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2007年06月14日

リチャード・ドーキンス著/垂水雄二訳『遺伝子の川』書評

 リチャード・ドーキンス著、垂水雄二訳『遺伝子の川(サイエンス・マスターズ1)』(238ページ、'95年、草思社)である。彼の代表作は『利己的な遺伝子』だが、amazonレビューで文体が冗長と書かれているので、ページ数がいちばん少なく総括的な内容の本書から読むことにした。
 実際は巧みな比喩(それゆえ誤解も生じるが)のせいで、やや直訳調(下訳者に引っ張られているのだろう)もさほど気にならず、リズミカルな流れでぐいぐい読ませてくれる。


目次
まえがき

1 ディジタル・リバー
 ディジタル・リバーは、そのディジタル性で革命的な遺伝子が未来へ伝えられる流れを、エデンの園から流れ出る川へとたとえている。進化とは突然変異自然淘汰の繰り返しに過ぎない点を徹底しており、何度もここに立ち返ることが冗長に感じられるのかもしれない。
 元々は同じ細胞が生物の身体各部に応じた細胞に変化していく仕組みが、簡単ながら説明されているのが興味深い。
 恒例のチェスに言及する部分をp.28から引用する:
「現代の電子開閉機構はきわめて速いので、回線の時間を細分することができる。どちらかというと、チェスの名人が自分の時間を細かく使い分けて二〇面打ちをこなしていくようなものだ。」

2 全アフリカとその子孫
 文化的相対主義をサロン哲学と厳しく批判し、その実例「月を木に引っかかったひょうたんと思っている民族」の間違いを論駁するのがおもしろい。さらには、祖先をたどると親が2人祖父母が4人と等比級数的に増えていくのに、昔の世界人口は今より少なかった。これはどういうわけか?と、つかみは十分すぎるほどOK(笑。
 本章の肝であるアフリカのイヴへとたどる試みは、性によって二分されずに母方のDNAが不変に継承されるミトコンドリアに基づくものだが、論敵である創造論者への皮肉であるはずの「イヴ」がよけいな誤解も生じて両刃の剣になっている。分子時計の話も興味深い。

3 ひそかに改良をなせ
 一見進化では不可能なような、ランがハチを擬態であざむく生殖戦略や、昔学校で習ったミツバチの8の字ダンスの成立過程を見事に仮説説明する。ただの皮膚上に魚程度のができるまでに50万年あれば十分という試算モデルも紹介する。
 動物にしては賢そうな認識判断力も裏を返せばあきれるほど単純な本能遺伝の集積に過ぎない。これと比較すれば、後天的に学ばねばならないことが多すぎる複雑な人間社会で脱落者が多いのは無理からぬことに思える。

4 神の効用関数
 ダーウィンは、生物の生態を調べていくにつれ、神がこんな残酷なことをさせるはずがないと確信するに至ったという。ダーウィンを何度も引用する著者は、自然はただ感情がないという意味で非情なだけと説く。漱石の「非人情」を連想した。
 「神の効用関数」も、神とあろうものが(非情は別として)動物の殺し合いという低効率なことをさせるわけがないという皮肉である。DNAの生存を賭けた利益の争奪戦は『利己的な遺伝子』に詳しい。生物は遺伝子が生き延びるための乗り物に過ぎないという思想はSFファンタジーの格好のテーマになった(全然読んでないが)。
 ちなみに、死ぬときに苦痛を和らげる脳内物質が分泌されると聞くが、遺伝子が生き延びるためにはどうでもいい死にかけの脳に、進化が情けをかけるのだろうか?

5 自己複製爆弾
 原語が分からないが、爆弾という訳が最後までなじめなかった。本章では、起源から様々な臨界点を突破して進化する生物をその普遍性と(地球における)特殊性に分けて考察する。「不幸の手紙」との比較がおもしろい。そういえば、ネズミ講は元々生物のたとえだ(笑。
 ホーキングの著作で人間が文化によって進化速度を飛躍的に向上させたとあったが、これこそがドーキンスがミームと名付けたもので、それは宇宙への臨界点も突破し、ボイジャー2号へグールドの演奏とともに乗り込んだ。

あとがき
 ホーキングとペンローズみたいに、ドーキンスには同じ進化論者でもスティーヴン・ジェイ・グールドという論敵がいる。深い教養と巧みな語り口らしいからこちらの「グールド」も気になるが、とりあえずドーキンスは全部読み たい。図書館にある範囲で(汗。


 私が非情な自然を嫌い、ナイーブで直截的な表現よりソフィスティケートされた芸術に偏向する理由が見えてきたような気がする。突然変異と自然淘汰の結果である現在は、人間原理に関して宇宙論にそのまま通じている。

遺伝子の川
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posted by 水野優 at 17:10| Comment(2) | 英語/翻訳/文芸/科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ズバリ突然変異と言い切るところが明快ですね(^-^; どうして生物はこうなっているのかというかという課題に対する示唆になります。そもそも昔の方が人口が多いのです(違)
Posted by 片瀬理奈 at 2007年06月14日 18:55
 理奈ちゃも知ってのとおり、人の手が加わらない自然が観賞対象にならない私には、ドーキンスはひじょうに心強い後ろ盾になりそうです(笑。
Posted by 水野優 at 2007年06月15日 17:23
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