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2007年04月24日

ファイン『チェス棋士の心理学』3 世界チャンピオン ラスカーその3

 ラスカーの棋風は他のどのチャンピオンよりも定義しがたいので、固有の方法で行うことにする(アインシュタインが観察するように、ラスカーは特定できない)。2つの特徴が際立っている。戦術に長けていることと、明晰と秩序の追求である。

 戦術に長けていることが一人のチャンピオンだけに特有というと、奇妙に思えるかもしれない。すべてのチャンピオンがそうだと思うはずである。しかし、ラスカーの場合は、他のチャンピオンと違ってそれが棋風にまで高められていた。彼はいかなる独善的な観点も取らない。シュタイニッツは、しばしば勝つことより自分の理論を証明することに腐心した。カパブランカは単純化に躍起になり、アリョーヒンは攻撃にはやった。

 ラスカーは攻撃も防御もできた。たいてい防御を好んだが、序盤、中盤、終盤のすべてで一流だった。多才なチェス芸術家−実生活でも様々な分野で専門家たらんとする資質の持ち主だったのである。特定されるのを拒んだのは、チェス盤上では長所となった。徹底的な折衷主義(eclecticism)は、長期に渡って数多くの勝利をもたらしたからである。しかし、それは他の分野では不利に働いた。おそらくすべてのことが早期からチェス好きになるのに役立てばいいという願い。その選択は、同等に才能ある兄のそれとは対照的である。兄は、チェスを真剣に指すことをやめて医学へ邁進した。その兄にチェスを教わったらしいので、人格形成に兄弟間対立の強い影響があったことが十分推察される。

 ラスカーの棋風のもう一つの特徴は、明晰と秩序の追求である。最初の著書(2冊しか書かなかった)は『チェスの常識(Common Sense in Chess)』という(28)。哲学的著作『世界の理解(Das Begreifen der Welt)』の序文から以下に引用する。

 本書は万人向けに書かれている。予備知識は必要ない。しかし、ある種の読者層を意識して執筆した。本書は、今なお素直さ(simplicity)を失っていない教養ある読者に最も訴えるだろう。こだわりのある(complicated)読者に も受け入れられるなら、本書によって素直な気持ちを取りもどすことだろう。

 明晰さの追求は、ラスカーが性的衝動を否定するか「規制する」欲望と特に関連している。彼が結婚したとき、一気に夫、父、祖父になったと発言したことを思い起こそう。彼の名を冠した2つの定跡変化(ルイ・ロペスのエクスチェンジ・バリエーションと、クイーンズ・ギャンビット・ディクラインドのラスカー・ディフェンス)が、どちらも異例の早期にクイーンを交換することは、おそらく偶然の一致ではないだろう。すなわち、局面を明晰にするためにラスカーは女性を取り除いたのだ。


 スタントンの最後でも出てきたeclecticismを再考すると、やはり辞書的訳語の「折衷主義」の方が分かりやすいと判断し、スタントンのときの「不偏不党」もHPでは「折衷主義」に統一することにした。全文の統一には最後まで読む必要があるが、こういう連載訳では仕方ない(汗。
 著者引用部分のsimplicityとcomplicatedは単純さと複雑さでは何のことやら分からないので意訳したが、「素直」の対義語で complicatedに合致する言葉が難しい。知識や先入観でがんじがらめになっている読者のことだろう。
Common Sense in Chess
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