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2006年10月26日

冨田恭彦『哲学の最前線』書評

 冨田恭彦哲学の最前線』(208ページ、'98年、講談社現代新書)を読んだ。amazonのお薦めに従っていると新書ばかりになるが、踏み込んで深く読みたい人や主義が今一つ定まらないので当分はこの調子が続くだろう。
 哲学というと古代ギリシャ、中世以後はドイツからフランスへという感じで、本書のアメリカ哲学は20世紀の話なのになじみがない。先々週書評した『20世紀言語学入門』と重なるのは、ネイティブアメリカンの言語研究等のフィールドワークによって発展してきたことである。

目次
はじめに
第一章 アメリカ哲学の中の「解釈学」
 根本的翻訳……好意の原理……誇張された差異……われわれの考えは基本的に正しい……先入見……観察の理論負荷性……共通の母語……整合性を求めて
 解説 その一

 各章の主要部分は、ハーバード大学で先生と学生が語り合うというフィクションの形を取っているのがおもしろい。クワインの「根本的翻訳」という概念とその弟子デイヴィドソンの「根本的解釈」を中心に話が進んでいく。解説は短くて物足りないが参考文献も紹介している。
 いちばん印象に残ったのは、ヴィトゲンシュタインの『哲学探究』に出てくるという「アヒル・ウサギ図」(顔の前後を逆に見なすとアヒルとウサギのいずれにも見える絵だ。純粋な観察というものがあり得ない一例となっているが、それ以前に線描が物の輪郭線を表しているという前提さえも一種の先入見だと思って しまった。

第二章 指示理論をめぐって
 オー・ボン・パン……事実と信念……クワインの全体論……観察文……固有名……クラスター説……伝統的指示理論の全体像……何が問題なのか……指示の因果説……パトナム説……サールの反論……ローティ
 解説 その二

 伝統的指示理論をくつがえしたかに見えた「指示の因果説」は、サールやローティの反論を待たずとも怪しいと分かる。指示の根拠を指示対象の本質に求めるなんてことは、アリストテレスがやらかしたことではなかったっけ(笑。

第三章 連帯への道
 久々の再開……世界の関わり……感覚与件論……自文化中心主義……アルキメデスの点……その都度の試み……エマソン・ホール……鏡的人間観……科学・再考……相対主義?……客観性と連帯
 解説 その三

 ローティによると科学も宗教の一種となる。この辺りの事情はクーンをも想起させる。信仰心のない私にとって、どうやらクラシック音楽等の古典芸術が絶対的な真善美としてその代役を果たしていることともつじつまが合う(笑。結局そういうものを持ちづらい今日の若者は、歴史的にもまれな不安を抱えているのだろう。

 本書だけではアメリカの20世紀哲学さえ軽く触れたに留まるが、こう何もかも疑ってしまう現代の哲学はあまりおもしろくない気がする。しかし、現代を 知ってから過去にさかのぼるのも一興と考え、本著者の他書とローティには少しあたってみようと思う。
哲学の最前線―ハーバードより愛をこめて
哲学の最前線―ハーバードより愛をこめて 冨田 恭彦


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posted by 水野優 at 00:18| Comment(0) | 英語/翻訳/文芸/科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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