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2011年08月01日

エアーズ著 山形訳『その数学が戦略を決める』書評

 『電子書籍の衝撃』を読ん でから著者の佐々木俊尚をツ イッターでフォローしている。彼は文庫化さ れた本を良く紹介するが、本書もその一つだ。文庫化は評価の定着と長期的な有用性の証と考えられるし、映画等のエンタメ分野でも数学的手法が使われていると 知って読んでみた。

 著者の本職は法律だが、自らも絶対計算に手を染める。山 形浩生の訳も一度読んでみたいと思っていた。出 版翻訳だけでも食えるほど出しているのに、本職は違うらしい。リスク分散かもしれない。アメリカの本家テレビ番組「クイズ・ミ リオネア」のことを「大金持ちになりたい人集まれ」などと訳しているのがおもしろいが、忙しくて日本版ミリオネアの存在を知らないのかもしれない。解説で な ぜかみのもんたが出てくるのに。 そう言えば、『ボ ビー・フィッシャー 魂の60局』でちぇすのすけさんに指摘された「失われた環」は、どうせ知らない人にはわからないんだか ら、「ミッシング・リンク」で良かったと今さら思った。山形訳は「数学屋」のような砕けた表現が私と近くて好感が持てるが、自然な日本語かどうかでは気に なる箇所が多い。第一線のプロでも得てしてこういうものだ。頻出する「〜の聖杯」という表現は、日本人には不親切だろう。私にはわからない。

 計量経済学というと私が最 初に入った大学で、数式ばかりで文系学生にはさっぱりと思った記憶しかないが、この絶対計算、回帰分析等の手法が意外なほど身近に多用されていることが、 本書では豊富な実例でわかりやすく語られている。各章の終わりにまとめがあるので、忙しい人はそこから興味ある実例だけをたどるのもいいだろう。
 目当てのエンタメに関して は、どういう脚本が当たるかを高確率で当てる手法があるらしいが、その内容は企業秘密だ。現場の反発は当然激しいが、芸術もビジネスの一つにすぎない。私もフリー になって自分で意志決定するようになってからは、厳密には計算せずとも同じようなことをやっていることに気づかされた。

 ありきたりだが、チェスが出てくる部分を引用しておく。
p22
 チェスのグランドマスターであるゲーリー・カスパロフが、ディープ・ブルーコンピュータに負けたのは、IBMのソフトウェアのほうが賢かったからだと思 われがちだ。でもその「ソフトウェア」というのは実は、各手の力を順位づける巨大データベースなのだ。コンピュータの速度は重要だが、決定的な役割の一部 を果たしたのは、コンピュータが七〇万に及ぶグランドマスターのチェス対局データベースにアクセスできたということだ。カスパロフの直感は、データベース による意志決定に負けたのだ。
p135
 …カスパロフ対IBMのコンピュータのチェス王座決定戦のようなものだ。…

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posted by 水野優 at 16:14| Comment(0) | 英語/翻訳/文芸/科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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