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2006年02月10日

スマリヤン著野崎訳『シャーロック・ホームズのチェスミステリー』

 最近3日に1度くらい急にXPが再起動するのでブログの下書きとHPページは、ヒヤヒヤしながらこまめに上書き保存しながら書いている。原因のレポート は「ウィルスセキュリティ」のK7エンジンやデバイスドライバと一定しないのでどうしようもない。XPのアップデートは自動でやっているのだが。
 先日は「シフトキーを8秒以上連続で押されたので…」というメッセージが初めて出て、何だそりゃと「キャンセル」を押したら、以後マウスクリックでカー ソルからクリックポイントまでが反転表示になるモードになり、作業にならないので再起動するしかなくなった。なんでこんなおせっかいな機能があるのだ ろう。
 ちなみにhtml文書は全部ネスケのコンポーザーで作っている。いろいろ不満はあるが、フリーだし、下カーソルを押し続けるだけで最終文字までカーソル が来るのがいい。意外とWordなどでは対応してない機能である。


 レイモンド・スマリヤン著、野崎明弘訳『シャーロック・ホームズのチェスミステリー』(207ページ、'98年、毎日コ ミュニケーションズ)である。'79年出版の原著"The Chess Mysteries of Sherlock Holmes"を私が大阪の紀伊国屋で偶然見つけたのが'87年で、それから10年以上たってまさか和訳が出るとは思わなかった。
 原著によって「逆解析プロブレム」の世界を初めて知らされた。買った帰りの車中で表紙の「白黒それぞれの最終手を当てる」簡単な問題をながめてもたしか 解けなかった と思う。チェスを始めて2年の頃、普通のプロブレムにあまり関心がなかった私も、これにはすっかり参ってしまった。

 タイトルから分かるように、名探偵ホームズが実はプロブレムを解く名手でもあったという設定で始まる。それも通常の「未来」を読むプロブレムではなく、 ホームズらしく盤上に残された手がかりを元にそのゲームの「過去」を暴いていく。本家同様ワトスンの回想という形で進行する。
 ホームズに指南されても飲み込みが悪いワトスンはやはりホームズの引き立て役に甘んじ、さながら出来の悪い読者代表である。脇には、ハドソン夫人から宿 敵モリ アーティ教授まで登場し、何とモリアーティはホームズをしのぐ「逆解析プロブレム」の名人だった!

 この翻訳が出たときは忘れもしない。毎日コミュニケーションズのチェスのシリーズ企画などつゆ知らず、翻訳学校へ通っていた。訳者は『ゲーデル・エッ シャー・バッハ』の共訳で日本翻訳文化賞を取っただけあって、『天才スマリヤンのパラドックス人生』の高橋昌一郎よりはずっとうまくて正直ほっとする。
 それでもすでに読んだ原著が手元にあるとなると気になるのは訳のことばかりで、一般読者には十分の水準かもしれないが、私にはまだまだ直訳調を中心に粗 が目立つ。特に会話処理だが、ワトスンを中心にイギリス紳士らしからぬ、くだけた軽い口調がなじまない。敬語も使ったり使わなかったりと不安定だ。

目次
第1部 チェス盤の前のシャーロック・ホームズ
 どちらが白?
 すてきな変奏曲
 小さな練習曲
 駒の色は?
 もうひとつの単色問題
 生き残りの問題
 なくなった駒の謎
 入城はできません。そうでしょう?
 2つの小曲
 レジナルド卿の戯れ
 お返しの訪問
 マイクロフトの問題
 位置の問題
 「過去を知るには」
 虚の王手の研究
 未解決の問題

 「逆解析プロブレム」は、過去の手順を当てるだけではなくいろいろなヴァリエーションがある。タイトルのようにそれが音楽にたとえられたりしている。実 戦のゲームでこんな問題になる局面ばっかり出てくるわけないと言ってしまえば身もふたもないが、ホームズ自身も最初に実戦ではめったに起こらないと言って いる(笑。
 用語訳は王手や入城等、徹底した漢語だが、「虚の王手」imaginary check、あり得ないはずだったチェックの訳は、imaginary number「虚数」にちなんだ名訳だと思う。第1部タイトル「チェス盤の前の〜」at the Chessboardについて言わせてもらうと、私なら「チェス盤に向かうシャーロック・ホームズ」とする。

 「未解決の問題」では、実戦主義者にも見逃せない問題が出てくる。以下の局面で、改正前のルールなら1手メイトだというのだ。実戦で生じたこの問題のせ いであいまいだったルールが改正されたという話はどこまで真実か分からないが、解答がお分かりだろうか?

  a b c d e f g h  
 8   8 
 7   7 
 6   6 
 5   5 
 4   4 
 3   3 
 2   2 
 1   1 
  a b c d e f g h  

 解答は、1 b8=「黒の」N#!!! 現行のルールでは相手の駒になることはできない。以前のルールでは、それが厳密に言うと抜け道になっていた。話は、相手がポーンが昇格したルックでキャス リングができるかにまで及ぶ。

第2部 マーストンの島で
 船の上で
 インディアン・チェスの謎
 位置についての新しい問題
 ホームズ、議論を終わらせる
 落ちたポーン事件
 どこから?
 むずかしい?
 論理学者の考え方
 昇格の問題
 過去の影
 ある恐ろしい思い出
 ズレたビショップ
 すばらしい単色問題
 アシュレー夫人の問題
 ちょっと煙に巻く
 マーストンの島で
 ホームズの説明
 エピローグ
付録●モリアーティの問題と解答
   あとがき
   ※チェスのルールについて

 第2部はマーストンの島に眠る宝探しの冒険談が展開する。宝のありかを示す地図がもちろんプロブレムになっている。そしてちらつくモリアーティの影…。 モリアーティ作という背景までリアルに設定されたスマリヤンの超難問が巻末に10題おまけに収められている。
 「論理学者の考え方」はスマリヤンらしい論理パズルに脱線するコーヒーブレークである。宝の地図解読に必要な本『アラビアン・ナイト』が実はもう一つの スマリアンの「逆解析プロブレム」本に関連しているのがおもしろい。私も当時注文していればこれも買えたのだが。

 「あとがき」によると、訳者が若島、松田編集委員以外にスマリヤン自身ともやり取りをしたそうである。「ホームズファンが抵抗を感じないように」という 編集者の助言はもっともで、スマリヤンのせいで明るいホームズになったという訳者の言い訳にはちょっと納得できない。
 ホームズがワトスンを「坊や」my boyと呼ぶ、学者さんの台詞訳を責めるのは酷だが、訳者が正確だと模範にした深町眞理子訳はどうだろう。本文でもスマリヤンがルイス・キャロルから引用 しているが、「あとがき」の最初でも、ホームズが大笑いなどしない例として『サセックスの吸血鬼』の冒頭が引用されている。

Sir Conan Doyle:The Original Illustrated 'STRAND' Sherlock Holmes p.1015
HOLMES had read carefully a note which the last post had brought him. Then, with the dry chuckle which was his nearest approach to a laugh, he tossed it over to me.
深町眞理子訳:創元推理文庫 p.174
 ホームズは、最終便で届いた手紙のひとつに注意ぶかく目を通していた。そのうち、乾いたくすくす笑いをもらすと−彼としては、これがいちばん声を立てて 笑うのに近いのだが−その手紙を私のほうへほうってよこした。

 「笑うのに近い」という直訳に引っかかるが、私もこれよりいい表現がすぐに出てこない。本書がシャーロキアンにどう受け入れられたかも興味深いが、チェ スが分からないとちんぷんかんぷんなのは間違いない。チェスファンならたいてい理屈っぽいから、解かずに読むだけでも誰もが楽しめると思うのだが。
 表紙を初めとするイラストはピノー本でおなじみのTakako Pineauさんだから、ピノーさんがホームズになったようにも見える(笑。冗談問題でホームズが逆にしてやられるスマリヤンらしい趣向も楽しい。詳しい ことは知らないが、演繹推論チェスではコンピュータは人間に永久に勝てないのではないだろうか。
シャーロック・ホームズのチェスミステリー
4895636798レイモンド スマリヤン Raymond Smullyan 野崎 昭弘

毎日コミュニケーションズ 1998-03
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starこんなチェスもあったんだ。

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posted by 水野優 at 17:04| Comment(0) | チェス(和書評) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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