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2006年01月18日

フォックス&ジェイムズ若島訳『完全チェス読本2』

 昨日の「N'sあおい」もおもしろかった。昼は「白い巨塔」の再放送も見てしまう。「タンホイザー序曲」をバックに唐沢寿明が手術のイメトレ(?)をす るシーンは滑稽でさえある。昔の田宮二郎版では弱さも見せた財前は、唐沢版では本人は心底悪くないと思っている。千人助けても一人死なせてとがめ られてはたまらないというわけだ。


 1に続いて、マイク・フォックス&リチャード・ジェイムズ著、松田道弘訳『完全チェス読本2〜偉大なる天才たちの名局 ラスカーからカスパロフまで』(287ページ、'98年、毎日コミュニケーションズ)である。本書は全3巻の中では、普通にすごい記録を集めたいちばんま ともな内容なので、逸話集としてはいちばんおもしろくないとも言える。

目次(その前に著者紹介あり)
 ★用語解説
 ★表記法
最強
 偉大なる天才児たち
 輝ける老友たち
 偉大なるものの伝説
 名局ベスト64
未来
終末?
現代の名局ベスト10 日本語版特別編集
 ★人名索引
 ★オープニング索引
訳者あとがき

 ずいぶん目次があっさりしているのは「名局ベスト64」で100ページほど費やしてるからで、一局につき数個の局面図以外は全くといって解説の ない棋譜の羅列である。名局鑑賞ならもっと優れた本に頼るべきだろう。ショートの世界選手権挑戦でイギリスが湧いていた頃なので、著者のイギリスびいきも 全般に見られる。
 「偉大なる天才児たち」は、タイトルとは裏腹にいきなり「ウルトラ餓鬼」(若島調?)と揶揄されている。今ではあらゆるジャンルで珍しくもなくなった、 日本のマスコミ風に言えば「スーパー小中学生」の特集である。「輝ける老友たち」では二人のラスカーの遠縁説が気になった。

 「偉大なるものの伝説」は、レイティングシステム以前のゲームにさかのぼって過去の名人たちも含めたレイティング最強を決める興味深い試みを紹介し ている。それ以外にも著者の主観で論じており、見方によって最強者は様々に変わる。多人数同時対局等の「曲芸」記録にも触れる。
 「未来」では、フィッシャーの伝記映画製作の話があったことを初めて知った。この話は結局流れてしまったのだろうか。フランスと日本のハーフ、ローチェ に触れて「日本のチェス界に何らかの影響を及ぼさないだろうか」とあるが、ナカムラヒカル同様、日本語を話さない日本人ではだめだろう。

 私的にいちばんおもしろかったのは「終末?」である。からくりチェス人形「トルコ人」が、力織機の発明のきっかけになったことは教科書の産業革命で触れ てもいいほどの話だ。対戦相手に発砲されることもあるというたいへんな「内蔵プレーヤー」は、後にピルズバリーも務めた。
 その後ディープ・ブルーまで続くのだが、1890年にK+RvsKを解くほんとうのロボットが作られていたのは驚きである。他の研究者も理論を実現する ハードウェアがないのが不運だった。チェスコンピュータの歴史は人間プレーヤーの悲哀の歴史でもある。著者はまだ人間に楽観的だが。

 「現代の名局ベスト10」は、カスパロフがディープ・ブルーに破れる2回目のマッチ前で尻切れになった「終末?」を渡井美代子が補足した章である。これ も解説は「名局ベスト64」と同様シンプルだが、私的にはブランクで疎かったカスパロフ以降の動向を補えた(汗。


 またレビューはここまでとするが、1巻の若島さんに比べると松田さんの翻訳はかなり見劣りする。本人の文体を想起させる気の利いた訳語は多いが、構文処 理が今一つである。特に「未来」からへばりが見られる。後ほど調子が出てくる私とは正反対だ。
 発音に関しては、私も'92年に観戦しに行ったオランダのティルブルフ(Tilburg)がティルバーグと混在している。ピルズバリー (Pillsbury)がピルズベリーになるのは慣例的に仕方ないのだろうか。リーヴィ(Levy)は私もレヴィと間違っていた(汗。 他の巻との整合も取ってほしい。

 p.22脚注はつじつまが合わない。p.27「2つの年代」とはいかなる意味か。p.35ミーゼスが1950年にGMになって1948年(誤植?)まで プレーした。オックスフォードのChess Companionが『チェス必携』(笑。「マッチ」と「試合」が混在し、その局数も「○局目」と「○番目」が混在している。
 p.144「模範的なポジショナルによる勝利」ポジショナルは形容詞だ。p.176「フルポイント」全勝でいいだろう。p.181「カルポフは用心深い ミニマリスト」p.182「カスパロフはアグレッシブなマキシミスト」これは単に身長のことではなかろうか。p.205「タタール人だけあってたたりが」 ここだけ原文を確認したかった(笑。

 いずれにせよ、どう調べても疑問が残るところは原著者にメールで問い合わせるくらいはしてほしい。こんなマニアックな本をさほどチェスに人気がない極東 のかなたで訳す者に、感謝こそすれ面倒くさいなどとは絶対思わないはずだから。
完全チェス読本〈2〉偉大なる天才たちの名局 ラスカーからカスパロフまで
4839900108 マイク フォックス リチャード ジェイムズ Mike Fox

毎日コミュニケーションズ 1998-09
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posted by 水野優 at 15:25| Comment(13) | チェス(和書評) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>フランスと日本のハーフ、ローチェに触れて「日本のチェス界に何らかの影響を及ぼさないだろうか」とあるが、ナカムラヒカル同様、日本語を話さない日本人ではだめだろう。

1.私は、「ハーフ」ではなくて、極力、「ダブル」と言うようにしております。

2.ローチェは明らかに羽生氏に強い影響を与えています。羽生氏が将棋の傍らですが、チェスの国際大会に出続けているのも、ローチェの影響が大きいと思いますよ。
でも、それは、あくまで羽生氏個人の「問題」でして、羽生氏がIMタイトルを取れたとしても、「将棋棋士がチェスで金星!」なんて記事で簡単に報道されるだけかも。

やはり、「日本のチェス界」が成熟してないことが一番の問題。
1)こてこての日本人名、こてこての日本人姿(?)のGM,ヒカル・ナカムラ君を来日させることが出来ないって、一体何故?
「ヒカルのチェス」という、こてこてのタイトルも付けらるのに!
2)日本でチェスの国際大会を開催することがかなりのチェスの宣伝・普及になる。
将棋や囲碁のプロ棋士の試合とは全く違う競技形態は、多くの盤上競技ファンに「ショック」を与えるだろう。
 国内クラブの主催者達が場所取り等で苦労しているのは承知しているけど、「公民館の一室でのチェス大会」では、「チェスの普及」に未来はないと思う。
なぜなら、結局「知っている人だけの小さな世界だけのチェス」は、一般人にとっては「見えない世界」だから。

松戸チェスクラブの掲示板に、最近の小説やTV番組にチェスのシーンが出ているとありますが、それだけ「チェスのシンパ」が世の中にいることを示しています。
 そのような「隠れ?チェスファン」にとって、日本国内での国際チェス競技会(10人総当り)は直接目にすることの出来る興味深いイベントとなり、また、チェス普及を促進させるるのにも大いに貢献すると思います。

以上、長々と失礼しました。




 
Posted by Kere65 at 2006年01月18日 22:39
'92年のティルブルフって、アダムズが優勝したやつですか?いいなあー。
Posted by maro_chronicon at 2006年01月19日 01:01
 どもです。
 ブログ記事の後、コメントレスも長々と書いていたら急にXPが再起動してくじけました(汗。
 とにかく私は将来もっとおいしい話がないかぎりはチェス書の翻訳を続けていきます。仕事でやってる連中よりうまく訳す意地や、金でしか動かない奴へのあてつけでもあります。

 優勝カスパロフでした。'91年かなあ。
Posted by 水野優 at 2006年01月19日 16:56
完全チェス読本(2)、アマゾンの最低中古価格2400円と出てます。
他は皆5000円以上、7000円もある、しっかりとチェスファンの足元見てる感じ?
2400円は良心的というか、まーチェス本持ってても仕方ない人には、その位の価値かなー?

ただいま、当方金欠病。
完全チェス読本3巻セットで1万円(送料別)で譲ると言ったら、欲しいと言う人どれ位いるかなー??(足元見てる??)
Posted by Keres65 at 2006年01月19日 21:03
91年の10月から11月のが、優勝カスパロフ、二位ショート、三位アナンドです。きっとそれですね。
Posted by maro_chronicon at 2006年01月19日 21:24
 引っ越し前に近くのBook-Offに何巻かがあったなあ。そういうところにあれば半額くらいですからねえ。それでも買わない私(汗。
Posted by 水野優 at 2006年01月19日 21:25
 うわ、寸前にmaroさんが(笑。
 それです。8人だけでもカテゴリー17ですかね。豪華でした。片田舎であんな大会があるヨーロッパはいいなあ。
Posted by 水野優 at 2006年01月19日 21:29
Book−Off恐るべし!
有る所には有るということですね(当たり前!)。
機械的買い入れ、機械的販売がモットー?なので売値は書店売価の半額でしょうか。
あのすし屋か魚屋さんを連想させる大声の「いらっしゃいませー」は全国共通なのだろうか?
あんまり好きじゃないけど。

コメント内スレッドが必要??
Posted by Keres65 at 2006年01月19日 22:05
久々に書き込みます。

ブックオフはいろいろめっけもんがあります。通常の古本界の相場とは無関係なので、貴重本が安かったり。

むかし大阪豊中市にいたころ、駅近くに3F立てのブックオフがあってよく行きました。E・H・カーの『ロシア革命史』全三巻(みすず書房)を100円コーナーに見つけたときは驚きました。結局買わないうちに売れてしまっていたみたいで、今考えるとちょっと惜しかった。
Posted by kanedaitsuki at 2006年01月20日 12:34
 今年はコメントが少ないと思ってたら掲示板がいるほどになってうれしい。
 105円であればさすがに私も買っただろうなあ。売るなら小さな古本屋がいいですけどね(笑。
 テレ東のビジネス番組だったかで、アメリカへの進出をやってましたが、日本で洋書専門店出してくれ〜(無理>ブックオフ
Posted by 水野優 at 2006年01月20日 17:15
> p.181「カルポフは用心深いミニマリスト」
> p.182「カスパロフはアグレッシブなマキシミスト」
> これは単に身長のことではなかろうか。

最近、Chessmasterのゲーム集のpgnファイルを見ていて以下のようなコメントを見つけました。

「Garry Kasparov once suggested that Grandmasters could be divided into "maximalists" and "minimalists" --
those who try to find the best move in every position, and those who economize their time and effort to achieve the best tournament standing. 」

少し検索してみたら、以下の記事などがありました。
(http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9C0CE5DE1630F93BA35753C1A966958260)

いくつかの記事で使われている用語のようです。
Posted by K at 2007年10月20日 19:47
上のコメント中のURLの最後の括弧はURLのものではありません。申し訳ありません。

http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9C0CE5DE1630F93BA35753C1A966958260
Posted by K at 2007年10月20日 19:54
 ご指摘ありがとうございます。我ながらいいかげんな書評をしていました(汗。
 URL先の資料でも分かりましたが、min-max法とかから類推しても気付きそうなものでした。K-Kほどこの対照性が取りざたされたライバルもいないでしょうし…。英単語として辞書を引くことすらさぼっていたのは、それ以前の問題ですが。
Posted by 水野優 at 2007年10月21日 12:47
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