ホームページは「チェストランス」です。古い記事では図の駒が表示されません。

2007年06月08日

ファイン『チェス棋士の心理学』3 世界チャンピオン ボトビニク

 9) ミハイル・ボトビニク(1911-1995:執筆時存命)は、チェスが公式に創造的芸術と位置付けられた一文化圏(ソ連)から初めて誕生した世界チャンピオンである。彼は1911年にセントペテルスブルクで生まれた。13歳でルールを学ぶやいなや、目覚ましい才能を示す。偉大な経歴は1925年に始まった。同時対局でカパブランカを破ったのである。1927年には国内での最初の偉業を成し遂げた。16歳でソ連選手権の決勝まで進み、マコゴノフ(Makogonov)と5位タイで終了し、マスターの称号を獲得したのである。

 優れたチェスの能力があるにもかかわらず、ボトビニクは学究的な進路に留まり、電気技師になった。この職業における業績も注目に値する。

 1931年、20歳のときに、ボトビニクは初めてソ連選手権で優勝した。そしてもう一つの偉業が続く。アリョーヒン亡き後、新世界チャンピオンを決めるために1948年に5人で行われた大会で優勝したのである。以来2度タイトルを維持しているが、2回とも挑戦者を撃破するのではなく同ポイントでの防衛だった。

 ボトビニクは結婚して1人の子供をもうけた。大学で電気工学を実験し、教えている。ソビエトではチェスが尊重されているので、時と場所を選ばず好きなときにたやすくチェスができる。彼は、レーニンの命による勲章を授与されてきた。

 ロシア人は、長年に渡って、自分たちの社会の芸術家は他の国々でよく見られるような苦悩のプリマドンナになる必要はなく、社会的に正常な生活が送れることを証明しようと、確固たる努力を続けてきた。我々の知るかぎり、ボトビニクの生活もこのパターンに従ってきた。

 このような姿勢の文化圏では、チェスが個々人の精神的秩序(psychic economy)の中で果たす役割も違ったものになるに違いない。そこで、何ゆえチェスがロシアの国民的スポーツになったかを問うことが妥当と思われる。そうすれば、個々のロシア国民がチェスに没頭するようになった理由を深く追求する必要もなくなるからである。ボトビニクはただ単に周りの環境に順応しているだけなので、残る問題は生得の才能となる。

 ボトビニクの棋風は、現代の全ロシア人マスターを代表するものである。数年前に、彼は『ソビエト流派のチェス(Soviet school in chess)』(3)という記事でこの棋風に関して述べている。その最大の特徴は、いかなる状況が生じても動的に対処できることであり、序盤や終盤、攻撃や防御を重視しすぎる静的な「資本主義者」と対照を成す。こういう流儀は、孤立したソビエトの政治的感情や不測の事態にも対処する必要性が、直ちにチェス盤上に反映したものと考えられる。

 しかし、ボトビニクの記事には、他国人に強烈に映る他の特徴が描かれていない。彼の棋風(と他のロシア人のそれ)が、直接的攻撃よりも、反撃戦略(counter-offensive strategy)に基づいていることである。これも、個人の主導権が最小限に抑えられる社会構造の反映といえるだろう。

 ボトビニクが触れていない棋風のもう一つの特徴は、静的な防御的局面での対処の甘さである。これは、シュタイニッツやラスカーのようなマスターが秀でていた。この点でも、「生きるか死ぬか」という二者択一の政治的現実がチェス盤に反映したと見なせる。

 チェスに反映したボトビニクの他のマスターと異なる人格側面がまだあると思われるかもしれないが、それを明確にするだけの十分な情報がない。


 前回の予告で、次回「から」ボトビニク、と書いたが、これだけだった(汗。あと2回分総括が続いてこの「世界チャンピオン」の長い章は終わり。残りはもう少しである。
 「苦悩するプリマドンナ」のたとえは、マリア・カラスに代表されるように、私生活を持ち崩したケースを指しているのだろうが、そんな歌手ばかりじゃないはず。

One Hundred Selected Games
Mikhail Moiseevich Botvinnik
One Hundred Selected Games
Dover Pubns 1981-06
売り上げランキング : 89776

おすすめ平均 star
star屋上屋を架すようですが・・・
starチェス戦略を実戦を元に分かりやすく解説。初心者には不向き。

Amazonで詳しく見る
この記事へのコメント
私は"Half a Century of Chess"の方が好きです。スミスロフにしても、コルチノイにしても、老境になってからの自戦記の方が味わいを感じます。
Posted by maro_chronicon at 2007年06月09日 03:08
 実はボトビニクのゲーム集は持っていません(汗。エイベのように顔が大きく映ってる表紙があればそれにしたでしょう。棋士についての記事なので写真代わりに。
 単純に文章表現技術も増すでしょうしねえ。フィッシャーがもし書いたらどうだろう(笑。
Posted by 水野優 at 2007年06月09日 13:17
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。