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2006年01月26日

フォックス&ジェイムズ若島訳『完全チェス読本3』

 『いけないチェスの指し方』の一昨日アップした訳が納得いかない。ideaが多義的に使われていて、(局面の)イメージ〜考え方〜計画〜作戦 の4段階くらいのニュアンス差を場面によって感じる。訳し分けて流れを損ねると読者も戸惑うからできるだけ一つに統一したいが、まさか全部 を「アイデア」にはできない。
 原著者ズノスコ=ボロフスキーの名前を「ユージン」としてきたが、以下の本でやっと気付いて直した。Eugeneはドイツ語ならオイゲン、ロシア 語ではエフゲニー、同じ綴りでこうも違う。全部有名な指揮者の名前にあり、ユージン・オーマンディーがハンガリー人だから何となくそれでいいと思ってい たが、Euをユーと読むのは思いっきり英語だった(汗。


 マイク・フォックス&リチャード・ジェイムズ著、若島正訳『完全チェス 読本3 盤上盤外こぼれ話 チェスを指した犬から謎のプロブレムまで』、やっと最後の第3巻である。1と同傾向ながら、バカバカしさをさらに追求した全巻中の最高傑作である。その分 訳者も消化不良で分かりにくくもあるのだが。

目次
 ★用語解説
 ★表記法
恐怖
変則チェス
禁手
驚異
奇怪
無人島チェス
 ★参考文献
 ★人名索引
訳者あとがき

 「恐怖」は、「どん底の話である。最大のポカ、最短の負け、最弱のチーム、最悪の大会成績など。…最も愚劣な助言、最悪の棋譜解説、最もくだらないオー プニング定跡や、その他もろもろの大失敗…」と始まる。「最」の字がいくらあっても足りないくらいである。
 「26個のお饅頭(26敗)」や「自滅流」など、声を出して笑ってしまうほどの内容と表現がおもしろい。これはやはり原著自体がいかれているのだ。も ちろん、ミニチュアゲームの多くは有名だからすでに知っていたし、カルポフの序盤でかまされたフォークは、当時どの雑誌でも見ていたのだが。

 自分も時間切れが多かったので、ゼミッシュの同大会13個の時間切れ負けは同情する。「1 c4 1-0」等の超短局シリーズは独特の世界観を物語る。コルチノイが審判にキャスリングの規則を聞いた話は、松田さんの著書にもあったが、一般人にも分かり やす いから「トリビアの泉」に採用されるには最適かもしれない。

 ナレーション:「ゲーム中、審判に駒の動かし方を聞いたチェス選手がいる」
 へえ〜 へえ〜 へえ〜
 八嶋智人:「では、こちらのVTRをご覧ください」
 ○井○代○:「はい、たしかに、ゲーム中に、審判に駒の動かし方を聞いたチェス選手がいます。それはヴィクトル・コルチノイという選手で、このことはこ の『完全チェス読本3』にも書かれています」
 ナレーション:「チェスに関するトリビア本『完全チェス読本3』によると、『コルチノイは主審のところにゆっくりとやっ てきて、初心者がよくやる質問をした。「ルークに取りが掛かっているときにキャスリングはできるのか?」』」
 へえ〜 へえ〜 へえ〜
 八嶋智人:「キャスリングというルールは、どのチェスの入門書にも書いてある基本的な駒の動かし方ですが、ど忘れしたコルチノイ選手は後にこう語ってい ます。『こんなことは実戦で初めてだったもので』」
 へえ〜 へえ〜 へえ〜
 八嶋智人:「なお、コルチノイ選手は、世界チャンピオンの挑戦者になったこともある強豪です」
 へえ〜 へえ〜 へえ〜
 高橋克実:「私はキャスリングより、この番組のキャスティングの方が気になります」

 「最悪のオープニング」にされているアイルランド・ギャンビット(1 e4 e5 2 Nf3 Nc6 3 Nxe5?)だが、これはChessvilleに大真面目な分析があってバカにできない。早指しなら使えそうにも思えてくる。イバネス博士の「最悪の精神 分析」はファイン博士よりひどい(笑。
 「最も退屈な一戦」は、私も「マスターズ」で触れているチェスクロックがなかった頃の1851年ロンドン大会でのゲームだ。いずれもっと詳しく紹介 したい。「最悪のポカ」は、理由を聞いても釈然としないものがあるが、1 e4 d5 2 exd5 Qxd5 3 Ke2?? Qe4#に関しては理由を聞いてやっと納得できた。

 「変則チェス」は、ルール、駒、盤等が違うチェスの解説や実戦集で、他の各種ボードゲームも一緒くたに含めて概説している。
 「禁手」は、「最悪の醜い場面のコレクション」で、カムスキーの毒入りジュース事件や郵便戦で女子チャンプになった男子学生の話はすでに知っていた。ペ トロシ アン夫人の厚かましさぶりは「あげまん」どころではない。横にあった塩のビンを駒の代わりに使ってごまかす話はさすがに眉唾過ぎる。

 「驚異」は珍しい記録集、「奇怪」は今までのどれにもあてはまらないよた話だ。フィッシャー語録では、彼の「品がない」という発言ほど説得力がないもの はない。プレーヤーの趣味に関しては第1巻と内容が重複する。カルポフの好きな音楽ジェームズ・ラスト楽団(最も地味なイージーリスニング)は似合いすぎ (笑。
 デシャペルが栽培したものを私はカボチャとしたが、本書ではメロンだ。pumpkinの語源はメロンだが、ネタ本のどちらが正しいのやら。猿プレー ヤー、郵便戦の葉書をスパイ暗号と思われたシュタイニッツ、霊界のプレーヤーと指すコルチノイもぶっ飛んでいる。トーレの名局が贋作と判明したのは残念 だ。

 「無人島チェス」は、主に変わったプロブレムのコレクションで、主旨はかなりまともだ。ナイトツアーのコツでメイソンの"The Principles of Chess"を引用していて、私は持っているのに知らなかった。参考文献で挙げられている本をもっと手に入れたいなあ。


 もう発音は気にしないつもりだったが、パッハパンがp.183「パックマン」になったりと、若島さんのドイツ語はどうもおかしい。p.29「ポーン1 枚」や p.91「紐付き」等の将棋的表現もちょっと浮いている。逆にp.58「K1」も、英米式記譜法の説明がないのだから不親切だろう。
 第1巻とともに、駄洒落の処理や本巻では誤植ネタまでうまく日本語に移植しているが、p.61の「ライアル・オーパス」が何とか・オープニングの間違い らしいが分からない。p.105の「19手」は原文と照らし合わせて間違いと確認したことがあるが、正着を忘れた(汗。

 p.107ブラックバーンのあだ名Black Deathが東公平と同じく「黒死病」と訳されているが、私は「マスターズ」であえて「黒い死神」とした。いろいろ理由はあるが、この方が格好いい。本人 自ら黒死病なら「お前こそもう死んでいる」ではないか。しかし、シュタイニッツと同じくけんかっ早いのは意外だった。
 p.122「76倍」はどう考えても何かの間違いだ。p.156最初のオランダ語とスウェーデン語の用語は、オチが少なくとも訳文では分からない。ああ 疲れ た。もう当分チェスの和書レビューはやりたくない。
完全チェス読本〈3〉盤上盤外こぼれ話―チェスを指した犬から謎のプロブレムまで
4839900116 マイク フォックス リチャード ジェイムズ Mike Fox

毎日コミュニケーションズ 1998-09
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posted by 水野優 at 16:52| Comment(0) | チェス(和書評) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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