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2007年01月01日

ファイン『定跡の背後にある考え方』2 eポーンの定跡 ギャンビット

ギャンビット
 
 当然ながら、すべてのギャンビットは、攻撃のために1つかそれ以上のポーン(まれにはピース)・サクリファイスを伴う。さらに、1 e4 e5から続いて生じるすべてのギャンビットには、共通する3つの重要な特徴があることが明らかになってきた。

 1.攻撃は黒陣の最大の弱点であるf7へ向けられる。
 2.黒が駒得に執着したければ、展開で後れを取らざるをえない。
 3.ギャンビットの最善の対処法は、サクリファイスに応じ(ギャンビットに応じなければ心理的効果をもたらすことも多いが、せいぜい互角にしかならない)、それから迅速な展開に専念し、必要なら駒得を返すことである。特に、黒はできるだけ早く ...d5を試みるべきである。

 3番の理由を一つ挙げておこう。実戦で、多くのマスターはひどく窮屈な局面を細心の注意をもって守らなければならなかった。定跡としては適切とされている局面であっても、実際の盤上で正確な応手を続けることはひじょうに難しいからである。

 多くの場合、白のポーンの代償となるのは強力なセンターである。代償が素速く効果的な展開だけの場合もある。しばしば(エヴァンス・ギャンビッ トで特に) Ba3で黒のキャスリングを妨害する。

 これらの基本的な考え方以外に、純粋に戦略的な考察からもギャンビットについてもう少し学べることがある。残るは入念な戦術だが、それぞれのギャンビットには、攻撃と防御の両面に役立つ固有の考え方がある。

 実戦では、白の攻撃が駒損を補うほど強力かどうかを問うことが目安となる。答えは通常、展開の状態に示されている。黒は、ピースが窮屈で全部が最後段に並んでいるようだと、そして特にキングが攻撃にさらされていると防御チャンスは乏しい。しかし、陣形が開放的なら、黒は勝つか少なくともドローにできるはずである。

 ギャンビットが大会で見られなくなってきたことは注目に値する。原因は、とがめられるようになったからである。逆に、現代の研究により多くの重要な点でギャンビットは強化されてきた。実戦で見かけることがなくなったほんとうの理由は、防御技術がアンデルセンやモーフィーの時代に比べては るかに進歩したからである。


 本章の最後はギャンビットがまとめられているが、今回はその概論部分である。最後の段落の最初の原文は、It may be noted that the gambits have not disappeared from tournament chess because they have been refuted.だが、意味的にこのnotがあるのは明らかに間違いだろう。二重否定が否定の強調となる破格の用法もないことはないが、ファインが使うとは思えない。
 私の誤解でnotは必要と判明した(汗→コメント

 昨年は本ブログの方向性が確立し、初めて1年フルに書き続けた年でもあり、購読や応援ありがとうございました。今年も原文換算で600ページ以上翻訳します。今後ともよろしくお願いします。
この記事へのコメント
はじめまして。いつも楽しみに読ませて頂
いてます。

> It may be noted that the gambits
> have not disappeared from tournament
> chess because they have been refuted.

このnotは間違いではないと思います。前後
の文章が分からないので何とも言えません
が、翻訳は、↓が正しいのではないかと推
測します。どうでしょうか。

このギャンビットが(マスターレベルで)
否定されたとしても、(中級者レベルの)
トーナメントでは消失されず今だに使われ
てることを付け加えておいた方がよいだろ
う。
Posted by けね at 2007年01月03日 20:43
 初めまして。コメントありがとうございます。

 前後が分からないので逆にあらゆる可能性を考えられたようですね。しかし、ファインはそういうことには触れていませんし、ノンフィクションでそこまで行間を読ませる分かりにくい表現をする文体なら、私はたぶん訳してないと思います。

 内容的には、次の文「実戦で見かけることがなくなった…」...they are practically never seen...とつながらないのが問題です。
 文法的には、その解釈ならbecauseがalthough等になるはずです。becauseがそういうニュアンスになるのは、because以下に否定や意味を限定する副詞がある場合でしょう。

 私も最後まで自分を疑ってみるべきとは思っていますが。
Posted by 水野優 at 2007年01月04日 00:39
「小学館プログレッシブ英和中辞典」第2版(1987年)の「because」のところに次のような意味が書いてあります。

2 ((否定語の支配を受けて))・・・であるからといって(・・・ない).(1) ((理由が妥当でないことを表して)):Don't look down upon them just because they are poor. 貧乏だからというだけで彼らを軽蔑してはいけない.

この意味で訳すと「否定されたからといって大会で指されなくなってきたというわけではない」というようになります。

この意味で使われる時上の例文のように「because」の前に「just」がつくのが普通ですが省略される場合もあります。

また「次の文」のところの「practically」についても「ほとんど;(・・・も)同然;やや誇張して言えば」という意味も出ていて、「practically」がこの意味で「never」を修飾している可能性もあると思います。
Posted by Yamagishi at 2007年01月04日 09:53
 Yamagishiさんのコメントを読んで(私もプログレッシブ愛用してました)原文を再び見るとあららアハ体験。(マスターと中級者の比較は別として)けねさんの訳が正しいことが分かりました(汗。becauseに関しては副詞うんぬん以前にrefuteに否定のニュアンスがあるので、「にもかかわらず」となるのでしょう。
 それよりも私が思い込みから抜け出せなかったのは、本書が書かれた1943年以降にも、まだブロンシュタインやスパスキーがキングズ・ギャンビットを指していたのは知っていても、この概論の論旨の流れからすると、ギャンビットがもう指されなくなったという結論を当然と思ったからです。

 ところがよく見ると、当然ではないからIt may be noted that....なんですね。防御技術が進歩したために時期尚早の攻撃は功を奏さなくなった。「しかし」未だにギャンビットは指されている、という流れを見失っていました。not disappearedがstill survived(remained)とかならさすがに気付いたでしょうが、それでは微妙なニュアンスが表現されませんね。流れから practicallyもご指摘の通りvirtuallyとほぼ同義となります。
 とにかく今回は完敗です(勝ち負けの問題ではないんですが)。例によって、有意義なコメントの流れを残すために記事本文はこのまま残し、HPは完全に修正します。今後、訳者解説でも書くことがあれば謝意を表したいと思います。ありがとうございました。

訳例:
 とがめられるようになってもギャンビットが大会から姿を消さなかったことは、特筆に値する。逆に、現代の研究により多くの重要な点でギャンビットは強化されてきた。ほとんど指されることがなくなったほんとうの理由は、防御技術がアンデルセンやモーフィーの時代に比べては るかに進歩したからである。
Posted by 水野優 at 2007年01月04日 13:40
ところで… なぜ私がそう思ったのかなんですが、全くの直感です。私は米国で学校教育を受けた為、平均的な日本人より多くの英文に目を通してます。しかし、英語の文法の方はよく分りません。日本人が、文法を気にすることなく日本語を使う感覚と同じです。

そこで思ったんですが、文法に無矛盾な英語の文体は学術論文、ビジネスの契約書、法律に関する文書とかいった類の文書に多く見受けられます。逆に言えばチェスの書物程度では、文法の正確さよりも分り易さを重視してあると思います。将棋や囲碁について書かれた和書を厳密に精査すれば、文法的な間違いは幾らでも発見されるのではないでしょうか。

ですから、notが誤字であるという意見も否定はできません。あくまでも、誤字ではない確立が高いと考えられるだけです。基本は文法に忠実に訳す。但し、ここまで細かい話はある程度、自らの直感に頼って翻訳する必要もあると私は考えますが、皆さんはどう思われますか?
Posted by けね at 2007年01月04日 14:59
ところで何故私がそう思ったのかなんですが、全くの直感です。私は米国で学校教育を受けた為、平均的な日本人より多くの英文に目を通してます。しかし、英語の文法の方はよく分りません。日本人が、文法を気にすることなく日本語を使う感覚と同じです。

そこで思ったんですが、文法に無矛盾な英語の文体は学術論文、ビジネスの契約書、法律に関する文書、とかいった類の文書に多く見受けられます。逆に言えばチェスの書物程度では、文法の正確さよりも分り易さを重視してあると思います。将棋や囲碁について書かれた和書を厳密に精査すれば、文法的な間違いは幾らでも発見されるのではないでしょうか。

ですから、notが誤字であるという意見も否定はできません。あくまでも、誤字ではない確立が高いと考えられるだけです。基本は文法に忠実に訳す。但し、ここまで細かい話はある程度、自らの直感に頼って翻訳する必要もあると私は考えますが、皆さんはどう思われますか?
Posted by けね at 2007年01月04日 15:03
 やはり類型文章を多く読んでこられたからなんでしょうね。私も日本人としてはかなり英文を読んだ方で、ネイティブに近い感覚が少しは付いてきたとは思っています。
 しかし、つじつまが合わないときには文法や辞書に頼るしかないでしょう。英語は格変化がほとんどないのに語順に関してルーズなところもあるし、文脈への依存度は高いですね。誤訳は文脈的におかしい場合がほとんどですし。

 今回のケースは、たまたま思い込み訳のこじつけがうまく行きそうに見える条件が重なった例外だったのでしょう。むしろ思いこんだ文脈を頼っての直観で間違えたわけで、その確認に文法を補助的に持ち出しただけです。普段から文法を逐一確認してたら時間が今の3倍はかかるかと(笑。
 日本で英語を覚えた人でも上達すれば読みや翻訳はネイティブに近づいていくと思いますよ。最近は英語を固有の言語を越えたイメージでとらえる勉強法がさかんで、私の学生時代とはずいぶん変わり、もっと若い頃からネイティブに近い学習法になってきつつあるようです。
Posted by 水野優 at 2007年01月05日 15:34
ご無沙汰してます。ちょっと間があいてて申し訳ないんですが、元の文の言わんとするところは、「ギャンビットはトーナメントで指されなくなった」で間違いないと思います。そうしないと後の文と継がらないですよね。この文のnotはdissapearedだけではなくbecause節のrefutedまでにかかっていると考えて、「ギャンピットは、否定されたからトーナメントから消えたのではない、ということに注意したほうがよい」(ギャンビットは否定されていない。トーナメントから消えたのには他に理由がある)とでも訳すべきではないでしょうか。
Posted by Kitti at 2007年01月29日 12:27
続けてすいません。探したらウチにもプログレッシブ(版は古いかも)ありました。そこにあった記述。「"She didn't marry him because she loved him." では『愛していればこそ、結婚しなかった』と『愛情があったから結婚したというわけではない(他に理由があった)』の二つの解釈ができる。そのいずれかは前後関係で決まる。前者の意味の場合、会話の場合はbecauseの前に休止を置き、書き言葉ではカンマを置く。」とあります。
Posted by Kitti at 2007年01月29日 22:03
 しばらくぶりです。
 becauseの解釈を掘り下げられたようで、ありがとうございます。
 これだけ離れたnotとbecauseに関連を求められるとはちょっと思えないのですが、2つ目のコメントのように結局は文脈が肝というのは納得できます。

 念のためこの原文を含む段落全文を記しておきます。ほんとうの理由が続いています。
It may be noted that the gambits have not disappeared from tournament chess because they have been refuted. On the contrary, modern research why they are practically never seen is that defensive technique has become far stronger than in the days of Anderssen and Morphy.
Posted by 水野優 at 2007年01月30日 14:47
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