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2010年02月16日

中村紘子『チャイコフスキー・コンクール』書評

 5年前に古本屋で100円で見かけて買って読んだ。書評のために読み直す気はないので、メモ書きを頼りに書く。ここまでして書評するのは、図書館にある ような本は引っ越し前に減らしたいからで、買うしかない洋書や手元にないと困る楽譜やレファレンスだけにするのが理想だ。
 一般人には縁遠い音楽コンクールの実情だが、生半可な音楽ファンにとっても謎の世界だ。著者が同コンクール審査員として見た裏話を披露している。実力よ り将来性を評価するといったありきたりな話からマニアックな話題まで、古今東西音楽事情等、今読んでもおもしろい内容だと思う。

 今さら詳細には立ち入らないが、序文から音楽評論家ハロルド・ショーンバーグが出てくる。この人はチェスにも造詣が深いので名前を見る機会が多い が、来日時に著者が案内人になって一緒にコンサートを聴いたりしている。そのときに彼がプログラムの紙にミッキーマウスの絵を描いて渡してきたとい う話を読んで、彼が自分のチェスの本で書いているフィッシャーの似顔絵を連想した。
 彼がピアニストについて書いた本でグールドの話の引き合いにフィッシャーが出てくる。本ブログでも触れたことがあるが、もうすぐ(?)出版予定の『ボ ビー・フィッシャーを探して』の解説部分で引用している。ちなみに著者もグールドに少し言及している。NHKのピアノ番組講師のときにも、演奏時の正しい 姿勢 を説明するときにわざわざ悪い例のグールドを持ち出したくらいで、気になるピアニストではあるのだろう。

 チェス以外にもと言うと変だが、ソ連の音楽家支援体制もすごかった。そのわりには期待が大きすぎるのか同コンクールでのソ連聴衆は同胞に厳 し かったという。第1回優勝者が冷戦宿敵アメリカのヴァン・クライバーンだったのはそのせいかもしれない。この名前は先日、辻井伸行が優勝したコンクール名 として聞いた人も多いだろう。
 クライバーンはその後演奏活動に忙殺されすぎてキャリアを棒に振った悲劇のピアニストとなる。これをきっかけに、当たり前のことだが、演奏家はコンクー ル後の方が大事で、周りが堅実に支援する体制が生まれていく。こういうコンクール騒動をいちばんばかばかしく思ったのはグールドで、クライバーン騒動は彼 の ライブ引退に大きく影響したのではないか。

 とはいっても、コンクールだけが人生さというピアニストは多く、著者によると彼らはプロフェッショナル・ファイナリストと呼ばれる。コンクールが多すぎ て、つまり優勝者も多すぎるゆえの「弾く場を求める永遠のアマチュア・ピアニスト」なのだ。
 「のだめカーンタービレ」でもコンクールの厳しい現実が出てくる。実際、無名のコンクールで1回入賞するくらいでは、箸にも棒にもかからないのだろう。

 失礼な話だが、著者がこれほど文章が書ける人とは思わなかった。何となく世界へ羽ばたいた初の日本女性ピアニストというアイドル的イメージを抱いていた から だろう。私も中学の頃クラシックのLPを買ったときに著者のポスターをもらったことがある。彼女の演奏ではないが。
 着物を着て座敷に置いた足がないグランドピアノを弾いてくれと言われ、「ペダルがないと弾けません」と断ると、「あれはやっぱり必要なん ですか」と言われたという笑い話もある。私が読んだのはハードカバーだが、今の文庫版には吉田秀和の解説が付いている。それが気になる。

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posted by 水野優 at 11:21| Comment(0) | Classical Music | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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