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2010年05月19日

佐々木俊尚『電子書籍の衝撃』書評

 予告通り電子出版の話だが、いつ以来か分からないほど久し振りに新書を新品で買った。中古本どころか図書館の予約待ちすら待てないほどamazonへの 期待が大きかったからである。著者はメディア関連の類書をいくつか出しており、個人出版に関して1章を割いている本書に決めるのには時間は掛からなかっ た。

 iPad対キンドルの話から始まる。アップルとamazonの出血覚悟の熾烈なシェア争いの内幕が語られる。著者は全般にわたり書籍より電子化が先行し た音楽業界モデルをたびたび引用する。CDというパッケージを買わずにiTuneでDLして聴取する形態を音楽のアンビエント化と呼んでいる。私のスター デジオを聴くだけで済ます形態も放送メディアとはいえ似たようなものだ。まだ100枚以上CDは持っているが、ケースとジャケットは捨てて盤だけファイリ ングしている。それもいずれHDDとかに入ったら処分するだろう。
 本が多すぎて床が抜ける心配をしている人に比べたら全然問題ない私でも、紙の本は極力減らしたいと思っている。本は紙の匂いや感触を味わいながら読むも のだと言い張る輩は未だに原稿を手書きしているご老体か、本の内容(文字や図表)以外のパッケージとしての付加価値に踊らされているとしか思えない。実体 がないと所有した気分になれないのだろう。ところが、所有したとたんに映像や音楽は再生しなくなるものだ(笑)。私がスターデジオをよほどのもの以外あま り録音しなくなったのは、「また放送されるだろう。録音してもそれまでに再生しないだろうし」と思うようになったからで、さらにアンビエント化している。 ちょっと特殊な例だが。

 とはいえ、今まで国内的に電子書籍が全然普及しなかった体質でもあり、すでに紙で出ているベストセラー等が電子化されなければiPadも中途半端な端末 に終わってしまう。本書は、悪名高い取次&再販価格維持制度とその歴史的経緯までも振り返って批判するが、電子出版に関してはあくまで強気で明るい未来を 提示している。しかし、今利用されている主な電子書籍が携帯電話でのコミックスという現状には正直あまり希望が持てない。携帯が不要でPCしか使わない私 には、携帯で何でも間に合わせたいという感覚が想像できないからでもある。
 電子出版の普及はともかく、米amazonでは元手0の高印税個人出版を受け付けており、本書第3章で詳説されているのでとにかく自分の本を出したい人 は必読だ。このサービスはまだ英語以外にドイツ語フランス語にしか対応しておらず、最高印税率70%はamazon側の様々な条件をクリアした場合のみな のでデフォの35%と考えた方がいい。今発売中の『週刊アスキー』にも電子出版の特集があり、日本語テキストの画像化で日本語非対応の壁を破って米 amazonから和書を電子出版している人が載っている。オンデマンドで24時間以内に印刷製本してくれるのも魅力だが、この場合は日本からの注文に対し て送料約12ドルと1週間ほどの時間がかかってしまう。

 メジャー翻訳出版できるシステム(版権取りは個人で難しく、アドバンス等の初期費用がかかるので、著作権切れか十年留保に該当する原書)に関してまとめ てみた。メジャーの定義はISBNコード付きとする(書店に並ぶか否かは問わない)。

出版形態
印税
長所
短所
部数と利益
既存出版社から
7〜15%
書店配本。編集以降の作業をお任せ。
低印税。やり取りが面倒。電子化対応不明。
2千部
28〜60万円
個人出版社として
30%
少しは(?)書店配本され、直販も電子化もできる。
既存出版社ほど宣伝にならないわりに経費がかかる。編集まで自前。売れ ないと自腹。 1千部
60万円
米amazon
35%
amazonで電子も紙も買える。元手(リスク)なし。
amazon独占(他で売れない)。書店配本なし。
1千部
70万円
電子出版社から
〜50%
ある程度の宣伝効果。
amazonより元手がかかる。紙も出すなら経費高額。
1千部
40万円
自費出版
85%
最高印税。マイペース。
書店配本なし。印刷製本代が先にかかる。1冊ずつ発送作業。売れないと 自腹。
1千部
70万円
 紙1部2000円、電子1部1000円とする。ただし自費出版は紙1部1000円。

 だいたい比較できるように5つの場合を考えてみた。売れる部数予測がいちばん難しいが、'70年までに初出した200ページ程度のチェス書で、まだ紙で 買いたい人が多いだろうから電子出版はおまけのように考えている。同出版社からでも通常紙だと印税が下がるが、単価が電子より高い分同じと概算していい。

 既存出版社からの部数を最大にしているのは書店配本や宣伝効果というより図書館からの購入を想定している。うちの近所でつぶれた書店主が「学校への納入 だけ続ける」と言ってたくらい。『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の世界だ。印税に幅はあるが期待しない方がいい。
 個人出版社は自分で出版社を立ち上げた場合で、私もあまり分かっていないが、書店配本はほとんど期待できないだろう。印税30%は編集が自腹になって上 がった分だけ。装丁で見劣りしなくても図書館に入らない分売れない。図書館にないから買ってもらえるかもしれないが。これなら、自分で編集までして大手か らリスク負担で委託販売する方がいい(小笠さんがこれに近い)。
 米amazonは、リスク0、紙でも元手なしで売れ、印税もそこそこだが、現状ではアメリカとの取引になるのでまだ静観するしかないと思う。
 電子出版社は大手ならある程度の宣伝効果があるだろうが、紙の場合取次を通すからか高すぎる。電子出版の初期費用も数万円くらい取られるようだ。総じて メリットは少ない。
 自費出版は面倒そうで数年前にだめと思ったが、紙で売るならまだ十分ありだ。印税に入らない分は印刷製本の20万円(A5, p.200, 1000部)と発送費10万円で、利益はamazonと同じになった。1冊ずつの発送作業がいちばんたいへんだが、コンビニまでメール便を出しに行くくら いは健康にいいかもしれない(笑)。

 電子出版うんぬんと言いながら、自分が売る方としてはどちらでもいい。電子出版がきっかけになって本を手軽に出す権利がマスから個人へ下りてくることが 重要なのだ。月6,7万円の生活費の私が十分出版翻訳で食っていけるし、他につまらない仕事をする時間をもっと創造的活動に使えるようにからだ。

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posted by 水野優 at 15:03| Comment(0) | 英語/翻訳/文芸/科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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