線を画しています。
 この辺りの事情を総合的に見れば、おかしな人が多くても仕方ないでしょうね(笑。
Posted by 水野優 at 2007年07月21日 16:17
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