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2006年12月06日

エドワード・ラスカー『チェス戦略』2部ゲーム47

ゲーム 47

白:タルタコーワ 黒:Asztalos

ダッチ(バード)・オープニング

1 f4 d5

 この白の展開を無視した初手をとがめるポーン・サクリファイス 1...e5が試みられてきた。2 fxe5 d6 3 exd6 Bxd6から、黒の戦力がすばやく機動的になる。しかし、この攻撃−フロム・ギャンビットと呼ばれる−は、最善の防御に対しては優勢になれないようである。タルタコーワ対シュピールマンのマッチ戦(ウィーン、1913年)では、白が以下のように勝った。

4 Nf3 g5 5 d4 g4 6 Ne5 Nc6 7 Nxc6 bxc6 8 g3 h5 9 Bg2 h4 10 Qd3 Bd7 11 Nc3 Rb8 12 0-0 hxg3 13 hxg3 c5 14 Bf4 Bxf4 15 Rxf4 Qg5 16 Ne4 Qh6 17 Nxc5 Nf6 18 Nxd7 Nxd7 19 Qe4+ Kd8 20 Rxf7 Re8 21 Qxg4 Qe3+ 22 Kf1 1-0

 1 d4に対して黒が ...f5とするのは、ダッチ・ディフェンスである。1 d4 f5から白が 2 e4とポーンをサクリファイスすることもでき、この場合はフロム・ギャンビットの黒よりもはるかに白は好都合である。すでにdポーンを進めている白は優位に向かっている。例えば、2 e4 fxe4 3 Nc3 Nf6 4 f3 または 4 Bg5から f3. 黒がfポーンを取ると、白の攻撃が強烈である。極端な実例が以下の短局に見られる。ペトログラードでの大学大会で二人の学生によって指された。4 f3 exf3 5 Nxf3 e6 6 Bg5 Be7 7 Bd3 0-0 8 0-0 b6 9 Ne5 Bb7 10 Bxf6 Bxf6 11 Bxh7+ Kxh7 12 Qh5+ Kg8 13 Ng6 Re8 14 Qh8+ Kf7 15 Ne5+ Ke7 16 Qxg7+!! Bxg7 17 Rf7+ Kd6 18 Nb5+ Kd5 19 c4+ Ke4 20 Re1#.

 4 f3に対する黒の最善手は 4...d5 (5 Bg5 Bf5)である。4 Bg5に対しては、まだ 4...d5とできない。白の Bxf6, Qh5+から Qxd5の狙いがあるからである。この場合はまず 4...c6としなければならないので、白は再び 5 f3として強力に攻撃できる。

 黒は 1 d4 f5後に 2 e4とされる攻撃を 1...e6を先に指すことで防ぎ、次に 2...f5としてダッチ・ディフェンスにすることができる。しかし、白の 2 e4でフレンチ・ディフェンスになることも覚悟する必要がある。

2 e3 e6 3 Nf3 c5 4 b3 Nc6 5 Bb5 Nf6

 白がc6で交換すれば黒にダブルポーンを作れるので、黒は 5...Bd7とすべきだった。ダブルポーンそれ自体は欠点ではないが、この局面では黒のクイーン側ビショップの出場所が得難いために深刻な問題となる。 白がe5に十分な戦力を利かせているために ...e5とできる見込みがないからである。

6 Bb2 Be7 7 0-0 0-0 8 Bxc6 bxc6 9 Ne5 Qc7 10 d3 a5

 黒がe5で交換する試み ...Nd7から ...f6になら、白はすぐに Qg4で対抗する。10...a5によって、黒はクイーン側で仕掛け始めた。白がキング側で攻勢なので全く正しい判断である。

11 Qe2

 白は 11 a4として黒のaポーンのさらなる前進を防ぐべきだった。これはいかなる場合でも理にかなった方針であり、それなら黒のルック向けにaファイルがこじ開けられることもなかった。

11... a4 12 Nd2 axb3

 時期尚早。この交換は、aファイルを抑え込めなければ功を奏さない。そのためには、まず ...Bb7から両ルックとクイーンでaファイルを支配する必要がある。本譜では、ルック交換後にクイーン側ビショップが足手まといとなり、終盤戦で黒は 不利になる。

  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
図165
r1b2rk1/2q1bppp/2p1pn2/2ppN3/5P2/1p1PP3/PBPNQ1PP/R4RK1 w - - 0 13

 12...axb3の代わりに黒が 12...a3 (13 Bc3? d4! 14 exd4 Nd5)でビショップを追い払っていたら、黒は強引に ...e5とできたが、長い目で見ると白にaポーンを取られるので、aファイルに白のパスポーンが残って終盤戦の脅威となる。例えば、12...a3 13 Bc1 Nd7 14 Nxd7 Bxd7 15 e4 f6 16 c4から Nb1.

13 axb3 Rxa1 14 Rxa1 Bb7 15 g4

 黒のピースがキング側から遮断されているので、白は自由に攻撃できる。

15... Ra8 16 Rxa8+ Bxa8 17 g5 Nd7 18 Ndf3 Nxe5 19 Bxe5 Qa5 20 c4

 黒がポーン・サクリファイス ...c4から ...c5でビショップを解放するのを防ぐため。

20... Bb7 21 Kf2 Kf8 22 h4 Ba6 23 h5 Bb7 24 h6 g6

 hポーンの前進によって白は黒のf6を弱体化し、ナイトをそこへ据えてhポーンを取るぞという脅威を常に与え続ける。

25 Kf1

 不要な手なのでおそらく時間切迫によるものだろう。正しいプランは、Qb2から Bc7か Bb8として Qh8+.

25... Qa3 26 Qb2

 終盤戦は明らかに白の勝勢である。ナイトをg4へ運んでf6やe5を脅かす。利き目は倍増する。

  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  
図166
5k2/1b2bp1p/2p1p1pP/2ppB1P1/2P2P2/qP1PPN2/1Q6/5K2 b - - 0 26

 黒はビショップがe7、キングはfポーンの近くから離れられない。白のキングがb6までやってきてcポーンを取り、自分のbポーンをクイーンにする。黒 は ...Bd8としても、この白キングの侵入を防げない。白がビショップでc5を攻撃(Bd6)すれば、黒のビショップは必ずe7へもどらねばならないからである。ゲームの残りは解説不要だろう。

26... Qxb2 27 Bxb2 Bd6 28 Nh2 Ke8 29 Ng4 Be7 30 Be5 Kd7 31 Ke2 Ke8 32 Kd2 Kd7 33 Kc2 Ke8 34 Kb2 Kd7 35 Ka3 Ke8 36 Ka4 Kd7 37 Bb8 Kc8 38 Ba7 Kd7 39 Bb6 d4 40 e4 Ke8 41 e5 Kd7 42 Nf2 1-0

 白が Ne4から Bxc5とするから。
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posted by 水野優 at 00:08| Comment(4) | Ed.Lasker『チェス戦略2』実戦(完) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この著者にとっては「ゲームの残りは解説不要」でしょうが私のレベルではまだまだ解説が必要です。以前に白番で 1.f4 ばかり指していた時がありました。「My Best Games of Chess: 1905-1930」(タルタコーワ著、Hardinge Simpole発行)にこの試合が掲載されていて何回か並べました。26...Qxb2 から最終手まで1ページ近くに渡って解説がついています。
Posted by Yamagishi at 2006年12月07日 20:21
 このゲームは初見でしたが、私もチェスを始めた頃 1 f4が何となく好きでした。Yamagishiさんが皇帝掲示板で 1 f4について詳しく書かれていたのはそういう訳だったんですね。
 ラスカーの「解説不要」は、長いのではしょった感じもします。この連載も、やっと次回で完結です。
Posted by 水野優 at 2006年12月08日 00:48
 書こうと思っていたのについうっかり肝心なことを書き漏らしていました。この試合にはエピソードがあってタルタコーワが最後に次のように書いていました。いろんなことがあるものです。
 『このポシショナルな勝利に対して私に特別賞が贈られた。しかし後になってこれが取り消された。理由は勝ち方が露骨過ぎるからというものであった(since my win was esteemed to be of too brutal a nature.)。』
Posted by Yamagishi at 2006年12月08日 15:55
 なるほど。まだこういう勝ち方はせこいと思われていた時代なんでしょうかねえ。たしかに25手目の緩手が物足りなくはありますが。
Posted by 水野優 at 2006年12月09日 10:58
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