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2007年01月18日

ファイン『チェス棋士の心理学』3 世界チャンピオン スタントン後半

 スタントンの才能は、チェスと文芸批評の両面で頂点に達した。シェイクスピア学者としての名声は『ブリタニカ百科事典』に掲載されている(13)。 文芸批評において「スタントンはチェスで秀でることにもなった鋭敏で注意深い資質を示した」と。

 スタントンのシェイクスピアへの関心は、そのままチェスにも十分あてはまる。作家の中でも最高の王だけしかスタントンの批評対象にならなかった。シェイクスピアは彼の英雄だったのである。同百科事典で『シェイクスピアの疑われていない改悪テキスト(Unsuspected Corruptions of Shakespeare's Text)』が、スタントンの最後の論文として言及されている。彼は、キングを攻撃から守らねばならなかったのだ。

 スタントンの棋風を論じる前に、「棋風」によって表される意味を明らかにする必要がある。

 広範囲に渡る精神分析の文献は、芸術家の作品と神経症(neurotic conflicts)の間にある密接な関係を描き出すようになってきた。そこでチェスにも、ゲームの人格構造への織り交ぜられ方と棋士が採用するスタイル の両面に関与する、同様に意識されない傾向があると予想される。

 一見したところでは、チェスでどのように勝つかは重要ではないように思える。しかし、経験によれば、同じ強さ同士の間でもゲームの取り組み方にかなりの 違いがあることが、綿密な分析によって明らかになっている。レティは、『チェス盤の名人たち(Masters of the Chess Board)』でこれを最初に指摘し、かなり詳細に立証した(32)。実際、どの芸術家でも個性的な作風がある程度作品に染み渡るので、専門家にはこうい う絵画はドガだダ・ヴィンチだという風に分かる。名人の棋風にも高次元で区別される型があって、専門家は直ちに見分けられるのではないか。しかし、ここには大きな違いがあることに気付く。技術的な理由のために、チェス名人の独創性はある種のゲームでしか−すべてではない−表れない。例えば、現代流行してきた用語「グランドマスター・ドロー」は、重要な競技会で互いに危険を冒したくないグランドマスターたち(世界チェス連盟は20〜25人存在するとしている)による早期の合意ドローを意味する。同様に、実力に大差があれば勝ち方も定型化してくる。

 これらの条件を念頭に置くと、チェスの棋風はまず大まかに攻撃的と防御的に分けられる。ときどきチェスには、ロマン的(攻撃)と古典的(防御)流派があると言われる。そのような極端な分類以外にも、綿密な検証によるともっと微妙な要素がたくさん現れてくる。ボトビニクのような棋士は、攻撃と防御の双方ともに長じている。アリョーヒンのような棋士は、攻撃はうまいが防御は見劣りする。レシェフスキーのよな棋士は、防御に秀でるが攻撃はうまくない。通常、名人たちは自身の気質に合った特定の定跡に固執する。

 スタントンの棋風の際立った特徴は、その平静(placidity)で不偏不党(eclecticism)な様である。彼には輝かしいゲームは残っていない。それは、もっぱら勝利が相手のミスにつけ込んだものだったからである。当時大人気だった一か八かの(va banque)ギャンビットは使わなかった。この超保守主義は、盤外での無遠慮な攻撃性とはひじょうに対照的である。しかし、このような外見上の矛盾は全 く例外というわけではない。温厚で保守的な人物が、盤上に攻撃性を噴出させて派手なチェスを指したり、攻撃的な人物が穏やかなチェスを指したりすることで、均衡を保てるのである。


 neurotic conflictは定訳を確認できなかったが、神経症の一種だろう。レティの著作はこれを読むと欲しくなるが、もうHardinge Simpoleの高いの↓しか入手できなさそう。eclecticismは通常「折衷主義」だが文脈に合うように変えてみた。「〜主義」という訳は大袈裟でしっくり来ないことが多い。va banqueは仏語語源の独語。
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