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2010年05月06日

Sam Collins『Understanding the Chess Openings』レビュー

 定跡本の翻訳または執筆は結局没にしたが、すでにこの本も試訳していたので書評として上げておく。著者はアイルランドのIMで先年来日したときは小笠さ んがトーナメントに招いて案内した。そういう縁もあったので翻訳できればベストだったのだが。
 本書は著者1冊目の白レパートリーブックを基にした総合定跡書だが、全体的に著者の好みが色濃く出ている。各定跡の概説では『ここからはじめるチェス』 のような局面図内の矢印表示があって分かりやすいが、定跡を全部扱って200ページ余りという分量は中途半端かもしれない。最近の傾向は、白だけとか1 e4だけで1冊が主流だ。

以下の原文は http://www.gambitbooks.com/pdfs/28XSamp.pdf

スコッチ・ゲーム

1 e4 e5 2 Nf3 Nc6 3 d4(図)

図(黒番)

 ガルリ・カスパロフは、スコッチ・ゲームのことを「厳密な意味で唯一ルイ・ロペスと肩を並べられる定跡」と表現した。こいうことに精通している彼の意見 は傾聴に値する。白はいきなりd4へ狙いを定めて、黒の中央の拠点を清算し、ピースのためにさらなるラインを開く。
 この前進を 3 c3で有利に準備しようとするのがポンジアニ・オープニングである。以下、3...Nf6 4 d4 Nxe4 5 d5 Ne7 6 Nxe5 Ng6 7 Qd4 Qe7 8 Qxe4 Qxe5 9 Qxe5+ Nxe5 10 Bf4 Bd6! 黒に危険のない終盤戦になる。
 
 3...exd4
 黒は白のポーンを取るしかない。
 3...d6はフィリドール・ディフェンスでナイトがc6へ出す悪形になる。
 4 Nxd4(図)
 
図(黒番)

 4 c3 ゲーリング・ギャンビットは見た目ほどエキサイティングではない。黒は 4...d5で直ちに互角にできるし、挑戦を受けて 4...dxc3 5 Nxc3 Bb4 6 Bc4 d6 7 Qb3 Qe7なら白にポーン損の見返りはあるが、それ以上の有利さはない。
 4...Nf6
 e4のポーンを狙っているので、白は何か対応を迫られる。
 4...Bc5 5 Be3 Qf6 6 c3 (6 Nb5は近年の世界チャンピオン、ポノマリオフによって指されたが、それ以外の者には健康被害警告表示が必要な手だ。6...Bxe3 7 fxe3後、ダブルeポーンは多くのマスを支配しているが醜いことには変わりなく、7...Qh4+ 8 g3以下、黒がクイーンをd8へ退却するか、8...Qxe4 9 Nxc7+ Kd8 10 Nxa8 Qxh1で全く形勢不明)6...Nge7はもう一つの主変化で、迅速に展開して ...d5を準備する。7 Bc4 Ne5!? (7...b6 8 0-0 Bb7で黒がクイーン側キャスリングを準備するのも優れた作戦) 8 Be2 Qg6後、白がe4ポーンを捨てる。例えば、9 0-0 d6 10 f4 Qxe4 11 Bf2 Bxd4 12 cxd4 N5g6 13 g3 Bh3 14 Bf3 Qf5 15 Re1 d5 16 Qb3 0-0 17 Nc3 c6 18 Qxb7 Rfb8 19 Qc7 Qf6は互角。
 4...Bb4+!? 5 c3 Bc5も、トップレベルでは人気がある。黒が ...Qf6に頼らず、白の c3を誘って白のナイトがc3マスへ自然に繰り出せないようにする。
 4...Qh4?!は極めて危険である。白はすぐに 5 Nb5とできるが、5 Nc3 Bb4 6 Nb5の方がさらに良い。6...Qe4+ 7 Be2なら白には十分な代償がある。
 5 Nxc6
 5 Nc3 Bb4はスコッチ・フォー・ナイツに移行する。
 5...bxc6(図)
 
図(白番)
 
 もちろん、5...dxc6? 6 Qxd8+ Kxd8は良くない。黒には、終盤戦になったときのポーンの数的不利(キング側で白4対黒3)の代償がない。
 黒の頼みの綱は、いずれ明らかになるが、すべてのピースを迅速に適切なマスへ展開できることである。一方、白は陣形的な優勢を保っている。したがって、 黒の課題は的を射た手を続けること、白は序盤を抜けるまで優勢を長期的に保つことである。
 6 e5
 ナイトが攻撃されたが落ち着ける逃げ場所がない。黒は消極性に陥らないよう気を付けねばならない。
 6...Qe7!(図)
 
図(白番)

 7 Qe2
 5手目の説明からも分かるように、双方が完全に展開すれば明らかに白の優勢となる。だから、黒は白の展開を妨げるためにこういう波乱含みの作戦を採った のである。黒自身の展開も同じく邪魔をされているとはいえ、(...Nd5後の)黒のクイーンには、e5ポーンを守ることに縛られている白のクイーンより 多くの選択肢がある。私は ...Qe7が局面の要求を満たしているかのように紹介してきたが、実際のところ定跡の文脈に沿った言い方をすれば、悪くて誤った手、良くて結果次第の 手となろう。6...Qe7を指し始めた棋士たちは、6...Nd5後に黒が完敗して他の手を探す必要があったからであり、この手を見つけて役立つことに 気付いたのだ。
 7...Nd5 8 c4(図)
 
図(黒番)

 ナイトをすぐに追い払うことは妥当で、黒に撤退を強いている。黒はナイトかビショップの位置が不適切になりかねない。
 8...Ba6
 8...Nb6も可能で、黒がaファイルから侵攻する(...a5-a4)か、迅速な展開を狙う(...Ba6, ...Qe6, ...Bb4)。
 9 b3(図)
 
図(黒番)

 白は 9 g3も可能だが、すぐにcポーンを守る方が柔軟だと思う。
 9...g5!
 これは、序盤の好手の発見方法に関するまたとない好例である。黒がこうするのは、ビショップを展開させるためのもう一つの手 9...g6には 10 f4!とされ、白に Qf2から Ba3というやっかいな手順を準備されるからである。そこで、黒は展開を進めながらもf4の支配を強める必要があると悟り、この美しい手に思い至った のだ。代表的な指し手は以下のように続く。
 10 g3 Bg7 11 Bb2 0-0 12 Bg2 Rae8 13 0-0 Bxe5!? 14 Qxe5 Qxe5 15 Bxe5 Rxe5 16 cxd5 Bxf1 17 Kxf1 cxd5
 この終盤戦の戦力は流動的な均衡を保っている。白は、黒の2つのルークを抑制できれば有利だが、それらが活動的になると壊滅する。


 The Mammoth Book of Chessの訳を猛スピード?で進めていて、今180/570ページくらい終わったところだ。しかし、2冊目以降の話をいくらしても、まだ1冊目が出てい ないというオオカミ中年状況に変わりはない。最悪1年掛かったという話もあるくらいの版権取りをもっと早めに始めるわけにはいかないのだろうか。
 今年は真の意味での電子出版元年という感じだが、いい本を読んだので次にレビューしたい。

Understanding The Chess Openings: How Modern Openings Are Played, A Comprehensive Guide
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posted by 水野優 at 11:34| Comment(0) | チェス(洋書評 序盤) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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