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2006年01月15日

マスターズ第14回:黒い死神−ブラックバーン

 毎週見る教養系テレビ番組でいちばん楽しみにしているのがテレ東の「美の巨人たち」だ。昨日はイギリスの風刺画家ウィリア ム・ホガースで、いつもながらの独特の切り口が特におもしろかった。ホガースの連作版画「放送息子一代記」を大岡越前が徳川吉宗に説明しながら1枚ずつ順 に見せていくのである。
 もちろん鎖国中だし(最近異論があるようだが)そんな可能性はないはずだが、18世紀のイギリスに意外な闇を見た吉宗が「今からこの悪党を成敗に行く」 と言いだして越前が止めたり、「お上の悪行をこれほどリアルに描く絵師がいるとは」と恐れおののく演出で楽しませてくれた。


 スタントンに続くイギリスの世代には、歴史書を著したヘンリー・トーマ ス・バックル、レヴェレンド・ジョージ・マクドネル、アメリカへ移住したジョージ・マッケンジー、そして超ロマン派の会計士で『大英帝国鉄道分析』を著したヘン リー・バード(1830-1908)がいる。
 今も使われるバード・オープニング(1 f4)の考案者である(シャトランジの頃から指されてはいるが)。ドイツのマスター、リヒャルト・タイヒマンはこう語っている。「彼の健康と同じで絶好調と絶不調の繰り返し。イ ギリスにはもうバードのようなプレーヤーは出てこないだろう」
 1886年から1912年にかけて活躍したエイモス・バーンは、 1898年にケルンで世界最強のシュタイニッツ、チゴリン、シュレヒターらを抑えて優勝した。

 しかし、その中でもスタントン後のイギリスを代表するのは、ジョーゼフ・ヘンリー・ブ ラックバーン(1841-1924)である。国際大会で恐れられた彼は「黒い死神」と呼ばれるようになった。黒いあごひげと威嚇的な風貌、闘争心、そし てもちろん名前に「ブラック」が入っているからでもある。
 同時代のプレーヤーとは違い、賞金目当てに可能なかぎり大会に参加する完全な職業プ レーヤーだった。1914年のサンクト・ペテルブルグ大会まで52年 もの長きにわたり、国際大会で活躍し続けた。長身でパワフル、社交的でグルメで冒険好きといった性格も彼の伝説に一役買っている。

 1881年冬のベルリン大会では、パウルセン、ウィナウアー、ツ カートルト、チゴリンを抑えて優勝する。目隠し対局も得意で、同時に16局まで指すことができた。何もない(ように見える)ところから致命的なコンビネーションを生み出す狡猾な悪魔だった。
 正装で同時対局をした階級意識の強いスタントンと違い、古着を着たブラックバーンは相手と冗 談を言い合うほどきさくで穏やかな人柄だった。「巨人」 「鉄の神経」とも呼ばれ、1899年までで、少なく見積もってもすで に5万局を指していたという。

 世紀の変わり目のインタビューでこう語っている。「ウィスキーは頭 の活動にいいことが分かった。特に厳しく長い激戦にはな。他のプレーヤーはワインや蒸留酒を飲んどるようだが、わしは指すときに1,2杯やっとるよ」。こ れがイギリスの飲み屋で永久にただにしてもらえるためというが立っ て問題になった。
 禁酒同盟は憤慨し、ブラックバーンの仲間からも恥知らずの声が上が る。そして、アメリカのハートフォードの『タイムズ』紙が、「ラス カー、ピルズバ リー、タラッシュらが重大な対局を前にしてウィスキーをすすっているのは、見たことがない」と書くことで事なきを得るのだった。

 ブラックバーンのエキサイティングなゲームの中でもとびきりの一つは、1889年ニュー ヨークでのエイモス・バーン戦である。

バーン−ブラックバーン

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.O-O d6 5.d4 exd4 6.Nxd4 Bd7 7.Nc3 Be7 8.Be3 O-O 9.Be2 Re8 10.Bf3 Bf8 11.Bg5 h6 12.Bc1 g5 13.g3 Nxd4 14.Qxd4 Bg7 15.Qd1 Bc6 16.Re1 Qd7 17.Bg2 Re7 18.Qd3 Rae8 19.Bd2 Ng4 20.f3 Ne5 21.Qf1 d5 22.Rad1 dxe4 23.Bxg5









4r1k1/pppqrpb1/2b4p/4n1B1/4p3/2N2PP1/PPP3BP/3RRQK1 b - - 0 23

23... exf3 24.Bh1 Nd3 25.Rxe7 Bd4+ 26.Be3 Rxe7 27.Qxd3 Rxe3 28.Qxd4 Re1+ 29.Kf2 Qxd4+ 30.Rxd4 Rxh1 31.h4 Rc1 32.Ne4 Rxc2+ 33.Kxf3 f5 0-1

 いつの時代もチェスの花形クイーン・サクリファイスは、グランドマ スター級となるとなおさらである。クイーンを取ると白にとって致命的となる。黒の23手目 でナイトも浮くが、これをルックで取っても白は壊滅する。シュタイニッツは「巧妙で輝かしい名人ならではの一撃」と評した。ブラックバーンが「黒い死神」 と呼ばれたのは当然と言えるだろう。
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posted by 水野優 at 15:37| Comment(0) | マスターズ(チェス近代史) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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