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2007年07月01日

ミチオ・カク著/斉藤隆央訳『パラレルワールド』書評

 ミチオ・カク著、斉藤隆央訳『パラレルワールド 11次元の宇宙から超空間へ(Parallel Worlds - A Journey Through Creation, High Dimensions, and the Future of the Cosmos)』(437+40ページ、'06年1月、日本放送出版協会)を読んだ。
 長いがamazonの好レビュー通りのすばらしい本だった。特に歴史的な叙述でも学者の人間的葛藤が生き生きと感動的に語られており、類書と一線を画している。ただし、「はじめに」に書かれている「予備知識なしでも理解できる」はちょっと無理がある。
 NHK出版の翻訳書は定評があるが、この訳者も理系出身の専門翻訳家のようで、「ロ」ーズベルト大統領のように正しい発音もちゃんと調べていい仕事をしている。日系人の著者自身が日本語に訳したと言われても納得するほど読みやすい文章である。


目次(引用著書や私的に気になったこと)
はじめに

第I部 宇宙
第一章 宇宙が赤ん坊だったころ
 WMAP/宇宙の年齢/インフレーション/多宇宙(マルチバース)
 M理論と十一次元/宇宙の終わり/超空間への脱出

 素粒子の違いをひもの振動の違いに還元し、ひも理論による宇宙の交響楽が図表化(和声=物理学、メロディー=科学、等)されているのが興味深い。はるか昔に宇宙の調和を音楽にたとえたピタゴラスに関しても後に触れられている。

第二章 パラドックスに満ちた宇宙
 ベントリーのパラドックス/オルバースのパラドックス/
 反逆者アインシュタイン/相対性のパラドックス/
 力は空間のたわみ/宇宙論の誕生/宇宙の未来

 オルバースのパラドックス(宇宙は無限ならなぜ夜空は暗い)にエドガー・アラン・ポーが ほぼ正しい答えを出していたことに驚かされる。しかも、ポーはビッグバンの原形とも言える「超原子」というアイデアの創始者でもある!

第三章 ビッグバン
 高貴な天文学者エドウィン・ハッブル/ドップラー効果と膨張宇宙
 ハッブルの法則/ビッグバン/ひょうきん者のジョージ・ガモフ
 宇宙の台所/マイクロ波背景放射/あまのじゃくフレッド・ホイル
 定常宇宙論/BBCのラジオ講座/星のなかの元素合成
 定常宇宙への反証/恒星の一生/鳥の糞とビッグバン
 ビッグバンが個人に与えた影響/Ωとダークマター/COBE

 これまた部外者のカントが、18世紀に渦巻星雲をすでに島宇宙と推測していた。かと思えば、時代を先駆けすぎた20世紀で最もかわいそうな天文学者フリッツ・ツヴィッキーの話も興味深い。

第四章 インフレーションと平行宇宙
 インフレーションの誕生/統一を求めて
 宇宙はひとつの力で始まった/偽りの真空/モノポールの問題
 平坦性問題/地平線問題/インフレーション理論への反応
 カオス的インフレーションと平行宇宙/無から生じた宇宙
 ほかの宇宙はどのようなものなのか?/対称性の破れ
 対称性と標準模型/検証可能な予言/超新星−Λの復活
 宇宙の段階的な進化/予言

 ポール・アンダースンの古典SF『タウ・ゼロ』。上記ツヴィッキーとは対照的に、失業寸前からインフレーション理論によってMIT準教授の職を得たアラン・グース。インフレーション〜マルチバース理論は、発散や特異点を解消でき、無から有を生じる(すべての物質やエネルギーに対称性や反〜がある)点で、最も納得がいく。

第II部 マルチバース
第五章 次元の入口とタイムトラベル
 ブラックホール/アインシュタイン−ローゼン橋
 回転するブラックホール/ブラックホールを観測する
 ガンマ線バースター/ファン・ストックムのタイムマシン/
 ゲーデルの宇宙/ソーンのタイムマシン
 負のエネルギーにからむ問題/寝室のなかの宇宙/
 ゴットのタイムマシン/タイムパラドックス

 アイザック・アシモフのSF『神々自身』。カール・セーガンの小説 『コンタクト』。ロバート・ハインラインの短編SF『輪廻の蛇』。アイザック・アシモフの『永遠の終わり』。

第六章 量子論的な並行宇宙
 トワイライトゾーン/知の怪物、ジョン・ホイーラー
 決定か不確定か?/森のなかの木/猫の問題
 原子爆弾/経路積分/ウィグナーの友人/干渉性の消失
 多世界/ビットからイット/量子コンピュータ
 量子テレポーテーション/宇宙の波動関数

 ダグラス・アダムスのSF『銀河ヒッチハイク・ガイド』。フィリップ・K・ディックのSF『高い城の男』。オラフ・ステープルドンの古典SF『スターメイカー』。シュレーディンガーの猫から18世紀の バークリー(!)にまで言及。
 チェスへの言及部分その1(物理学者ポール・エーレンフェストの発言)(p.193):
 「ボーアとアインシュタインが次々と新しい例を持ち出し、まるでチェスの試合のように対話する場に居合わせたたのは、素晴らしい体験だった。…」

第七章 M理論−すべてのひもの母
 M理論/ひろ理論の歴史/十次元/ひも理論のブーム
 宇宙の音楽/超空間での問題/なぜひもなのか?/対称性
 標準模型を導き出す/M理論/超重力/十一番めの次元
 ブレーンの世界/双対性/リサ・ランダル/衝突する宇宙
 ミニ・ブラックホール/ブラックホールと情報のパラドックス
 ホログラフィック宇宙/宇宙はコンピュータのプログラムなのか?
 物理学の終着点

 H・G・ウェルズのSF『透明人間』『素晴らしき来訪』。エドウィン・アボット『平面国』。超空間からピカソダリデュシャンに言及。ボーアによると「万物理論は奇 想天外でなければならない」!
 チェスへの言及部分その2(p.285〜286)
 チェスのルールがわかっても、それだけではチェスの名人になれない。同じように、宇宙の法則がわかっても、宇宙のさまざまな謎の答えを知る名人にはなれないのだ。

第八章 設計された宇宙?
 宇宙の偶然/人間原理/マルチバース/宇宙の進化

 人間原理についてちょっと誤解していた(汗。宇宙が人間のような知 的生物が生まれるようにし向けられているとするのが人間原理(様々な程度があるが)だが、人間がそう思うのはたまたま人間が存在できる偶然に立ち会ったからに過ぎないというのが私の支持する考え方で、これはコペルニクス原理と呼ばれる。

第九章 十一次元のエコーを探す
 GPSと相対性理論/重力波検出器/LIGO/LISA
 重力レンズとアインシュタイン・リング
 あなたの部屋にもあるダークマター
 SUSY(超対称性)ダークマター/スローン・スカイ・サーベイ
 温度ゆらぎを補正する/電波望遠鏡を連結する
 十一番めの次元を測る/大型ハドロン加速器
 卓上型の加速器/今後の展望

第III部 超空間への脱出
第十章 すべての終わり
 熱力学の三法則/ビッグクランチ/宇宙の五段階
 知的生命は生き残れるか?/宇宙を飛び出す

第十一章 宇宙からの脱出
 文明のタイプI、II、III/タイプI文明/タイプII文明/タイプIII文明
 タイプIV文明/情報テクノロジーを加味する/タイプA〜Z
 ステップ1 万物理論を打ち立て検証する
 ステップ2 自然に存在するワームホールやホワイトホールを見つける
 ステップ3 ブラックホールに探査機を送り込む
 ステップ4 ゆっくりとブラックホールを作る
 ステップ5 ベビーユニバースを作る
 ステップ6 巨大な粒子加速器を建造する
 ステップ7 爆縮機構を生み出す
 ステップ8 ワープドライブ・マシンを作る
 ステップ9 スクイズド状態による負のエネルギーを利用する
 ステップ10 量子論的な遷移を待つ ステップ11 最後の望み

 グレッグ・ベアのSF『永劫』。本書の最もエキサイティングな「知的生命子孫のビッグフリーズから別宇宙への脱出」案。原子ほどの大きさに圧縮した自動解凍型ナノロボットをワームホールから突破させるのが「最後の望み」。

第十二章 マルチバースを超えて
 歴史をたどる/コペルニクス原理と人間原理/量子論的な解釈
 マルチバースによる解釈/物理学者が考える「宇宙の意味」
 われわれ自身の意味を生み出す/タイプI文明への移行

 ダグラス・アダムスのSF『宇宙の果てのレストラン』。ラリイ・ニーヴンの短編『時は分かれて果てもなく』。ドーキンスに影響されたスティーヴン・ワインバーグの著書『宇宙創成はじめの三分間』は読ん でみたい。


 映画の引用は省いた。SFも読みそうにない。それにしても、この手の著作にはシェイクスピアの引用(小田島訳)とへの言及は必ず出てくる。日本人が書いたものと比べて統計を出せばその違いは明らかだろう。
 本書の他の収穫としては、今まであまり意識しなかった宇宙論天文学の違いがはっきり語られている。あくまでデータ分析に重点がある天文学に比べると宇宙論はずいぶん無責任に勝手な説ばかり並べ立てている(笑。粗っぽく言うと量子論はその間くらいだろうか。

パラレルワールド―11次元の宇宙から超空間へ
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posted by 水野優 at 17:28| Comment(2) | 英語/翻訳/文芸/科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
まさにそれ(^-^; >文系なのに
Posted by Rina Katase at 2007年07月04日 20:50
 文系とはいえ、自分がどれくらいの知識を前提に読んでいるのかだんだん分からなくなっています(汗。
 数式は全くといってでてこずにこれだけ内容がバラエティ豊かな本書がすごいのはたしかです。しばらく宇宙論は満腹かも。
Posted by 水野優 at 2007年07月04日 23:33
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