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2006年09月14日

岡田暁生『西洋音楽史』書評

 岡田暁生の『西洋音楽史』(243ページ、'05年、中公新書)を読んだ。amazonのお薦めに入ってきて評価も良さそうなので借りてきたのだが、この名前どこかで見たことがある。奥付で確認できたが、阪大の美学研究室での先輩だった。
 2歳年長なだけだが、私が学士入学したときにはすでに博士課程だったと思う。30以上が珍しくない研究室ではそれだけ優秀だったということだ。院生と一緒にするゼミにはほとんど出てこない人だったので顔も覚えていないが、私のへなちょこ発表を聞かれずに済んだと思うとほっとする(汗。

目次
まえがき

 いわゆる「クラシック」とそれ以外の音楽の落差を埋めるという指針が注目される。新しい音楽に何一つ期待しない私などは「今を生きていない」とまで開き直っているが、それより古くて捕らえどころのない中世やルネサンスの音楽に関しては、どう聞かれるべきかが突破口になる。

第一章 謎めいた中世音楽

 エクリチュールゆえに後世に残ったとはいえ、平たく言えばお経や声明のようなものだから、宗教抜きには語れない。基本は三拍子で二拍子が神への冒涜として禁じられたことは、民俗音楽としてはありふれたことかもしれないのに、我々の抱く西洋音楽の合理性から考えると奇妙に思える。

第二章 ルネサンスと「音楽」の始まり

 音楽の美意識が芽ばえ実質的な作曲家が登場した時期なのに、やはり一般的にはあまり知られていない。全部で4箇所あるグールドへの言及の一つ目があ るが、彼がピアノで弾くイギリスのヴァージナル音楽くらいしか私もこの時代の音楽は知らない。

第三章 バロック−既視感と違和感

 既視感とはヴィヴァルディのような明るい分かりやすさ、違和感は時代遅れで難解なバッハのことである。そのバロックの中では「浮いている」バッハが最も偉大なことが、学者泣かせとさえ言われてきたという。たしかに、私もバッハを典型的なバロックの作曲家とは思っていない。

第四章 ウィーン古典派と啓蒙のユートピア

 まだ通奏低音に縛られていたバロックと違い、ポップスでは当たり前のメロディーが主役となる。演奏会と楽譜出版が作曲家の地位も向上させる。「チェス」という言葉がたとえで出てくるが「打つ」としているから引用しない(笑。ベートーヴェンの作風を市民階層の労働に結びつける発想がおもしろい。

第五章 ロマン派音楽の偉大さと矛盾

 著者の専門が19世紀なので最も紙数も多い章である。雑誌や批評が「クラシック」を決める時代。古典のプレッシャーにつぶされ、現代より未来へ向かって書く宿命を作曲家が背負い始めた時代。クラシックとポピュラーの対立図式が生まれた時代でもある。
 音楽の後進国ドイツがバッハ〜ベートーヴェンを担ぎ上げて…という話は以前書評した『反音楽史』に詳しいが、本著者はそこになかったハンスリックを引用どころか再評価までしているのでうれしくなった。私のゼミ発表では、「今どきハンスリックではねえ」と一蹴されてしまったから(汗。

第六章 爛熟と崩壊−世紀転換期から第一次世界大戦へ

 現代のコンサートレパートリーが扱う最後のそして最もエキサイティングな時代である。マーラーの交響曲=オラトリオとはよく言われるが、神なき時代の私にとっての神がこの音楽だという気にさせられた。交響曲第3番終楽章の解説にひどく共感したからだ。
 コラール風の主題が20分以上もかけて上り詰めていくが、決して力業ではないクライマックスは聴き手をさらに内面の世界へ引き込んでゆく。私は、ベー トーヴェンの第九終楽章で「歓喜に寄す」のメロが低音楽器から徐々に他へ受け継がれるときにも同様の気持ちになるが、そこから先はとても神聖とは思えない。

第七章 二十世紀に何が起きたのか

 パクリのストラヴィンスキーと究極のロマンティストのシェーンベルクという対比がおもしろい。芸術音楽はサブカルチャーへ成り下がる。アーノンクールの「18世紀までの人々は現代音楽しか聴かず、19世紀には過去の音楽も聴かれ始め、20世紀には過去の音楽しか聴かなくなった」とは言い得て妙だ。
 ポピュラー音楽に関してはそこへ至る流れを示すに留まる。やや保守的とはいえポップスこそロマン派音楽の継承者とする著者にも同感。20世紀後半にはモダンジャズが最も芸術的に発展したと言われたので、ちょっとスターデジオで聴いてみる気になった。
西洋音楽史―「クラシック」の黄昏
西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 岡田 暁生


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posted by 水野優 at 00:00| Comment(0) | Classical Music | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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