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2007年07月08日

斎藤環『生き延びるためのラカン』書評

 斎藤環の『生き延びるためのラカン』(256ページ、'06年11月、バジリコ木星叢書)を読んだ。切実そうなタイトルだが、主にひきこもりを診断する医師である著者が、今の時代からこその(フロイト〜)ラカンを強調する。
 中学生まで見据えたような語りかける軽い文体で、時事的な話題からサブカルチャーまで織り交ぜ、ひんぱんに「脱線〜閑話休題」を繰り返す(笑。自身が「ラカニアン」ではないからむしろ分かりやすく書けると主張するが、内容の展開はかなり手強い。


目次(読書時のメモから転載)
Lecture 1 なぜ「ラカン」なのか?
 ジャック・ラカン、仏のカリスマ。ラカンの切れ味の実例。

Lecture 2 あなたの欲望は誰のもの?
 欲望は他人の欲望。欲望の無根拠性。満たされない心を欲する。

Lecture 3 「それが欲しい理由」が言える?
 ラカンの引用。他者≒言葉。言葉は存在の代理。

Lecture 4 「こころ」はどれほど自由か?
 意外に大きい言葉の音的連想。ボケとツッコミは精神分析。

Lecture 5 「シニフィアン」になじもう
 言葉に依らないイメージはない。自分の鏡像を見て以来、イメージ=実在、言葉=虚構になり、ものを殺した。

Lecture 6 象徴界とエディプス
 エディプス・コンプレックス〜ラカン的去勢

Lecture 7 去勢とコンプレックス
 フロイトの去勢とエディプス・コンプレックス(男女それぞれの場合)。ファルスが究極の欲望へ。エロスとタナトス。

Lecture 8 愛と自己イメージをもたらす「鏡」
 想像界の起源が「鏡像段階」。愛が自己→他者。

Lecture 9 愛と憎しみの想像界(イマジネール)
 想像界は自己愛的。近親憎悪のケース〜ラカンの「症例エメ」。

Lecture 10 対象aをつかまえろ!
 対象a=欲望の原因。欲しいもの自体ではなく、それを買える可能性が欲望を生む。自分だけは特別という「リアルな幻想」が本当の自分(対象a)を探す。対象aは、性的倒錯者には客観的、精神病者には実体化。

Lecture 11 すべての男はヘンタイである
 様々なフェティシズムは、精神分析の正当性を支持する根拠。原始宗教研究〜マルクス、クラフト=エビング、フロイト。母親のペニス代わり→戦闘美少女。同性愛(フロイトの無理な説明)。男はマザコンが基本。

Lecture 12 欲望はヴェールの彼方に
 覆いは現実よりも価値ある。モンローがパンチラを生んだ。幽霊でも、控えめの表現がリアリティを増す。自己イメージに基づく「共感」の限界。

Lecture 13 ヒステリーはなにを問うか
 ジャネが多重人格分析で再評価。ヒステリーは、フロイトによると有害なイメージの抑圧、ラカンによるとイメージを介する表現。

Lecture 14 女性は存在しない?
 女性を言葉で明確に定義づけることはできない。各種享楽について。人間は性的にも本能をなくした。おたく(自分の立場が基本)と腐女子(自分の立場より関係性)。

Lecture 15 「精神病」とはどんな事態か?
 自明性の喪失。ダブルバインド。心を統合する象徴界の故障。

Lecture 16 「現実界」はどこにある?
 現実も虚構の一種。トラウマは、言葉やイメージを超えたために通常の記憶にならなかった。思い出させて言語化する治療。反復こそ人を人たらしめている要因。著者は、ラカンにも精神病は手に負えないと考える。

Lecture 17 ボロメオの輪の結び方
 心≒言動=症状→存在証明。ジェームズ・ジョイスの場合。

Lecture 18 転移の問題
 失敗を糧にしたフロイト。転移セクハラ大将ユング。

Lecture 19 転移・投影・同一化
 多数の引用によるまとめ。心と情報が対立するから精神分析に意味がある。心の不便さが人を人たらしめている。

精神分析の倫理 あとがきにかえて
 わかればわかるほどわからなくなるからラカンの理論はすばらしい。

ラカン主要著作リスト
索引


 吉田戦車の作風やジョジョの「スタンド」等は、私が何とかギリギリ知っているサブカルだが、そういう著者の本領が発揮された『戦闘美少女の精神分析』もおもしろそうだ。以前お世話になった太田出版だから、遊びに行ったらもらえるかも(汗。
 オカルト的で気にくわないユングより、構造主義者にもされているラカンは気になっていた。しかし、ラカンの原典はメタファーや引用のオンパレードだという。とりあえず、日本一分かりやすい本書を読んで興味を持てなければ、ラカンは合わないと決めつけていいだろう。

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ラカン
posted by 水野優 at 12:55| Comment(4) | 英語/翻訳/文芸/科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ラカンは『エクリ』を読む力が私には無くて、『構造と力』で解説してくれてる部分が一番よいと思ってきましたが、これ、面白そうですね。
Posted by maro_chronicon at 2007年07月09日 01:27
 著者もエクリよりセミネールの方が読みやすいと書いています。しかし、私は個人的な興味から次は『性倒錯の構造−フロイト・ラカンの分析理論』を読みそうです。
 本書はある程度ラカンを知ってる人には物足りないと思います。私は鏡像段階くらいだったので良かったのですが。
 『構造と力』もメタファーだらけと聞いて遠慮してましたが、読んでみようかな。グールドに触れてた『ヘルメスの音楽』は読みました。ポストモダン入門書の類はけっこうありますね。
Posted by 水野優 at 2007年07月09日 16:09
ラカンのメタファーは説得力ありそうですw
Posted by Rina Katase at 2007年07月12日 14:29
 もう一つのブログでも裏レビューします(笑。
Posted by 水野優 at 2007年07月13日 14:47
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