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2010年02月26日

P.v.d.Sterren『Fundamental Chess Openings』レビュー

 次のチェス技法書翻訳はThe Mammoth Book of Chessにして訳も進めていると書いたが、その後チェス小説(いずれ紹介)に浮気をし、今は本書の訳にとりかかっている。小説が連続するのもなんだし、 ついに究極の総合定跡書を見つけたからでもある。
 今20ページほどまで訳した。2巻に分けて出版するなら 1 d4は夏に出せる。著者のオランダ人ながら英語らしい英語は訳しがいがあるが、一つだけ強いて心配な部分は、正直なところエンターテイメント性が希薄なと ころだ。その辺も含めて皆さんの意見を求む。

【書名、著者】
"Fundamental Chess Openings" Paul van der Sterren 2009/11 Gambit p.480
 amazonではp.448となっているが、正味p.480.
 
【概要】
 本書は中盤まで(せいぜい20手目まで)しか扱わず、定跡の歴史的進歩とその根底にある考え方の説明に絞っている。例えば、シシリアンに60ページほど 割いているが、Starting Outシリーズのシシリアン全般本が300ページほどだが各変化の代表局を終局まで載せているとしたら、定跡部分の解説量は本書と大差ないのではないか。 つまり、本書は個別定跡本の集大成に匹敵するのだ!
 
【推薦理由】
 Standard Chess Openingsを候補としたとき、どの定跡の変化も1局を最後まで載せることで紙面を食い、レアな定跡まで扱う反面メインラインの説明が手薄なことを指 摘した。それでも700ページ以上あれば大丈夫かと思った。
 本書はFCOの略称でMCOやNCOのような記号中心の定跡書と思っていたら、米amazonのレビューでFineのThe Ideas Behind The Chess Openingsの現代版等の賛辞を見て総合定跡書の候補に決め、amazonから届くのも待てずにGambit社HPに公開されているスラブ・ディフェ ンスの最初の部分を以下に訳した。
 枝分かれを羅列しただけの定跡書の弊害が叫ばれるようになって久しく、その類は姿を消した。しかし、選択肢の少ない日本では、入門書を読み終わったばか りの初心者が路頭に迷わないためにもある程度の変化枝分かれによる整然とした分類も必要である。なおかつ各定跡の基本概念と解説が充実した本書は、読み 物、(読み終わった後の)参考書という条件を満たしている。
 
【目次】
記号&記譜法
序文
初手
 
1 d4
クイーンズ・ギャンビット・ディクラインド
スラブ&セミ=スラブ・ディフェンス
クイーンズ・ギャンビット・アクセプテッド
その他の 1 d4 d5定跡
ニムゾ=インディアン・ディフェンス
クイーンズ・インディアン・ディフェンス
ボゴ=インディアン・ディフェンス
キングズ・インディアン・ディフェンス
グリュンフェルト・デフェンス
ベノニ&ベンコ
その他の 1 d4 Nf6定跡
ダッチ・ディフェンス
その他の 1 d4定跡

翼定跡
シンメトリカル・イングリッシュ
リバースト・シシリアン
1 c4 Nf6&その他のイングリッシュ
レティ・オープニング
その他の翼定跡

1 e4
ルイ・ロペス
イタリアン・ゲーム
スコッチ・オープニング
フォー・ナイツ・ゲーム
ペトロフ・ディフェンス
キングズ・ギャンビット
その他の 1 e4 e5定跡
フレンチ・ディフェンス
カロ=カン・ディフェンス
シシリアン・ディフェンス
アリョーヒン・ディフェンス
ピルツ・ディフェンス
その他の 1 e4定跡

定跡名索引
変化名索引

【訳例】原文は、http://www.gambitbooks.com/pdfs/132Samp.pdf
スラブ&セミ=スラブ・ディフェンス

1 d4 d5
2 c4 c6(図)

図(白番)

 クイーンズ・ギャンビット・ディクラインドほど古くないとはいえ、スラブ・ディフェンスも優れた実績を残した古典定跡と見なされている。よく知られる きっかけになったのは、アリョーヒン対エイヴェの世界選手権が行われた1935年と1937年に遡り、両棋士が互いに採用することで広く検証された。以 来、1 d4定跡の中でも新しい変化が生まれては改良され続け、最も重要な定跡の一つと見なされている。
 クイーンズ・ギャンビット・ディクラインドのように、黒はd5をしっかり守り続けるが、重要な違いは、クイーン側ビショップを攻撃的なf5やg4のマス へ繰り出せるように、c8-h3斜線を開いたままにしておくことである。もう一点は、2...c6とした時点で ...dxc4と取る狙いが、2...e6後よりも白陣への脅威になることである。c4の黒ポーンはすぐに ...b5で守れるし、そのb5のポーンはc6のポーンに守られているからだ。実際、2...c6は白に根本的な決断を強いる。2...e6に対するとき と比べ、白は自然な展開の中でもより控え目な手(Nf3, Nc3や Bf4か Bg5といった手は、クイーンズ・ギャンビット・ディクラインドの場合ほど自明ではない)を指すか、黒がポーンを捨てるかもしれないかなり激しい変化に立 ち向かう覚悟が必要となる。
 ...dxc4の可能性を消す最も根本的な方法は 3 cxd5 エクスチェンジ変化だが、スラブの主変化は 3 Nf3か 3 Nc3で始まる。この2つの「自然な展開手」は手順前後で同じ局面になることが多いが、もちろん重要な違いもある。

エクスチェンジ変化

3 cxd5 cxd5(図)

図(白番)

 スラブのエクスチェンジ変化最大の悲劇は、過去にトーナメントで事前に仕組んだドローにするために最も使われたという事実で評判を汚されたことである。
 無数のゲームが、4 Nc3 Nc6 5 Nf3 Nf6 6 Bf4 Bf5 7 e3 e6 8 Bd3 Bxd3 9 Qxd3 Bd6 10 Bxd6 Qxd6 11 0-0 0-0という手順で「対戦され」、つまらない手順がもう数手続き、20手未満でドローにされた。
 とはいえ、d5での交換は全く理にかなった極めてまじめな指し手である。その戦略は、ボトヴィニク、ポルティッシュ、カスパロフら偉大なチャンピオンに 使われて成功を収めてきた! 完全に対称形の局面では先手の有利が最大の脅威になりうるという仮定に基づいている。
4 Nc3 Nf6
 エクスチェンジ変化のやや困惑させられる特徴は、その理論が次の図に示した局面に至るまでは実質的に始まらないことである。しかし、いかにしてこの最善 の局面へたどり着くかに関しては、残念ながら問われない。
 4...Nf6が 4...Nc6(5 Bf4 e5!?のような攻撃的狙いを含む)よりはるかに多く指されるのは確かだが、4...Nc6が誤りか少なくとも不正確だと証明できるのは 5 e4だけで、このことはほとんど知られていない! 5...dxe4 6 d5はやや危なそうなので、5...Nf6が賢明だろう。これは、白が 6 exd5 Nxd5 7 Nf3とすればカロ=カンのパノフ攻撃(ページ参照)から生じる局面になるが、6 e5 Ne4 7 Bd3等とすれば全く未知の領域に突入する。
 4...e5!?だとウィナウアー・カウンター=ギャンビット(ページ参照)に移行し、戦略の青写真が全く変わる。白はもちろん、4 Nf3とするか、d5での交換前に 3 Nf3 Nf6とすることでこの可能性を避けられる。
5 Nf3
 この時点で、曖昧ながらも理論が興味深くなり始める。5 Nf3と 5 Bf4は同じくらい指されるが、5 Bf4の方が少し柔軟性があると考えられている。とはいえ、5 Bf4 Nc6 6 e3後の状況は 5 Nf3 Nc6 6 Bf4後と大差ない。以下 6...Bf5と 6...e6が伝統的で、6...a6が厚かましい新手である。
5... Nc6
6 Bf4(図)

図(黒番)

 スラブのエクスチェンジ変化が始まる最重要地点である。ここで黒には4つの手があり、それぞれが対戦に独自性を醸し出す。
 6...Bf5は最も伝統的な選択肢で、対照性を維持しながら白に「有利さ」の価値を見せてみろと迫る。この目的のためには 7 e3 e6 8 Bb5が好選択である。白は 9 Ne5を狙っており、いずれ Bxc6 bxc6として少なくとも黒に出遅れcポーンを背負わせたい。黒は領地を{ある程度/傍点}譲るしかなく、8...Nd7が一般的に最善の防御と見なされ ている。主変化は以下、9 Qa4 Rc8 10 0-0 a6 11 Bxc6 Rxc6 12 Rfc1 白が展開でわずかに勝っている。しかし、これをもっと確実な優位に転換することはとても難しい。
 もう一つの長らく主変化とされているのは 6...e6で、通常やや消極的と見なされがちだが、かなり信頼できる。7 e3 Bd6 (7...Be7も好手)後、白は単純にd6で交換するか、8 Bg3として局面の緊張をもう少し維持できる。この手には、黒のキング側キャスリングが良策にならないようにする狙いがある。例えば、8...0-0 9 Bd3から 10 Ne5は黒にやっかいとなる。8...Bxg3 9 hxg3 Qd6とし、キャスリングを遅らせて白の Ne5を阻止するのが堅実である。確かにこうすれば、黒はどこかで ...e5としてセンターで主導権を取れる。
 白のクイーン側での考えられるいかなる攻撃の機先をも制そうとする、はるか最近に生み出された手は 6...a6(図)である。
 
図(白番)

 この付加価値は ...Bg4の可能性を保留していることで、白が 7 e3と続ければそれが絶妙な応手となる。すぐに 6...Bg4とすると 7 Ne5とされて良くないが、白が(6...a6 7 e3 Bg4後のように)そうしないなら、このクイーン側ビショップの積極的な展開は全く問題ない。実際、多くの棋士が 6...a6に対して 7 e3の代わりに 7 Rc1とするのはこのためである。黒が 7...Bf5と「してしまった」ときだけ、あえて 8 e3とする。しかし、実戦的にこの変化で黒はほとんど困難に見舞われてこなかった。a6のポーンは実に有益だと分かってきたのだ。標準のスラブ手順で ...a6と指す黒が、白が 3 Nf3 Nf6 4 Nc3 a6 5 cxd5 cxd5のような手順でd5での交換をしたとき、この変化に移行しているという点で ...a6変化は特に意義深い。
 同様に新しく、おそらくさらに驚くべき大胆な突撃は 6...Ne4である。黒は対称性を打ち破り、7 e3 Nxc3 8 bxc3 g6と続けようとしている。この変化は危険な要素を含んでいるが、白は最低でも主導権を求めて戦わねばならず、それゆえ気楽なドローを目指している相手に は最適な選択肢となるだろう。
 
3 Nf3(図)

図(黒番)

 この手で主変化の領域へ入っていく。白は中央の緊張を解決せず、...dxc4とされる可能性を気にせず大胆にナイトを繰り出した。興味深いことに、こ の判断は長い間実践的に当然のことと見なされ、1990代になってやっと議論の対象となった。それは、突然 3...dxc4がまじめに検討されるようになったからである。ちょうどノートブーム変化(3...e6 4 Nc3 dxc4 ページ参照)のように、黒はその非対称なポーン形に基づいた激しい戦いを目指す。ノートブームと似て、主変化は 4 e3 b5 5 a4 e6 6 axb5 cxb5 7 b3 Bb4+ 8 Bd2 Bxd2+ 9 Nbxd2 a5 10 bxc4 b4と続く。黒は、白に強力な中央のポーンを「背負わせ」つつ、自らはクイーン側に2つの強烈そうなパスポーンを作る。これは近年受け入れられた理論だ が、このスラブの新しい変化にはまだ名前が付いていない。
 しかし、伝統的な手は依然としてしっかり残っている。
3...Nf6
 ここで白には 4 cxd5として結局エクスチェンジ変化へ向かう選択肢がある。4 e3は慎重で悪くないが、黒が 4...Bf4(4...a6もあり)後にやや指しやすいと考えられている。あるいは、c4のポーンが取られるのを再び無視し、白は最も自然な展開手を指 すこともできる。
4 Nc3(図)

図(黒番)

 伝統的に、スラブの定跡はここから2つの主変化に分かれる。
 4...dxc4で始まるのが一般にスラブ・アクセプテッドと呼ばれ、この定跡の唯一正しい変化と見なす向きが多数である。1935年と1937年のア リョーヒンとエイヴェが対戦した世界選手権のとき、この変化によって初めてスラブに真剣な関心が巻き起こった。以来多くの有名グランドマスターがこれを採 用し、中でも1950年代の世界チャンピオン、ワシリー・スミスロフがおそらく最も著名である。
 4...e6はもう一つの「伝統的」指し手である。この局面は他の手順で生じることも多い。例えば、1 d4 Nf6 2 c4 e6 3 Nf3 d5 4 Nc3 c6. これはセミ=スラブと呼ばれ、クイーンズ・ギャンビット複合定跡が示すべき最も複雑ないくつかの変化の出発点でもある。
 「副変化」のリストは 4...a6(図)で始めるべきだろう。
 
図(白番)

 この手は一見やや愚かに見えるかもしれないが、世界の強豪たちが指し始めて1980年代後半から人気が出始めて以来、2つの伝統的主変化に急速に迫って きた。この変化は、現代チェスに典型的な特徴を多く備えている。挑発的で柔軟で、一見したところそうは見えないかもしれないが、堅実な{陣形的/ポジショ ナル}原理に基づいている。黒は、妥当な 5 e3に対して 5...b5 6 b3から絶好の展開手 6...Bg4とすれば十分満足だが、5...Bg4には 6 Qb3とされる。このまだ幼い変化の理論は急速に成長しつつあり、近年は主に(決してそれだけではないが)必然的な応手 5 c5が注目されている。
 クイーン側ビショップをすぐに活動させる 4...Bf5?!は良くなく、ほとんど指されない。白が 5 cxd5 cxd5 6 Qb3とすれば、望ましい 6...Qb6に対して 7 Nxd5とされるからである。
 最後に 4...g6が考慮されるが、この変化は親戚にあたるシュレヒター変化 3 Nc3 Nf6 4 e3 g6(ページ参照)よりはるかに人気がない。白がまだ e3としていないし、真正シュレヒターでは使えないいくつかの攻撃的選択肢が白にあるからである。特に 5 cxd5 cxd5 6 Bf4となると、白に全く問題がないと考えられている。

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posted by 水野優 at 12:14| Comment(3) | チェス(洋書評 序盤) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
誤訳だらけですが。
Posted by 西村裕之 at 2010年02月27日 03:18
初めまして。
入門書を読み終わったばかりの初心者が対象とですと、
1、2手進めるごとに図を載せて欲しいのですが、
文章中に棋譜だけがずらずら並んでいると読みこなせるかが心配です。
Posted by はし at 2010年02月28日 10:27
はしさん、初めまして。

 本書は変化手順の寄り道解説が長いので主変化に対しては図が多い方だと思いますが、細かい変化から駒を動かして主変化にもどすときに一手ごとの図がないとたいへんでしょうね。PCソフト上で動かせば何とかなるとは思うのですが。

 さらに翻訳を進めていると、内容的にも1500ないと難しいような解説があるので他の本もまだ探しています。また紹介記事を書く予定です。
Posted by 水野優 at 2010年02月28日 15:37
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