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2007年06月10日

行方昭夫『英語の発想がよくわかる表現50』書評

 行方昭夫(なめかたあきお)の『英語の発想がよくわかる表現50』(187ページ、'05年、岩波ジュニア新書502)を読んだ。語学本もやや久々になるが、ジュニア向けとはいえこの新書シリーズはいろいろと勉強になるのであなどれない。
 '31年生まれで東大名誉教授の著者は訳書も多いせいか、50の英和対照例文の暗記という本書の主目的以外にも、英和翻訳に役立つ知識を多く散りばめている。「あとがき」によると、最近の会話偏重文法軽視の英語教育に苦言を呈するのが、本書執筆の動機だったという。


目次
はじめに

I 英語らしい英語 日本語らしい日本語
 1 waterは水じゃないの?
 2 「来る」と「行く」
 3 英語は「大」から「小」へ
 4 youに注目!
 5 間違いだらけの乗り換え案内
 6 退屈なのは誰のせい?
 7 興奮しているのはどっちなの?
 8 いらいら・うんざり
 9 「情けは人のためならず」
 10 流行語や新語にとびつくより

 I〜IVは3〜5ページずつの各項の最後が3つの英和対照例文で締めくくられているので、タイトルの50とは違って全部で120ほどになる。本文中の自然な和訳に比べると、なぜか例文の和訳はやや古めかしかったりリズムが悪かったりするのは玉に瑕。
 本章では3が、目から鱗の内容だった。6では壇ふみ、8では新庄剛志の英会話失敗談まで引用されていて興味深い。

II この英語はどう訳す?
 1 Where is my pen?を何種類もの日本語にしてみよう
 2 コンテクストは大切!
 3 多い? 少ない?
 4 イディオムは化合物
 5 「バケツをけとばす」のがおかしい?
 6 まだ辞典に出ていない表現 その1−you know
 7 まだ辞典に出ていない表現 その2−my dear lady
 8 落ち着いて内容をとらえよう
 9 辞典の訳語はどう使う?
 10 比較級と否定
 11 名詞・動詞・形容詞の関係は?
 12 形容詞が名詞化した例

 2の最後にあるコンテクストの重要性を示す好例を引用しよう。The other day I went into the theatre to see a Caesarian. 私も「劇場か映画館へカエサルを見に行った」と考えてしまったが、続きを読むと、theatreは手術階段教室、Caesarianは帝王切開手術と分かる(汗。

III 小さな違いに注目
 1 maybe, perhaps と probably
 2 quite と very
 3 well と properly
 4 「思う」のいろいろ
 5 類語辞典はどう使う?
 6 おおげさな言い方
 7 and のいろいろ
 8 of は「の」だと思いこまないで!

 2のquiteの「まあまあ」と「かなり」の両義性に関しては、私はratherにも感じる。チェスの形勢判断に使われていると、「やや」優勢か「かなり」優勢か決めあぐねるときがあるのだ。8では、リンカーンの演説government of the peopleを(人民を統治すること)とする著者の恩師の解釈が興味深い。

IV 文全体の姿に気をつけよう
 1 句読点で意味が変わる!
 2 文と文の因果関係
 3 省略されているのは何?
 4 仮定法で省略されるのは?
 5 日本語ではなじみのない無生物主語
 6 仮定法は仮定だけではない!
 7 英語に敬語はない?
 8 挿入構文に慣れよう
 9 描出話法を見分ける!
 10 翻訳の手作業は続く!

 2、英語に文章の流れを示す接続詞が少ないことは、私もかねがね思って注意してきた。4、日本語では仮定表現にした方が分かりやすいケースが多いのも、チェスの翻訳をしていると山ほど出てくる(笑。

V さらに意欲のある人のために
 1 名文の徹底理解
 2 さまざまな英語
 3 多読のすすめ

 本章は全く構成が違い、1では長文例題の和訳を通してI〜IVのおさらいをしつつ、字面だけではない作者の真意に迫る。2、イギリスの下町訛りの例でベッカムが出てくる。彼がそうとは知らなかったので、今後注意して聞いてみよう。

あとがき

 本文中で触れているものも含めて有益な推薦文献が紹介されているので、その中から以下に特選しておく。
江川泰一郎『英文法解説』(実は座右の英文法書を持っていない)
佐々木高政『和文英訳の修業』(著者のバイブル。私も大学の英作文で使用)
中村保男『新編 英和翻訳表現辞典』(高いから未だに買ってない)
マーク・ピーターセン『日本人の英語』(これはすぐ読もう)


 著者の海外での失敗談も多く語られているが、それだけ昔の英語学習がたいへんだったのだ。今は英和辞典一つとってみても恵まれている。
 著者の文体で唯一気になったのは、「多いです」のような「形容詞+です」の多さだ。大正時代までは稚拙な表現とされてきたから、この世代の学者が頻用するのが解せない。私はあまり使わないようにしている。

英語の発想がよくわかる表現50
行方 昭夫
英語の発想がよくわかる表現50
岩波書店 2005-04
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おすすめ平均 star
star文法談義もたまには興味深い
star内容は面白いのだが…
star英語を教える立場の方々にもお薦めします

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posted by 水野優 at 13:52| Comment(4) | 英語/翻訳/文芸/科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
waterは水やろ?(え)
わたしも釣られた。 >into the theatre to see a Caesarian
マジでコンテクストは大事だと。
ついついわたしも使うことが多いです(笑)
Posted by 片瀬理奈 at 2007年06月10日 20:57
 「多いです」はどうもら抜きとかのようにリズムというか響きというか音楽的嗜好のせいか、なじみません。
 店員とかにも、「ないです」じゃなくて「ありません」や「ございません」と言ってほしいですし(あれ。
Posted by 水野優 at 2007年06月11日 00:56
こういう本は好きなので早速買いました。
Posted by Yamagishi at 2007年06月19日 20:49
 どもです。
 私が日本語表現でいちゃもんをつけてますが、著者は受験英語雑誌を長らく担当していて英文解釈の神様とまで言われた人です(汗。
Posted by 水野優 at 2007年06月20日 17:04
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