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2007年06月04日

ファイン『定跡の背後にある考え方』4 dポーンの定跡 クイーンズ・ギャンビットその4

 この黒の新たな解放作戦を阻止するために、白は3つの変化から選択できる。しばらくはぐずぐずと無難な手を指して優れた展開の成果を何か期待する(「手得稼ぎ(the struggle for a tempo)」として知られる)か、クイーン側でマイノリティ攻撃をするためにセンターで交換するか、ポーンで c5としてクイーン側を抑え込むかである。

 ここで交換する変化は、他の手番のときほど良くない。いずれ後で別に検討する。9 c5は、通常 9...e5で頓挫させられる。

図22(再掲)
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
r1bq1rk1/pp1nbppp/2p1pn2/3p2B1/2PP4/2N1PN2/PPQ2PPP/2R1KB1R b K - 0 8
オーソドックス・ディフェンスの 8 Qc2後の局面

 残るは、手得稼ぎである。白は再び、黒がいずれ ...dxc4と指すからビショップを出すのを遅らせようと考える。しかも、最終的には黒キングの攻撃を意図しているかもしれない。そこで 9 a3(図22から 8...a6後)である。黒にはもう、手得になるいい手が 9...Re8しかなく、白が 10 h3と続けると、黒の手得策は尽きる。しかし 10 h3後、黒は以下のようになんとか自陣を解放できる。10...h6 11 Bh4 dxc4 12 Bxc4 b5 13 Ba2 c5 14 dxc5 Nxc5 15 Bb1 Ncd7...

 上記の 9 a3後は、9...b5も優れた選択肢である。10 c5はやはり 10...e5とされ、10 cxb5 cxb5なら黒陣は安泰で、cファイルとc4マスが黒ピースに恰好の足がかりとなる。

 さらに、図22での他の好防御には、ピンを外す 8...Ne4!がある。その後の単純化 9 Bxe7 Qxe7 10 Nxe4 (または 10 Bd3 f5) dxe4 11 Qxe4 Qb4+ は黒の望むところである。

 この変化を終える前に、劣った防御に対してどうなるかを見ておこう。最もよくある誤りは、cポーンが出遅れになることで、早々に致命的な駒損が生じる。 例えば、8...Re8 (図22から) 9 Bd3 dxc4 10 Bxc4 b5? 11 Bd3 a6? ここで 12 Ne5!でポーン得。なぜなら 12...Bb7 13 Nxd7 Qxd7 14 Bxf6から 15 Bxh7+.

 まとめると、上記の変化には、黒が解放する作戦が4種ある。

 (a) ...dxc4から ...Nd5としてキング側でマイナーピースを交換し、最終的に ...e5とする。あまり多くの交換をしなければ、白は、理論的には疑わしいが、わずかな優位を得る。
 (b) ...dxc4から ...b5, ...a6 最終的に ...c5とする。黒は、cポーンが出遅れにならないように注意を要する。ときには、...b6から ...Bb7 最後に ...c5も可能だが、白マスが弱くなる危険(白が Ba6とするかもしれない)が深刻である。この種の白の優位は図21Cで検討した。
 (c) ...a6から ...b5.
 (d) ...Ne4.

図21C(再掲)
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
勝る展開

図21D(再掲)
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
ピースでのキング側攻撃

 選択肢が豊富とはいえ、主変化 7...c6の代わりは推奨できない。例えば、7...b6(古い応手)は白に図21D型の強力な攻撃を許す。8 cxd5 exd5 9 Bd3 Bb7 10 0-0 c5 11 Qe2 c4 12 Bb1 a6 13 Ne5 b5 14 f4 Ne4 (絶対手)15 Bxe4 dxe4 16 Nxd7 Qxd7 17 Bxe7 Qxe7 18 f5! 黒の不自然に孤立させられたeポーンが、重大な弱点になる。優れた防御は、上記4つの作戦から1つを利用するしかない。

 7 Rc1に関しては膨大な研究と実践的調査が成されてきたが、未だ白有利を決定する証拠が出てこない。一方で、黒陣は常に窮屈で、せいぜいドローを望める程度である。ここでも、他の主要定跡(ルイ・ロペスと比較されたし)のように、白黒双方が改善を求めている。

図20(再掲)
  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
r1bq1rk1/pppnbppp/4pn2/3p2B1/2PP4/2N1PN2/PP3PPP/R2QKB1R w KQ - 0 7
オーソドックス・ディフェンスの 6...0-0後の局面

 白の他の(図20の 7 Rc1以外の)7手目には、長期間支持されたものはない。...c5−その適切なタイミングはケースバイケースだが−を阻止できるものがないからである。

 中でもいちばん指される 7 Qc2では、7...c5に対して適切な応手がない。黒に孤立したdポーンを背負わせる見えすいた狙いでは、8 cxd5 cxd4 9 Nxd4 Nxd5 10 Bxe7 Qxe7 (10...Nxe7も可能) 11 Nxd5 exd5 12 Bd3 Qb4+ 13 Qd2... 白はわずかに優勢だが勝つには不十分。7...c5には、緊張を維持する 8 Rd1もときどき見られる。8...h6 9 Bh4 Qa5 10 Bd3 cxd4 11 exd4 dxc4 12 Bxc4 Nb6 13 Bb3 白陣の方が開放的だが、長く続くかどうかは疑わしい。10...Nb6 11 cxd5 Nbxd5でも良好。

 その他も、考え方は前述したものと基本的に違わない。7 Bd3等(図20で)には、7...dxc4 8 Bxc4 c5からクイーン側ビショップをb7へ繰り出すべきである。すぐに 7...c5は、白のdポーンを孤立させるつもりなら、黒は強烈な攻撃を被りかねない。例えば、7 Bd3 c5 8 0-0 cxd4 9 exd4 dxc4 10 Bxc4 Nb6 11 Bb3! Bd7 12 Qd3 Nbd5 13 Ne5 Bc6 14 Rad1 黒陣は安泰ではない。


 the struggle for a tempoは用語というほどではない作戦だが、「手得への奮闘」等よりは引き締めたかったので「手得稼ぎ」にしたが、作戦のニュアンスとしては「手得執着」かもしれない(笑。

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この記事へのコメント
9.a3は嫌だったなあ。懐かしいです。
9.a3に対して9...dxc4から10...Nd5とした実戦例を調べたら、1946年から1996年まで引き分け無しの白11連勝でした。
それだけに、ラスカーがエイヴェに黒番で勝った1934年の一局は素晴らしいです。
Posted by maro_chronicon at 2007年06月05日 11:18
 嫌だったなあ、ということはけっこう実戦もされてたのですね。私はこのへんは訳で初めて知ることも多くてQG音痴ですわ(汗。
Posted by 水野優 at 2007年06月05日 15:23
 いや、CORONAという大昔のチェスコンピュータを相手にしてただけです。こんな格調高い定跡に9手も付き合ってくれる日本人なんて想像もつきません。
Posted by maro_chronicon at 2007年06月05日 21:14
 うわあ、コロナですか。昔コピーでもらったJCAの古い会報か何かで見たような気がします(笑。
Posted by 水野優 at 2007年06月06日 14:41
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